『388』ヴィンチェンゾ・ナタリ「人間の真実を描いているのが、この作品の好きなところだ」(Movie Walker) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121109-00000025-mvwalk-movi


妻が忽然と姿を消した自宅で、次々と起こる不可解な出来事に追い詰められていく男の恐怖を描き出したシチュエーションスリラー『388』(11月10日公開)。本作の製作総指揮は、あの『CUBE』(98)で監督を務め、極限状態に置かれた人間たちの深層心理を巧みに描写、従来のホラーとは異なる恐怖を与えた作品としてカルト的人気を誇るヴィンチェンゾ・ナタリだ。そこで、ヴィンチェンゾ・ナタリに本作の魅力から監督、キャスト、今後の作品まで、色々と話を聞いた。

【写真を見る】「この脚本はランドール監督の個人的な経験から作られている」と語るヴィンチェンゾ・ナタリ

――本作を製作するに当たり、ランドール・コール監督とはどのような話をされたのでしょう?

「実は監督・脚本のランドール・コール自身が『388』と似たような経験をしたことがこの映画の基となっているんだ。実際に事件性があったのかどうかははっきりしないけれど、『388』のようにランドールと奥さんが謎の人物からゲームのようなおかしなものをけしかけられた、ということがあった。この映画の中で、主人公の車の中で憶えのないCDがかかるというシーンがあるけど、それは実際に彼に起きたことだと聞いたよ。この脚本はランドールの個人的な経験から作られているんだ」

――ニック・スタールとミア・カーシュナーについて聞かせてください

「非常に素晴らしい役者だったよ。面白かったのは、この撮影現場には、もちろんカメラマンも音響のスタッフもいるんだけれども、基本的にみんな隠れた場所にいる、という珍しい設定なんだ。舞台でもないし、観客もいないんだけれど、舞台のお芝居を見ているような感覚だったよ。それと、これは本人たちに聞いてみないとわからないことだけど、役者にとって非常に自由な現場であったと思うよ。なぜなら、普通であればカメラの位置などが指定されているから、それによって芝居が限定されることがあるけど、今回はその点に自由度があったから、実際の映画の仕上がりに良く働いたんじゃないかな」

――『CUBE』がとても衝撃的作品でした。この作品がシチュエーションスリラーの先駆けとも言われていますが、そのことについてどう思われますか?※シチュエーションスリラーは日本のみで使われているジャンルのため、質問前にナタリに説明してから答えてもらった

「光栄に思うね。『CUBE』のアイデアは第二次大戦中に制作されたヒッチコックの『救命艇』(44)から発想を得ているから、完全にオリジナルなアイデアというわけではないとは思うけど、『CUBE』は全く新しい方式でそれを映像化したのかもしれない。だから“シチュエーションスリラーの先駆け”と言われるのかもしれないね。最近見て『CUBE』に似たスタイルだと感じたのは、勅使河原宏監督の傑作『砂の女』(64)だね。『CUBE』と同じカテゴリに当てはまる、そういう構成の映画だと思ったよ」

――本作でもちょっとしたきっかけで人間はすぐに疑心暗鬼になり、心の脆さを露呈します。人間の心の奥を描くうえで最も気を配っているところはどこでしょう?

「それがすごくこの『388』が好きな理由なんだ。『388』は映画的な仕掛けだけじゃなく、人間的な部分を見せている。人間の真実を描いているのが、この映画の好きな部分なんだよ。この映画自身はヒッチコックの映画のように進化していって、最終的には精神的な追いかけっこが始まっていく。そして、主人公ジェームスは物語の中の経験を通して、自分自身の暗い部分を発見していくのが非常に面白いし、興味深いね」

――監視映像がいっそう恐怖感をあおっていますが、この映像を組み込んだ目的は何でしょうか?

「一つは簡単に第三者の視点から映画を見せることができること。映画の中の1%程は監視カメラからの映像だけど、ほとんどはこのゲームを仕掛けている精神異常者、つまり監督の視点で描かれている。観客に、その視点から映画を見せて“覗き見するというのはどういうことか”を経験させることで、精神異常者と我々との境目は何なのか、そもそもなぜ他人の生活を盗み見るようなことをしたいと思うのか、という疑問を投げかけているんだ。この映画の中で、ランドール監督は一切ズルをしていない。全てが本物であるように努力している。普通のスリラーを撮る監督が持っている“驚かす”というようなよくある手段を、ランドール監督は持っていないというのは非常に興味深くて新しいと思う。新しいスタイルだ」

――あなたが理想とするスリラーの形とはどういったものでしょうか?

「ずっと興味があるのは、ジャンルを融合することで新しいものを作り出すことだね。たとえば、自分が観客として『388』のようなスリラーを見る時には、何か新しいものを見たいと思うんだ。非常に長い歴史のあるスリラーというジャンルだから、今までにあるスリラーとは違う、スリラーと聞いて人々が期待するものを裏切るような映画を見たいと思うよ」

――監督としては『Haunter』が2013年公開予定だと思いますが、どんな作品になるのでしょう?アビゲイル・ブレスリンが主演ということでも非常に楽しみです

「もちろん、アビゲイルは素晴らしい女優だ。子供だったころとは違うけれど、『リトル・ミス・サンシャイン』(06)の頃の可愛らしさを持ち合わせつつ、女優として複雑な部分も持っている。彼女は特別な何かを持っているね。映画そのものを短く簡潔に説明するのは難しいけれど、ある家族が1985年の同じ日を何度も何度も生きていて、家族の中でアビゲイル演じる主人公だけがその事実に気付いている。なぜなら、彼女は既に死んでいるから。いわば幽霊ものを、幽霊の視点から語っている、というものだね。ブライアン・キング(『Haunter』の脚本家でナタリの『Cypher』の脚本家でもある)の脚本の中で、私が最もそそられたのは、普通に見える毎日の違う部分、日常の違う部分を見せようとしているところなんだ」