シネマトゥデイ より(以下一部抜粋)
>フランスの気鋭ジル・パケ=ブランネール監督が、タチアナ・ド・ロネ原作のベストセラー小説を映画化した『サラの鍵』について、今もなお世界中で上映が続いているという本作への思い入れや、原作との出会いについて明かした。
映画『サラの鍵』場面写真
『サラの鍵』は、1942年にドイツ軍占領下のパリで起きた大掛かりなユダヤ人迫害「ヴェルディヴ事件」を描いた作品で、フランスが政府ぐるみでこの事件にかかわったという事実を世間に知らしめたジル・パケ=ブランネール監督。原作となるタチアナ・ド・ロネの同名小説を発売後すぐに読んで、そのまま映画化のコンタクトを取ったことがラッキーだったと振り返る。そのかいもあってか、昨年の東京国際映画祭では、最優秀監督賞と観客賞をダブル受賞し、「本当に素晴らしい思い出として僕の心の中に残っているんだ」と目を細めた。同時期にフランスやベルギー、オランダなどで本作が封切られ好評を博していたものの、実際に欧米諸国以外でこの作品が受け入れられるのかと不安もあったという。ところが日本でも観客の反応はすこぶる良く、そのときようやく監督自身もこの作品の世界的な成功を確信したそうだ。
もちろん綿密なリサーチによって書かれた原作も素晴らしく、ベストセラー小説の映画化にプレッシャーはなかったのかと問うと、「なかったね!」と明言。監督いわく、ベストセラー小説の映画化は「もろ刃の剣」。プラス面は、すでに成功を収めた小説の映画化ということで観客を集めやすいこと。マイナス面は、原作を心から愛する読者からの厳しい批評の目にさらされることだと語った。ただ、脚本を書くにあたっては「できるだけ原作に忠実に」「この本の愛読者たちを決して失望させない」ということに心を砕いたのだという。そしてこの歴史的事件を決して安っぽい感動作にはせず、公正に描くことも心掛けたと制作秘話を明かした監督。そのおかげで原作者のお墨付きをもらい、今もなおこの映画は海を渡り各国で上映され続けている。
フランスに定住していたドイツ系ユダヤ人の祖父を、収容所で亡くしたユダヤ系フランス人である監督にとっても、この「ヴェルディヴ事件」は決して人ごとではない。本来ならば人を受け入れる場所ではない屋内競輪場が、突然検挙された多数のユダヤ人たちを何日も収容する場所になったこと自体が間違いで、そのことにも新たな悲劇の発端があると監督は言う。そして「フランス人はよく基本的人権に重きを置く、自由の国だと自国の素晴らしさをアピールするけれど、このときフランス警察が行った非道な行為を知れば、きっと全フランス国民が大きなショックを受けることは間違いないね」と付け加えた。
最後に、これまでの人生で出会った一番勇敢な女性は「祖母」と応えたジル・パケ=ブランネール監督。収容所で夫を亡くし、戦時中から戦後にかけて女手ひとつで3人の子どもを育て上げた祖母こそが、この映画のヒロイン・ジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)のように勇敢で美しい女性だと語る監督の思いを、ぜひとも劇場で受け止めてもらいたい。(取材・文:平野敦子)
映画『サラの鍵』は12月17日より銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開