終了連載が読み切りで“復活” 漫画家たちの被災地支援(産経新聞) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121122-00000601-san-ent
東日本大震災の被災地への継続的な支援のため、漫画家がユニークな取り組みを実践している。すでに連載が終了した作品の主人公を読み切りで“復活”させ、来年3月に単行本化し、印税などを被災地に寄付するという。震災後、音楽、芸術、文学などさまざまなジャンルの文化人が、支援活動を行ってきたが、漫画が果たしてきた役割を振り返る。(伊藤洋一)
◆帰ってきたヒーロー
宮城県登米市出身の漫画家、石ノ森章太郎(1938~98年)の作品に関連したものを展示する石ノ森萬画館が今月17日、同県石巻市に再オープンした。平成13年7月に開館したが、津波で壊滅的な被害を受け、復旧工事が行われていた。石巻地区の文化施設の中では最も早い再開だ。
あわせるように、12日発売の「月刊少年サンデー」12月号では、石ノ森を師とあおぐ島本和彦さん(51)が「サイボーグ009」を描いた。同日発売の「週刊ビッグコミックスピリッツ」50号には、吉田戦車さん(49)の「伝染るんです。外伝『サラマンダー』」が掲載された。代表作キャラクターを登場させる「ヒーローズ・カムバック」という企画だ。
発案者は漫画家の細野不二彦さん(52)。被災地でサイン会をしたり、漫画を送ったりしてきたが、「複数で描いた方が貢献できるのでは」と考え、他の漫画家に打診。高橋留美子さん(55)や椎名高志さん(47)ら7人の協力を得た。
◆チャリティー同人誌
チャリティー目的では「僕らの漫画」がある。震災発生翌日(3月12日)に、短文投稿サイト「ツイッター」でやり取りした信濃川日出雄さん(34)、今井哲也さん(29)ら8人が同人誌の作成を決定。昨年8月には電子書籍、今年5月には単行本も発売した。9月に計212万円余りを被災地に送っている。
非日常が描かれるからこそ、漫画には多くのファンがいる。しかし、震災後は「自らの体験をエッセー風に表現した漫画が読まれたのも特徴」と、国際マンガ研究センター(京都市)の倉持佳代子研究員は指摘する。「僕らの漫画」や「あの日からのマンガ」(しりあがり寿(ことぶき))、「震災7日間」(槻月(きづき)沙江)や「わたしたちの震災物語」(井上きみどり)などがそうだ。
衣食住が落ち着いてくると、心にも安らぎがほしくなる。その役割の一つが漫画だった。紙が不足し、流通も滞った震災直後には、避難所で1冊の漫画誌を回し読みする風景が見られた。いくつかの出版社はインターネット上で無料で読めるようにもした。
ただ、漫画は日々の生活に不可欠とまでは言えない。「僕らの漫画」に参加したとり・みきさん(54)は以前、本紙の取材に「震災を題材にするわけだから、恐る恐るでした」と語っている。非日常の作品で楽しませるより、被災者に寄り添って心をいやす内容が多くなったわけだ。
それは細野さんも同じ思いのようだ。震災を題材にした作品を描くことに迷った時期もあったというが、昨年6月にサイン会で訪れた石巻市で、津波の泥をかぶった仮面ライダー像など被災地を見て回ったことで、「自分も書いてもいいのかなと、理由づけにした」と話す。
◆「元気づける道」選ぶ
しかし、細野さんが採用した方法は、寄り添うものから一歩進み、ヒーローが活躍し元気づける道を選んだ。先月22日と29日発売号の「-スピリッツ」に、平成17年に完結した「ギャラリーフェイク」特別編を掲載。贋作(がんさく)専門の画廊オーナー、藤田を復活させ、土蔵荒らしをする業者を登場させた。「(被災地で)土蔵荒らしの話を聞いていたので、せめて漫画の中で懲らしめてやろう、と」
11月6日には、藤田和日郎(ふじた・かずひろ)さん(48)が「うしおととら」を16年ぶりに復活するとツイッターで明かすと、ファンからの歓迎の声があふれかえった。
細野さんが言う。「被災地のためにと応援してくれてもいいし、純粋に“懐かしのヒーローが読みたいから”と、手に取ってもらい、結果的にチャリティーにつながるのもいい」
■原発テーマの復刻版も
震災後は、被災地の現状をテーマにした作品が多く生み出された。震災で路線の多くを失った三陸鉄道の鉄道マンら関係者が復旧に挑む姿をドキュメンタリーで表現した「さんてつ」などだ。
逆に、以前の作品が注目される例も。昭和63年の山岸凉子さんの短編作「パエトーン」が、版元の潮出版社のネット上で無料公開されたほか、平成19年に死去した漫画家、勝又進さんが昭和59年に発表した「深海魚」が青林工藝舎から出版された。
「いずれも原発を題材にした作品。考えるきっかけになれば、との制作側の思いでは」と、国際マンガ研究センターの倉持研究員は話す。