特筆すべきはそのオープニング映像。


ここまで凝りに凝ったオープニングは久々に見ました。ダニエル・クレイグが出演してるからってわけではないのでしょうが、まるで往年の「007」シリーズみたいな凝りようで惚れ惚れしましたね。その部分のBGMは予告編でも使われていたレッド・ツェッペリンの「移民の歌」で、これがまた超かっこいいんですわ♪ ちなみに選曲の理由は映画を見ていると最後の方で「ああ、それで……」とわかるような仕掛けとなっております。


さて、あまりにも素晴らしいオープニングに心躍り、いやがおうにも作品への期待は高まるばかり……だったのですが、確かにキャスティングは素晴らしいし役者の演技も申し分ないのですが、でもオリジナルのスウェーデン版「ミレニアム」を見て原作も読んでいる身としては、この「ドラゴン・タトゥーの女」はいささか期待はずれに終わってしまいました。


ストーリーラインとしてはこちらの「ドラゴン・タトゥーの女」の方がより原作に近いのです(一カ所だけ、完全に違っている箇所があります)。でもオリジナルのミレニアムに比べると、何か薄いんですよね。それは物語が重厚でなく薄っぺらというのではなく、原作のエッセンスが薄まってしまっているというのに近いです。


それは違うだろ、と思ったのはビュルマン見た時でしたね。オリジナルのビュルマンは一目で虫酸がはしるようなキャラ設定でしたが、ハリウッド版では外見も浮かべている表情も口にする言葉もわりと普通っぽいんですよ。その上原作&オリジナルでは決して口にしないであろうセリフをぽろっと口にする。

本来ビュルマンはリスベットに気づかいなんか見せちゃいかんのですよ。自分のやったことに対して悔恨覚えるようなキャラでもない。原作にあったように、無条件で自分のいいなりになるであろう獲物を見つけたなら徹底的に食い物にし、骨の髄までしゃぶり尽くして後は無造作に捨てるような男がビュルマンです。この糞野郎(失礼!)ぶりを徹底的に描写しておかなければ、次にリスベットが彼に対してなす行為もなし崩し的に薄まってしまいます。毒をもって毒を制す、その毒が強烈であれば強烈であるだけおもしろいのが「ミレニアム」なのに、それが薄まってしまっては魅力に欠けるというものです。コブラ対マングース(マングースに毒はないけど)見に行ったはずが青大将対猫を見ちゃったようなものでしょうか。いや、「ドラゴン・タトゥーの女」だけに竜頭蛇尾? ビュルマンの人となりをソフトにしたことで、リスベットの強烈さまで薄まってしまい、その結果一番肝心な犯人の性格設定までどこか毒気が抜けたものなってましたね。

ビュルマンに代表されるリスベットを貶める男達。彼らは原作およびオリジナルでは男性におけるウーマンヘイティングの代表として描かれているので、彼らの精神性に女性を思いやる気持ちなぞ微塵もありません。これらの男性に対してミッケの存在が完璧な女性の崇拝者であり保護者であるからこそ、このシリーズはおもしろいのであってね、そこが曖昧になっちゃうとミッケの魅力も半減しちゃいます。

ダニエル・クレイグのミカエルはセクシーで頼りがいのある存在ではありましたが、保護者としての側面は感じられませんでした。それ故彼に惹かれるリスベットの気持ちもただの不器用な恋としか見られない。

リスベットは女性を憎む男性を心から憎み彼らの罪に対して報いを受けさせる存在であるが故に、女性にとってある意味非の打ち所のない存在であるミッケにどうしようもない程恋い焦がれても彼を前にしては自分の存在価値を感じられないという矛盾と悲しみを背負っているわけで、そこが女性読者にとっては切ないほど意地らしく可愛い部分なのですが、「ドラゴン・タトゥーの女」ではそこまでの深みを感じられないのですよね。ルーニー・マーラのリスベットがやってることは確かに原作どおりっちゃ原作どおりなのですが、なんとなく並外れて頭がいいだけのただの女の子のようで、オリジナルで
ノオミ・ラパスが演じたリスベットの子どもの頃から周囲によって傷つけられその傷口から絶えず血を流しながら生きてきたかのような底知れぬ怒りと情念は伝わってこないのです。


それだけにこの「ドラゴン・タトゥーの女」みたいなどろどろの情念が渦巻くような作品って実は苦手なんじゃないかなあと思ってしまいました。そういう意味では「ソーシャル・ネットワーク」の方がピッタリだったのではないでしょうか。少なくとも私は「ソーシャル~」の方が好きですね。あの主役、ジェシー・アイゼンバーグが演じた架空のザッカーバーグ、あれが実はフィンチャー監督に近いんじゃないかと思ったりして。


あの架空のザッカーバーグとリスベット、コンピューターの天才で人付き合いが苦手で何かやられたら仕返しするという点でこの二人は似てますが、決定的に違う点があります。それはザッカーバーグは男だけど、リスベットは女だということ。ザッカーバーグは同性によって心を傷つけられただけだけど、リスベットは異性によって心も体も傷つけられたという違いですね。リスベットの場合は単に身体的に傷つけられたという以上に性的に搾取されたというのが一番大きな差異なんですが、どうもこの部分がフィンチャー版には欠けているみたいなんです。リスベットは単に乱暴されたんじゃない、食い物にされたんですよ。その憤怒を表現しなければ、「ミレニアム」の本質は描けないと思うんですが。



「ドラゴン・タトゥーの女」のキャラクターの中で監督に一番近い存在は犯人の方なんじゃないかと思います。犯罪傾向じゃなくて、あの周到で抜け目なくて他人の感情を操りもて遊ぶのが大好きな性格の方ね。そうだとすると、オリジナルに比べてハリウッド版の犯人に対する扱いが妙に甘いのも納得できるような。

映画を見ていると案外


それはまあ、スウェーデンに比べてハリウッドがまだまだ男社会だから男性にとってある程度都合がいいような解釈が脚本になされたからなのかもしれません。男性は自分にウーマンヘイティングの素地があるとは認めないものですから。原作やオリジナルに対して「そんなろくでなしな男ばかりじゃないぜ」でもいいたげな脚本になってたとしても、仕方ないのかも。


とはいえ映像は美しいしキャスティングは贅沢でキャストの演技も素晴らしいことは間違いありません。見て決して損はいたしません。ぜひ劇場でご覧下さい。原作やオリジナル鑑賞がまだの方は、そちらもあわせてどうぞ♪


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どうもフィンチャー監督って人の心の奥底まではあまり踏み込んで表現しないというか、「激情」という域に及んでまで生の感情を見せたがらないというか……そんな傾向が年をおうごとに強くなってる気がします。仮に踏み込んだとしても、役者には「感極まっている感情を押さえ込んで外には見せようとしない演技」をさせてるみたいな