ピクサー短編『月と少年』監督が明かす制作秘話「宮崎アニメの影響から逃れられない!」(Movie Walker) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120719-00000005-mvwalk-movi
ディズニー ピクサー最新作『メリダとおそろしの森』がいよいよ7月21日(金)より公開される。「ピクサー映画のお楽しみといえば、本編上映前に見られる短編映画!」という人も多いはずだ。今回、同時公開される短編『月と少年』は、第84回アカデミー短編アニメーション賞でノミネートを果たし、そのクオリティの高さを証明した。そこで、来日したエンリコ・カサロサ監督にインタビュー。ディズニー ピクサー映画が愛される秘訣に迫った。
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ずっと謎だった、パパとおじいちゃんの仕事。ある日、少年にも家業を手伝う日がやってきて、3人で夜の海に向かって小船で乗り出す。ストーリーには、監督の思い出が投影されている。「僕はイタリアのジェノヴァ出身。地中海、イタリアというインスピレーションから、物語を作り始めた。僕の祖父と父はあまり仲が良くなくて。いつも間に挟まれて、ふたりの喧嘩を見ていたんだ(笑)。その思い出から、自分らしさを持って、自分の道を見つけようとする少年を主人公にした」。
とりわけ、少年の好奇心いっぱいの大きな瞳が印象的だ。「僕たちは、いつも作品を作る時、とてもオープンな気持ちと好奇心いっぱいで作品に取り組む。だからこそ、大きな瞳で、世界を見ながら喜びを見つけようとするキャラクター造詣にしたんだ。僕も、アニメーションを勉強したいと思った時に、イタリアを離れて、アメリカに渡る決心をしなければいけなかった。そうして自分の道を見つけていったんだ。少年のように好奇心を持ち続けたいという思いもある。そしてまた、道を探す中では、色々な人の意見に左右されがちだけれど、自分のハートを信じて、行くべき道を見つけてほしいというメッセージを込めたんだ」。
ピクサーのストーリーアーティストとして、『カーズ』(06)や『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)などの制作にも参加しているエンリコ監督。ストーリーを考えるうえで、最も大切にしていることは?「短編であれ、長編であれ、一番重要なのはストーリー。特にピクサー作品は、“パーソナルな物語”を大切にしている。パーソナルな面というのは、『すごく独特で、変わったものかな』と思っても、実はすごく普遍性があったりする。普遍的であれば、世界中の人の心に響くんだ。長編を作るのは、ある意味、大きなパズルに挑むようなもの。短編は自由度が大きいので、よりいっそう“パーソナルな物語”が描けるんじゃないかと思うんだ」。
ピクサー作品では、生き生きとしたキャラクターたちの活躍にいつも心を奪われる。CG作品に、命を吹き込む秘訣とは何だろう?「やはり、コンピューターだけの作業では、あまりにも完璧で、冷たいものになってしまう。そこに命を吹き込むのは、やっぱり大変な作業ではあるね。僕がいつも取り入れている手法は、まず最初に水彩画を用意すること。『月と少年』では25枚の水彩画を用意して、そこからインスピレーションを得て、全体の作品の感触を作り上げた。そうやって、どこかに人の手を使ったもの、温かみがあって、ちょっと不完全なものを取り入れることによって、人間味が出てくるんじゃないかと思う」。
実は、それは宮崎駿のやり方を真似たものだという。「僕は彼の作品が大好きで、何度も何度も見て、もうDNAに組み込まれてしまっているくらい!どんな作品を手がけても、彼の影響からは逃れられない(笑)。1980年代のイタリアでは、日本のアニメがよく放映されていて。『アルプスの少女ハイジ』や『未来少年コナン』などは、宮崎さんの作品だとは知らずに、大好きで見ていた作品。イメージボードを用意して、そこからストーリーを作り上げるのは、まさに彼の手法を踏襲したものだよね」。
イメージボードを作るうえで、気をつけていることは?「宮崎さんもそうだけど、即興で描くんだ。完璧に美しい作品を仕上げるというよりも、自分の本当の思いをバッとぶつけてみることが大事。すると、その瞬間の感性が込められるよね。宮崎アニメからは、ただの娯楽ではなく、リアルなメッセージを伝えたいという、彼のメッセージや思いが強く伝わる。社会的といっても良いくらいのメッセージが。僕も、若い人や子供たちが少しでもポジティブなインパクトを受けるのであれば、単なる娯楽作品よりも、それはとても素晴らしく意義のあることだと思っているんだ」。
「ピクサーは、アーティスティックな面と、テクニカルな面、そして商業性と、バランスの取れた作品を世に送り出していると自負しているよ」と、優しい笑顔で答えてくれたエンリコ監督。限りない好奇心と、伝えたいメッセージ、そして人間の温かみこそが重要なエッセンスなのだ。『メリダとおそろしの森』を楽しむと共に、是非、短編に込められたメッセージにも着目してもらいたい。