「ムカデ人間2」、トム・シックス監督、今度は6+6で12人つなげるそうなので。あらでもそうするとムカデの足の数は24か。いやあれは四つん這いになるから48かな?すると文字通りの「百足人間」にするには25人必要? 


「ムカデ人間」がおもしろいのはさ、シックス監督がごく普通の人だってことなのよね。ホラーの名監督ってトラウマ抱えてたり、妙な趣味嗜好を持ってたりして、それを映像に昇華させて傑作を生み出してるものなのだけど、シックス監督はそうじゃない。「ムカデ人間」にはこだわりがないんだよね。


まあだから言っちゃなんだけど、「ムカデ人間」はホラーとしてそう傑作なわけではないのよ。かといって駄作でもない。それは監督がホラー映画をなめてかからず、とことん追求して作っていたから。ただ、その追求の仕方があくまで理詰めなのね。設定は異常なのに。そこがちょっと他と一線を画す点。


普通、トラウマや妙なシュミ持ってる監督だと、最初は理詰めで展開してても物語の中盤あたりで冷静さを失って逸脱しちゃう部分があるのよ。「そこまでやるかー!」と観客が目をむく場面ね。ホラーの見せ場ってそこでさ、一般ピープルである観客が想像もつかない事がそこでは繰り広げられているわけです。


その「そこまでやるかー!」が人間性の追求でも、血しぶきの量でも飛び出す内蔵でも奇怪なクリーチャーでも何でもいいわけ。人はホラーに正常な世界から逸脱してるものを求めてるんだから。「ブラックスワン」が一部で「心理ホラー」扱いされてたのも、そのヒロインの「逸脱」ぶりのせいでしょう。


「そこまでやるかー!」の度合いの激しさを理解してない普通の人がホラー作ると大抵失敗すんのね。「レイキャヴィク・ホエール・ウォッチング・マサカー」とか、つまんなかった。これはそもそもポイントが絞りきれてなかったんだけど。「13日の金曜日」風にしたいんなら、殺人鬼はお面かぶんなきゃ。


「13金」や「ハロウィン」や「悪魔のいけにえ」で殺人鬼がお面かぶってるのは、それによって彼らが人間性を喪失している事を観客に分かりやすく伝えるため。彼らは突き動かされるようにして人を殺して回るけど、その動機や目的は観客には一切わからない。普通の人間から逸脱した存在で、だから恐い。


動機が分からないのも恐いけど、「自分の楽しみのために死ぬまで拷問したい」とか「がっつり肉喰いたい(人肉可)」とか「復讐相手をじわじわ苦しめたい」とか、明確にして強い殺意も充分恐いです。とってつけたような中途半端な動機が語られるのが一番恐くない。言葉でなく行動で示せなきゃダメ。


「ムカデ人間」にはハイター博士に「人をつなげてみたい」という明確にして強い動機ががっつり存在してました。これだけでこの人、ホラーのキャラとして立派に立ってるのね。マッド・ドクターの異名はハイター博士にこそふさわしい。演じた俳優さんと監督がえらいんだけど。


ただ問題は、何故ハイター博士が「人をつなげてみたい」と思うに至ったかの説明が薄いこと。一応形としてはありますよ、「かつては結合双生児の分離手術で名を馳せた名外科医が、引退後は逆の事をしたくなった」って。ここがね、妙に理屈っぽい故にウソっぽく聞こえる部分なんですよ。


分離手術ばかり行っていたという設定ですが、もしハイター博士がそんなに「つなげる」こと自体が好きならば、切断された指や手足をつなげる手術に生涯を捧げてればよかっただけの事なんですよね。そうすれば誰にも迷惑かけず、幸せな老後をおくれたでしょうにさ。


このあたりの描写からハイター博士の「つなげてみたい」という欲求が彼の中に元々あったものではない事が分かるんですね。何か外から植え付けられた、それこそ「インセプション」されたような感じです。ある日ふと「つなげたらどうなるだろう」と思いついちゃって、その考えに支配されてしまったのね。


で、このハイター博士=トム・シックス監督なんだな、と。トラウマでも妙なシュミでもなく、インセプション…思いつきによる思い込み…で作っちまったのが「ムカデ人間」ではないかと。だからある意味、非常に普通の人が作ったホラー映画なので普通の人にも分かりやすいと思うんですよ。


「ムカデ人間」ってTVドラマの用にプレーンでね、ホラー映画によくある「監督のこだわり」がないのだわ。ハイター博士御本人とムカデ人間の存在以外は至って普通なのです。ムカデ人間にされる人達も必要以上にいじめられたり愛されたりしてないし。実験材料ってだけなんだよね。


監督&ハイター博士にとってはムカデ人間を作ってみることだけが興味の対象であって、できあがったムカデ人間で何するかまでは全然考えてないのね。そういう意味では虫の足を全部とったらどうなるかと思ってそれを実行してしまう幼児によく似ている。ホラーとしては、いい大人のその幼児性が恐いのね。


ここまで考えると、「ムカデ人間」のキャッチコピーの「つなげてみたい」って本当に作品の本質を一言で言い表した秀逸なものだと分かりますわ。それ以上でも以下でもないのね。同じ医療行為のできる施設を舞台にした「グレイブ…エンカウンターズ」よりは「ムカデ人間」の方がよっぽど面白いですが。