ヤン・ヨンヒ監督「ロックンローラーでアナーキスト」と福島菊次郎氏の魅力を語る(映画.com) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120923-00000009-eiga-movi


現在公開中の映画「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」の長谷川三郎監督と「かぞくのくに」のヤン・ヨンヒ監督が9月22日、東京・銀座シネパトスでトークセッションを行った。

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 両監督が互いの作品をtwitter上で絶賛したことから、今回のイベントが実現した。「ニッポンの嘘」は、敗戦直後の広島や、三里塚闘争、70年安保など時代を象徴する事件を取材、数々の国家の嘘を暴き続けてきた伝説の報道写真家・福島菊次郎氏を追ったドキュメンタリー。「かぞくのくに」は、ヤン監督の実体験を基に、帰国事業で北朝鮮へ渡った兄と日本で暮らす妹を中心に国家にひき裂かれる家族の姿を描いた劇映画。第85回アカデミー賞外国語映画賞日本代表に選ばれている。

 福島氏の生きざまに感銘を受けたヤン監督は、「彼こそロックンローラーでアナーキスト」とツイートしたといい、「自称ロックンローラーはたくさんいるけれど、彼は本物。国宝級というか世界遺産みたいな人。作品としても素晴らしいし、こういう日本人もいるのだと、世界中の人に見てほしい」と絶賛。一方の長谷川監督は「福島さんは表に出ないものを引っぱり出して叩き付けてやるというスタンスなのですが、ヤンさんはまさにそういうスピリットを持った方」と称え、「『Dear Pyongyang ディア・ピョンヤン』も『かぞくのくに』も家族のことを撮っているけれど、その奥に僕らが見なければいけないのに見ようとしなかった国やシステムというものがじんわり浮かび上がってきた」と語った。

 福島氏の撮影について問われた長谷川監督は、「福島さんはカメラの持つ暴力性のこともわかっているし、撮る人と撮られる人の間で共犯関係を持って向かっていくことがわかる大先輩なので緊張していた」と撮影前の心境を振り返り、撮影初日に福島氏からアパートの鍵を渡されたと明かす。「それから毎朝アパートへ行って福島さんを起こすところから始まったんです。福島さんの家に通ううちに人間を撮ることはどういうことかを教えていただいたような気がした」と述懐。そして日常生活から見えてきた福島氏の魅力を「(愛犬の)ロクを散歩させている時の姿とシャッターを押している姿、戦後を語る時は目の奥に炎が燃え盛っているような挑みかかるような姿勢、その人間としてのギャップ」と語る。

 それを受けてヤン監督は「カメラを持っている人に鍵を渡すということは、何から何まで撮っていいよということ。そんな関係ってありえない、女だったらほれますよ。カメラを置いてご飯でも作ってあげたくなっちゃう(笑)」と驚きを隠せない様子。そして「強烈に思ったのは、一人一人にとって“今”と言う言葉は違うと思うけれど、福島さんの“今”はすごく長いんだろうなということ。戦時中から全部つながっている。福島さんが考える今と同じくらいに多くの人が今という感覚を持てば、歴史との重みと今がつながっているということがわかると思う。原爆の訴訟問題にしても、帰国事業にしても過去のことだと言われるけれど全部解決していない人にとっては“今”だと思う」と持論を述べた。

 長谷川監督いわく「イデオロギーで動くのではなく、現場で人と出会って考えながらテーマを見つけていくという究極な主観」で写真を撮り続けてきたという福島氏の姿勢に、これまで一貫して家族をテーマにした作品を発表しているヤン監督は「福島さんに活を入れられた。私は家族に会うという当たり前のことをあきらめて、映画を作ろうということを選んだ。もっと深く人間を見られるようにならなければ作品はつくれない。長谷川さんの作品のおかげで気合いを入れてもらった」としみじみ語っていた。