『るろうに剣心』綾野剛インタビュー 自己を見つめる時間、「優しくできるようになった」(cinemacafe.net) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120824-00000003-cine-movi
「芝居しているときしか生きている実感がない」。そう言った後で自ら茶化すように「キザな言い方ですが…」と付け加えたが、それが心からの言葉であることはその眼を見れば、何より作品の中に生きる彼の姿を見れば分かる。NHKの連続テレビ小説「カーネーション」から“あの”話題作『ヘルタースケルター』まで文字通りジャンルを問わず幅広い活躍を見せる綾野剛。まもなく公開となる『るろうに剣心』でも主人公・剣心の前に立ちはだかる敵を演じながらも不思議な魅力で観る者の心を惹きつける。作り手、そして観客にとっていま最も気になる男はどのような思いで役柄に命を吹き込んでいったのか――? 公開を前に話を聞いた。
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「負けてらんない!」と臨んだ『るろうに剣心』
原作は90年代に「週刊少年ジャンプ」で連載され絶大な人気を誇った伝説的な漫画。連載終了から13年もの時を経ての実写化となったが、綾野さんは脚本を読んで「原作にとらわれることなく新しいものを生み出そう、“映画『るろうに剣心』”を作ろうとしているのを強く感じた」と明かす。綾野さんが演じた外印(げいん)は顔の半分を火傷の跡で覆われた金髪の護衛。その内面が深く説明されることはないが「彼岸花のような哀しい男」というのが綾野さんが彼に抱いた印象だった。
「“かわいそう”ではなく“哀しい”男です。この哀しさというのが外印を演じる上での精神的な部分での支えになりましたね。映画で描かれることはなくても、彼の真意や火傷の意味というのを自分で持ってないといけない。僕の中で彼は、忘れてはいけない過去を背負い、変えなきゃいけない何かを追い続けている男。あの火傷はそれを忘れないために自分でやったものだと思っています。髪の毛に関しても、想像を絶するものを目の当たりにして色素が飛んでしまったというイメージで、衣裳合わせのときに『金髪でどうですか?』と提案したんです」。
決して全ての作品で役柄のバックボーンを考えるわけではない。むしろ「ここまで追いかけたのは久々だった」という。大切なのは作品の中でそれがどう活きるか。
「例えば『ヘルタースケルター』に関しては役の背景なんて一切考えなかったし、ただ深く堕ちていく“記号”のような存在でいいと思って演じていました。なぜならドラマは(主人公の)りりこにあって、奥村がドラマを欲しがる必要がないから。でも今回は剣心(佐藤健)の話が一番重要ではあるけど、彼の物語をより鮮明に彩るために外印もまたドラマを持たなくてはいけないと思ったんです」。
これまで演じてきた役柄のイメージもあってかクールな印象がつきまとう。いや、実際に自らや周囲を見つめる視線は冷静そのものなのだが、その言葉の端々に時折、熱いものが混ざる。話題が本作の大友啓史監督の現場に及ぶと「最高でした」という言葉を噛みしめるように2度繰り返した。
「たまらない現場でした。以前から素晴らしい監督だという話は聞いていましたが、その意味が分かりました。一言で言うと役者のことしか考えてない監督。どんなシーン、どんなカットも区切らずに必ず一連の流れで撮ってくれるんです。手の寄りのカットが必要だとしても、手だけを撮るようなことはせずそのためにそのシーンを全てもう一度やるんです。実はその方がちょっとずつ区切るよりも体力も奪われないし、何よりなぜその動作が必要かという感情、思想がしっかりとついてくるんです。とにかく監督は役者の芝居が好きなんでしょうね。こんなこと口にしたくないけど、監督の方が僕らよりも芝居が好きなんじゃないか? って思えるような瞬間があって、『いやいや負けてられない!』という気持ちで臨んでました」。
自分を見つめ「自分を大切にしようって思える」時間
今年公開される映画は本作を含めて6本。先に挙げたNHKの「カーネーション」のほかに各クールの連続ドラマ、そして7年ぶりとなる舞台も控えており、まさに刺激と喧騒の中で30代の最初の年を歩んでいる。「僕は毎分毎秒変化しているつもりだし、変容を恐れてもいないです」と自らについて語る一方で、周囲や環境、求められるものが変わっていくことについても「周囲に『こいつからもっと違うものを引き出してみよう』と思ってもらえるようになったことはすごく大きいし、これまでとは違うチャンスを与えられることに幸せを感じています」と落ち着いて受け止めている。
特にここ数年、俳優の仕事に集中する中で「自分に対して優しくできるようになった」とも。冒頭の「生きている実感…」という言葉はこのやりとりの中で出てきた言葉である。その真意についてこう説明する。
「俳優は自分で自分の仕事を評価することはできないし、作った過程を見てもらうこともできないし、結果で全てが評価される。とにかく役と向き合う時間、すなわち自分自身と向き合う時間が圧倒的に多いんです。自分の声と体を駆使して役を体現して、ひとりの人物の人生を2時間で描くって我ながら狂った作業だなと思います。でもそうやって自分を見つめる時間が増えると、その分、自分を大切にしようって思えるんです。それはもっと内面的、内省的な部分でね」。
「そう思えるようになったということはある意味、角が取れてきたと言えるのかもしれない」と漏らす声には何とも言えぬ楽しさが感じられる。そんなこちらの指摘に「いや…」とかぶりを振り「やっぱり、愛してるんです」とイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「そうした変化も含めて演じるっていうことの全てをね。すごく苦しいし、役に取り込まれて殺されそうになることもあるけど、それも含めて全部愛してます。『あぁ難しい』って思いながら生きていけるってきっと幸せなことだし、そこまで好きなことを生業にさせてもらって、努力を惜しもうなんて思わないですね」。