4作目の「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」はIMAXで見たのが最高でしたが、もちろん普通のスクリーンでも充分楽しめます。「楽しめる」という点ではシリーズ随一かな? サイモン・ペッグが出ていることもあって、全体的にユーモラス。コメディと紙一重と言っても過言ではないかも。


「4」だけ見てると案外気づかないんですが、シリーズ通して見るとこんなに失敗しているイーサン・ハントは他にないですよ。ミッションもタッチの差で成功を取り逃がしてばかりですが、それより何よりやたらと顔から激突するシーンが多くて……。映画だから平気ですが、実際にあの勢いで顔から壁にぶつかったら顔面打撲でひどいことになってますよ。天下のトム・クルーズにそんな真似させちゃうブラッド・バード監督、恐るべしです。


シリーズ1から3を通じてイーサン・ハントは何度も命の危険に見舞われますが、それは敵と戦ってのこと。「2」では顔に傷をつけられさえしますが、それだってナイフで斬りつけられたからで、しかも深傷ではありません。イーサンはどんなに不可能と思えるアクションをしても失敗するということはなかったのですよ。


それがまあ、「4」では何回顔をぶつけたことか! 全身でぶつかることもありますが、それでも何故か必ずと言っていいほど顔から先なんですよね。確かにそれは「失敗」ではなく、「事故」であったり「わざと」であったりしますが、1~3のイーサンだったらそれすらあり得なかったわけで。監督違うとここまで変わるかねえと、顔をぶつけ続けるトム・クルーズを見てあきれておりました。


でも、それもひとつの繰り返しのギャグともいえるわけで、ここまで体を張って笑いをとってるトム・クルーズって、やっぱりスゴイ人だわと感心もしたりして。トムを使って観客から笑いを引き出すためにはここまでしなきゃいけないと分かってる監督もえらいんでしょうけどね。


バード監督って、アクションは俳優の生身の動きで見せてくれるんですよね♪ だから壮大な、地球の命運がかかっているような話なのに、見ている側は非常に身近な部分でサスペンスを感じられるので感情移入しやすいんです。私が好きなのは女二人の肉弾戦のシーンなんですが、そこでサビーヌ・モローが手近にあったワインのコルク抜きをめっちゃ真剣な顔して構えるのがえらく気に入ってまして。あれでいきなり相手を殺すことってたぶんできないと思うんですが、でもじわりじわりとダメージを与えて戦いを自分に有利な展開に持ち込むことはできますよね。すごいリアルだと思うのですが、反面、美女が殺気に満ちてコルク抜きを構えているシーンって、やっぱり見てるとおかしいんですよ。この絶妙なバランス感覚がバード監督の持ち味でしょうかね。真剣と滑稽が紙一重なの。


それは一番の悪役においても言えていて、この作品でミカエル・ニクヴィスト演じるコバルトって、シリーズ唯一、金を要求しない悪者なんですよね。狂信者でテロリストという設定で、彼の唱える説ははっきり言って異常で普通の人が聞いたら真に受けたりは絶対にしないものです。日本のドラマや映画でこういう人が出てくると大抵何故かへらへら笑ってるんですが、コバルトは真剣そのものでニコリともしません。彼の浮かべている表情そのものが、彼が行っているテロ行為を可能にしているといってもいいぐらいです。セリフはほとんどないのにものすごい存在感をもってこの悪役がイーサンの前に立ちはだかっていられるのは、ミカエルの役作りと演技のおかげですね。そういえば、ニコリとはしないけれどイーサンにむかってニヤリとしてみせるシーンはありました。それが唯一彼が見せた人間らしい表情かな? これがまた生きてるんですよね♪


ブラッド・バード監督は「ゴースト・プロトコル」の前はアニメーション映画を撮っていましたので、キャラクターに「人間らしさ」を与える技に長けてるんだと思いましたね。アニメキャラって、本来ただの絵ですからね。そこに命を吹き込んで人間っぽく見せるためにはそれなりの技術が必要なわけで、それを実写でもいかんなく発揮したのだと思います。見る側の心に触れるキャラクターの作り方が上手いんですよ。何より全編思いやりに満ちていて、暖かい雰囲気なのがいいんですよね♪


とはいえ、緊張感に満ちた前3作があって初めて「4」が成立するのもまた確かです。もっとも4まで見ると、IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)が一体どんな組織なのか皆目わからなくなるというのはありますけどね。これがきっとシリーズ最大の謎でしょう。