cinemacafe.net より(以下一部抜粋)


>まじめで実直、お酒やたばこなど特に体に悪いこともしてこなかった普通の青年・アダム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)が27歳という若さで5年生存率50%というがんを宣告されるところから始まる映画『50/50 フィフティ・フィフティ』。これだけ聞くと、シリアスなヒューマン・ドラマかと思ってしまいますが、何と本作は、アダムの闘病生活と、突然訪れた“非日常”の中で巻き起こるさまざまな騒動をユーモアあふれるタッチで描き、本国アメリカで高い評価を得ているコメディです。がんを題材にしたコメディとは前代未聞ですが、これが妙にリアルで、笑って、泣けて、面白い。それもそのはず、物語の基となっているのは、本作の脚本家で製作総指揮も務めるウィル・レイサーのがん克服体験。そこで、来日したレイサー氏に、映画誕生の裏側について聞いてきました。

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「体調はどうなのかしら?」とちょっと心配しながらインタビュールームに入ってみると、そこにいたのは極めて元気な好青年。すっかり病に打ち勝って、笑顔を見せるレイサーは現在31歳だ。
「映画で描かれているのは6年前の体験にインスパイアされた物語なんだ。映画では主人公は27歳だけれど、僕ががんと宣告されたのは25歳のとき。映画はフィクションだけど、すべて僕が乗り越えてきたことを物語っているんだよ」とレイサー。とはいえ、6時間に及ぶ腫瘍摘出手術も経験した彼だけに、闘病生活をふり返ることは辛い経験であったはず。
「あれ以来、人生は上り調子。6年前は本当に辛かったけどね。厳しい手術も経験したし。脚本を執筆するために、僕は辛い記憶を掘り起こさなければならなかった。でも、自分の体験をふり返りながら1ページ1ページ書き綴り、自分の経験を通してもうひとつの世界を創造することで、抑圧されていた感情を解放することもできたと思う。ライティング・セラピーのような効果もあったと思うよ」。

自らの体験から生み出した主人公・アダムは、「いわば僕の分身」なのだとか。「でも、主演のジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)には演技的な自由を持ってもらうことにしたんだ。僕自身に似せてほしいなんてことも言わなかったしね。でも、結局のところ、彼が創造したアダムは、映画を観た僕の家族や友人に言わせるとすごく僕っぽかったらしいんだ。でもそれは、ジョーが自然に役作りをして行き着いた結果。たぶんそれは、僕が描いたキャラクターだから。僕自身が知らないうちに投影されていたんだと思うよ」。

ジョセフとは、映画を通して仲良くなり、共通点も多く見つかったというレイサー。
「でも、ジョーはアダムとは全く違う性格なんだよ。それなのに、彼はまるで私生活でもアダムのような性格なんだろうと思わせるほど、素晴らしい演技をしている。実際に、映画を観た多くの人がそう言っているのを聞いたんだ。素晴らしい才能だよ。キャスティングに満足かって? もちろんさ! 彼だけでなくすべてが夢のキャストだね。僕が望んだ俳優が、全員この映画に出演してくれたんだからね」。

キャストのひとりで主人公の親友・カイルを演じている人気コメディアン、セス・ローゲンも本作における重要人物だ。セスと、本作のもう一人のプロデューサー、エヴァン・ゴールドバーグは、20代前半でイギリスのコメディ番組「Da Ali G Show」を作っていたレイサーの仲間。
「2人は親友で、特にセスは闘病生活中に最も近くにいて励ましてくれたんだ。実はがんの治療中に、この経験を映画化するための脚本を書こうというアイディアが持ち上がった。6年前の2月にがん宣告があって、その5月にはもうそんな話になっていたんだ。パーティを開いていたある夜、映画『最高の人生の見つけ方』の話になって。ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンが演じる二人の老人ががんにかかり、死ぬまでにしておきたいことのリスト=THE BUCKET LIST(『最高の人生の見つけ方』の原題でもある)を作るんだ。それで、みんなが“君のリストは?”って聞くんだよ。そこで気づいたんだけど、みんなが持っているがんのイメージは映画から来たもので、そういった映画の多くはとても憂鬱で、主人公は最後には死んでしまう。実際に僕が経験していることを物語っている作品なんてないんだなと感じたんだ。もちろん、僕の経験だって辛いものだし、悲しいものでもある。劇的なことだってあった。でも、僕らはコメディ・メイカーで、人生を語る表現として“笑い”を用いている。実のところ、当時の僕らには、笑いぐらいしか人生を物語る感情表現法がなかったし。何と言っても、まだ25歳だったからね。そこで、“僕たちは、がんをテーマにした友情コメディをやるしかないな”と思った。それで、“THE FUCKET LIST”と、それを呼ぶことにしたんだ(笑)」。

とはいえ、その時点では冗談のつもりだったというレイサー。
「ところが、その会話の後、映画化に向けて脚本化するアイディアが頭に残ってしまって。それ以外に、僕の経験を人に伝える術を知らなかったし、この方法なら多くの人に知ってもらえるとも思ったんだ。だから、少し回復してきたところで、セスとエヴァンに相談をしたんだ。すると、“いいじゃないか!”と言ってくれた。でも、書き始めるにはそれから1年半かかったね。だって、とにかくあの時期を思い出すのはとても辛かったから。でも、一度書き始めると止まらなかった。すっかり取り憑かれてしまったんだ。当時、TV番組に関わっていたから、朝執筆して、仕事を終えたら夜また書く、そんな日々だったね。たぶん、書き上げるまでに1年半から2年ぐらいはかかったと思うよ」。

がんとコメディという正反対の要素を組み合わせたことで、オリジナリティあふれる物語に仕上がった本作。ユーモアあふれる表現を多用したことで、人生において大切なものは何かというメッセージもより強調されているこの作品を観て感じたのは、人生に笑いは必要なのだということだ。
「辛い時期を過ごしていても、笑いが救いになることもある。これは実際に、今年多くの日本人が経験してきたことでもあると思う。それに、がんをテーマにしたコメディというのは、タブーとされていることに斬り込むためのインスピレーションなんだ。多くの人は、最初僕のアイディアを耳にしたとき『がんについてのコメディなんて絶対に成功しない』と言ったんだ。みんなが攻撃してくるよとね。でも、それは実際に僕に起きたことなんだ。あまりに不条理なことが僕の身に起こりすぎて、そんな日々の中で笑える瞬間がたくさんあったんだ。だから、それについて書く権利が僕にはあると思った。ユーモアは僕があの経験から生き残る術だった。そして、自分の感情を表現する唯一の手段だった。人生にはコントロールできないことが多い。だからって、いつも心配ばかりしながら生きることはできない。辛い時期に、ユーモアが僕を前に押し進めてくれたんだ」。

「もし、映画を観た人が『このテーマに、この笑いは行きすぎでは?』と言ったなら、どう答えるか?」とちょっと意地悪な質問を投げかけてみた。すると、待っていましたとばかりにこんな答えが。
「誰もが自分の意見を持つ自由を持っている。もし、この映画が嫌いだったとしても、この作品のどこが嫌いなのかを語ることが重要なんだ。タブーについて話し合うということがとても有益なんだ。たとえ反対意見を持つ人がいても、この作品をきっかけに議論をしてもらえるなら、僕にとってはこの映画を作って良かったと思える素晴らしい成果のひとつになるよ。それに、僕らはがんという病を笑いものにしているわけではない。人生が機能不全に陥ったときの状況を笑っているんだ。それに対応できずオロオロした自分を笑っている。すべてのジョークは、すべて現実の体験、そして正直さから生まれている。だから脚本を執筆しているときから、ネガティブな反応については心配していなかったよ。もしジョークが面白すぎたとしても、それは真実に過ぎないんだから。そこがとても大切なんだと思う。キャラクターも、すべて真実から生まれたもの。だからもし、この作品が嫌いだったとしても構わないよ」。

でも、ひとつだけお願いがあるのだという。
「これが嫌いだったとしても、それを誰にも語らず、ただ歩き去るのだけはやめてほしいな(笑)。すべての意見に価値があると思うから、できることなら誰かに『なぜ嫌いなのか』を話してほしい。もし、この作品が不適切だと思う人がいるなら、その人の反対意見から僕も何かを学べるはず。賛否があれば、そのいずれからも学ぶところはあるはずだから。とにかく、オープンであることが好きなんだ。コミュニケーションなしに、人は絶対に成長しないと思うからね」。

(text:June Makiguchi)

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