はい、これは前評判通りの傑作でした。

一見地味で淡々としてますが、その奥に秘められた感情のほむらがひしひしと感じられるのです。今NHKでやってる「平清盛」に見習えといってやりたいぐらい、緩急にすぐれた演出でした(日本でリメイクする時は是非松山君を主人公のドライバーに!)。まあ、時たま観客が眠らないようにという配慮なのか暴力的なショックシーンが入るのですが、CSIを見慣れていればど~ってことありません。その静と動のリズムが不規則で観客からは読めないので次にどう来るか分からず、それがサスペンスを生むんですよね。たとえていうならハイドンの「驚愕」(びっくりシンフォニー)の冒頭部。これを同じ所ばかりリピートすると「清盛」の台詞回しになるんだけど、「ドライヴ」は予想がつかない。或いは予想よりワンテンポ早く来たり遅くなったりと、上手く観客の呼吸を外してくるのでその都度新鮮に「驚愕」できるのですよ。時には観客の予想通りに動いておいて、慣れたところでそのリズムを外してくるとかね。しつこいですが「清盛」はこのリズムのパターンが決まり切っているので飽きるのですよ。少しは外してこいよ!

いや、あたしは、松山君だったら「ドライヴ」のライアン・ゴズリング並の演技はできると思っているので、それだけに「清盛」の単調な演出がつまらなくて彼を生かし切れていないのが残念でならないのですよ。

それにしてもライアン・ゴズリングは上手かったです。
最初出てきて仕事している時の真剣なんだけどつまらなそうな表情がこのまま映画終わるまで続くのかな、と思わせておいて、ある瞬間にそれがふっと緩んで笑顔になるんですよね。それはまだほんの薄い微笑にすぎないんですが、それでも観客もほっとするぐらいの明らかな変化なんです。その笑顔が物語りの展開と共にどんどん深くなり、心から発する笑いになってくると、何故か見ている側までつい嬉しくなって笑ってしまうんです。つまり、この時点で観客はどっぷりライアンに感情移入して彼と共に人生生きちゃってるんですよ。

ほんの僅かな表情の変化でこれだけ観客の心を掴めるのって、すごいなと思いました。笑顔もそうですが、目もね、いいんですよ。それまで無感覚で眠そうな目だったのに、ある時から急に生気が宿る。ああこの人は今生きてて幸せなんだなと一目で分かります。

その表情が再び一変するところから物語りは加速するのですが……ま、これ以上は語りますまい。ライアンの真骨頂はここからです。この人は得体が知れないというのか、正体或いは本性を隠している役が本当に似合うんだわとしみじみ思いました。その上で、優しい目で微笑んでいるのもまた彼(役)の本質の一部であると観客に納得させられるのがライアンなんですよね。元をたどればちゃんと一つの所に行きつく。

というわけで「ドライヴ」、可能であれば是非映画館でご覧下さい。映画好きのための映画です。