東京独女スタイル( )のご招待で「スーパーチューズデー ~正義を売った日~」の試写会に行ってきました。これはストーリーではなく俳優を語るべき作品。オスカー&GG賞ウィナー&ノミニーが大挙して出演してるの、伊達じゃない。彼らの演技は必見。


オスカーでは脚色賞にノミネートも納得の、蜘蛛の巣の様に緻密な作品。いや、蟻地獄かな? 知らない内に罠にはまってどん底に落とされる恐怖。


監督は出演も兼ねるジョージ・クルーニー。「グッドナイト&グッドラック」同様、正義を貫くことの難しさを語っている。台詞は少なくても雄弁に。


ジョージ・クルーニーは大統領候補役だったけれど、彼以上に「大統領候補」が似合う俳優はまたといまい。「大統領」でも「知事」でもない、「大統領候補」がまさにピッタリ。


主演のライアン・ゴズリングはジョージの風貌をぐっと薄めた感じの二枚目。美形過ぎないので若い頃からいい役に恵まれているのだと思う。「完全犯罪クラブ」で実力保証済み。


フィリップ・シーモア・ホフマンはこないだ見たときゃ「マネー・ボール」で野球の監督にしか見えなかったのに、今日は完全に選挙参謀だったよ。「ツイスター」が懐かしいわ。


私何故か前からポール・ジアマッティが大っ嫌いだったんだけど、この映画以上に彼が嫌いでよかったとつくづく思った作品はありません。出番少ないのにとことんイヤなヤツ!


ジェフリー・ライトも名優で、いろんな役をやってますね。「ものすごくうるさくて~」でも「ミッション8ミニッツ」でも見たけれど、そのどれとも違うタイプの役でした。


マリサ・トメイとエヴァン・レイチェル・ウッドは共に「レスラー」に出ていたけれど劇中全然接点がなかったのだけど、この作品でもそうだったので笑ってしまいました。


着目すべきは名優達が表現する「力関係の変化が及ぼす人間関係の変化」。最初は対等だった関係のはずが、ほんの僅かバランスが崩れただけで豹変するその恐ろしさを味わって。


そういえば「ソーシャル・ネットワーク」にも出ていたマックス・ミンゲラも出ていました。彼はとっても頭がいいのにどこか詰めが甘い感じのする役が似合いますね。


この作品、見方によっては「ソーシャル・ネットワーク」と同様なテーマと受け取れる部分もあります。「成功を手に入れた代わりに彼が失ったものは……」的な。


「ソーシャル~」同様、ストーリーラインだけ追えばそういう結論になるんだけど、でも監督が本当に描きたかったのはそこじゃないと思うんですよね。


この作品も「ソーシャル~」も描いているのはきっとアメリカの縮図なんですよね。それも、男性同士の力関係で彼らの属するコミュニティーにおける順位が決まってるような。


で、どちらの作品でも主人公は知能はそのコミュニティーで一番高いのにコミュニティーにおける順位が低いためにワリをくったと思い、その巻き返しをはかるわけです。


そう書いてしまうと「猿の惑星」でシーザー(猿)がやったこともそうなんだけどさ、猿の方は社会が単純だから下克上は単に力でねじ伏せるだけですむので分かりやすいのね。


猿に比べると人間の社会は複雑で順位というか序列を決めるのにもそれぞれ違った価値観があるから難しいですが、男が最後まで守ろうとするのは信念よりも体面みたいです。


でもそれは普通は映画では描かれない。真実はミもフタもなくて美しくないから。そこに切り込んだという意味でこの作品には意味があるのでしょう。


ちなみに米大統領選に関して何も知識がなかったとしても分かりやすいように作られているので、鑑賞には何の問題もありません。脚本がよくできているのでサスペンスフルです。


「ソーシャル~」と同様、主人公の行為は自分が「不当な扱いを受けた」と思ったことに端を発するわけですが、と違うのは観客も確かに不当だと思う点かな? 「ソーシャル」の場合は架空のザッカーバーグに「おまえ、そりゃ、自分が悪いんじゃ!」と観客総ツッコミの場合がほとんどですからね。


ライアン演ずるスティーヴンはザッカーバーグに比べるとずっと感情移入しやすいです。それが幸か不幸かはわかりませんが。


スティーヴンには最初と最後にアップになるシーンが設けられているんですが、その表情の違いがね、そこに至る人生経験を如実に語って、まさに圧巻なのです。