ユアン・マクレガーといえばもう「STAR WARS エピソードⅠ/ファントム・メナス 3D 」の公開が始まっているというのに、精力的で自信に満ちたオビ=ワン・ケノービとは正反対とも言えるような人物を演じている「人生はビギナーズ」でお目にかかることとなってしまいました。もっとも、魅力的な年配者に忠実に仕えたり、魅力的な若い子に振り回されたりと、劇中やってることはそうは変わらないのですが。
「人生~」でユアンが忠誠心を捧げているのは彼が演じるオリヴァーの父親でございます。その父を演じてついこないだオスカーに輝いたのがクリストファー・プラマーですが、このなんとなくギクシャク感が漂う親子関係を見ている内に、同じくプラマーさんが父親役だった「イルマーレ」を思い出しました。その時の息子役はキアヌ・リーヴスだったのですが、その父と息子が歳月を経て和解してたらこんな感じになったのかな、なんて思ったりして。
もっとも「人生~」では父親、長の結婚生活の果てに自分がゲイであることをカミングアウトしてるわけですが。それによって初めて息子が父と心を通わせるキッカケを得るのですから、人生は不思議なものです(「それ」は「カミングアウト」をさします。「ゲイ」の方じゃないよ)。
さて、プラマーさんが受賞したのが助演男優賞だったことでも分かるように、この「人生はビギナーズ」の主役はあくまでユアン演じるオリヴァーです。彼の方に視点を移して考えると、この作品は「(500)日のサマー」によく似ています。どちらも主人公の青年が深い悲しみと喪失感から立ち直るべく悪戦苦闘する話で、その課程として随時過去の情景が時間軸バラバラで挿入されるからですね。
違うのは、「サマ-」ではトムにはまだ「やり直せるかもしれない」という期待があったけれどオリヴァーにはそれが全くない点でしょうか。どっちにしても愛する者を失った苦しみが人の心を責めさいなむことに違いはないのでして。
日々の生活を真っ黒にぬりつぶすような悲嘆の中にあっても、人には生きてる限り明日はやってくるので毎日をなんとかやりすごしていかねばなりません。そうやってもがき苦しむ内には何か明るい兆しも見えてくるもので、そのチャンスがあったら迷わずそれにしがみつけ、みたいな感じのストーリー展開もちょっと似てますね。
トムはまだ若いけれどもオリヴァーはそろそろもう若くないという年齢の違いが物語りのテイストの差でしょうか。
人はその気になれば自分が失ったと思っていた歳月を取り戻すことができる……オリヴァーの父親の生き方が結局は救いとなるわけで、それを見事に示してくれたプラマーさんにオスカーが微笑んでくれたことは映画を見た観客にとっても救いになると思います。
うん、見終わった後に印象に残っているのは主役のユアンじゃなくてクリストファー・プラマー演じたハル(父親の名前)の方だもの。見事な生き方を見せてくださいました。
そういえば「er」のルカ先生ことゴラン・ヴィシュニックがハルのカミングアウト後の恋人役で出演してたんですが、つい最近「ドラゴン・タトゥーの女」で見た際の精悍で謹厳実直な役とは正反対で、演技力もさることながら髪型と服が人の外見に及ぼす作用というか、記号として果たす役割の大きさを改めて思い知ったというか……この映画の中で個人的には一番ツボにはまった部分だったかも。
ユアンの相手役のメラニー・ロラン、笑顔がちょっとドリュー・バリモアに似ていてすごく親しみやすい印象を醸し出しておりました。