C・イーストウッドの“唯一の弟子”、映画『人生の特等席』R・ロレンツ監督(読売新聞(yorimo)) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121122-00000301-yorimo-movi


クリント・イーストウッド主演映画『人生の特等席』が11月23日(金)から全国公開される。疎遠な関係だった父と娘が絆を取り戻していくヒューマンドラマ。かつてはメジャーリーグ最高のスカウトマンとうたわれながら、老齢のため退任に追い込まれようとしていた父親ガスの役をイーストウッドが務め、そんなガスの窮状を見かねてスカウト活動の旅に同行する一人娘・ミッキーを『ザ・ファイター』のエイミー・アダムスが演じている。本作で初メガホンを取ったロバート・ロレンツ監督は、長年、イーストウッド監督作品の製作などに携わり、イーストウッドが唯一「弟子」と認めた人物だ。そのロレンツ監督が“師・クリント・イーストウッド”への思いなどを語った。  

――初監督作品として『人生の特等席』を選んだ理由は?

ロレンツ監督:私は長い間、監督を志してきましたが、製作者として映画作りに参加するよう、クリントが私に声をかけ続けてくれたために、監督を手掛ける時間がありませんでした。そして今回、やっと監督のチャンスが到来したというわけです。実は、初監督の作品として他にいくつかの企画を温めていたのですが、ある日、この『人生の特等席』の企画が私のオフィスに舞い込んできたんです。その企画の内容がとても素晴らしく、登場するキャラクターの描かれ方も良かった。キャストの皆さんも演じ甲斐があると思ってくれるに違いなく、初監督作品には申し分ないと思ったのです。

――この作品には、父と娘の関係、老い、キャリア、恋愛、友情、野球の面白さなど、様々な要素が盛り込まれています。

ロレンツ監督:おっしゃる通りで、この作品は幅広い年代層にアピールすると思いました。人間は誰しも人生の中で、ふと立ち止まり、自分にとって1番大切なものは何なのかを考える時があります。この作品はそんな普遍的なテーマを扱っているので、きっとたくさんの人に魅力的な作品になると思ったのです。

――イーストウッドさんは82歳になった今なお、監督、プロデューサー、俳優として活躍を続けています。映画製作のパートナーとして長年彼を支えてきたロレンツさんですが、今回、監督の立場で「俳優・クリント・イーストウッド」を見て、どう思いましたか?

ロレンツ監督:クリント自身は82歳とは思えないほど健康的なのですが、視力の衰えをはじめ、老齢を原因とする様々な問題を抱えているガスの役を、クリントは嫌がることなく、とてもリアルに演じてくれました。私は、監督としてクリントの演技を演出したり編集したりするのが、とても楽しみだったんです。クリントはとても謙虚な人物なので、クリント自身が監督と俳優を兼ねる作品だと、監督としてのクリントは自分の演技を引き立たせるような演出をあまり好まないのです。私は今まで彼と一緒に映画を作ってきて、俳優・クリント・イーストウッドをさらに輝かせる演出方法があると考えていましたし、今回の作品では、彼の最高の演技を観てもらいたいという思いで、演出や編集作業に臨みました。

――この映画を作るうえで、最も大切にしたことは何ですか?

ロレンツ監督:映画というのは、ストーリーにしてもキャラクターにしても、観ている人がリアルに信じられるものでなくてはなりません。今回の作品で言えば、アメリカは野球ファンの多い国ですから、野球のシーンが嘘っぽいと、観ている人の興味が冷めてしまいます。だから、野球選手を演じる俳優には、本物の野球コーチの指導を受けてもらいましたし、逆に、野球選手を役者に起用したケースでは、演技指導をしっかり行いました。とにかく、リアルであることにはこだわりました。
 クリントは日頃から「キャスティングが映画を良くも悪くもする」と言っています。まったくその通りで、良い映画を作るうえでキャスティングは極めて重要なので、初監督にもかかわらず、クリントのおかげで素晴らしいキャストを集めることができて、とても幸せでした。

――アメリカではこれまで野球を題材にした映画がたくさん作られ、名作と呼ばれる作品も少なくありません。映画の作り手にとって、野球という題材は魅力的なのでしょうか?

ロレンツ監督:多くのアメリカ人にとって、野球は「人生の一部」なのです。とりわけ子供の頃には、ラジオの野球中継を夢中になって聞いたり、父親や兄弟とキャッチボールをしたり、何らかの形で野球に触れているはずです。だから、大人になって映画を作る立場になっても、子供の頃のセンチメンタルで素敵な思い出として、野球が心の中に残っているから、映画に描きやすいということはあるかも知れません。

――『人生の特等席』は、父と娘の絆を描いた映画ですが、この親子の姿には、映画の師匠であるイーストウッドさんとロレンツ監督の関係も投影されているように思えます。

ロレンツ監督:この映画を観て、そのように読み取る人が多いようですが、私自身はまったく意識していませんでした。ただ言えることは、クリントは、俳優や監督としての長年の経験で培われた聡明さを持ち合わせており、ガスという男もまた、コンピューターによるデータ分析など新しいテクノロジーがスカウト活動に取り入れられ、時代の波に押し流されそうになりながらも、長年の経験があるからこそスカウトマンとして価値ある存在であり続けているのです。その意味で、この映画は、古いやり方と新しいやり方のバランスをどのように取るべきか、というテーマも描かれています。私自身、製作過程において、クリントの伝統的な映画作りのスタイルと、私なりの映画作りのスタイルのバランスを取る必要がありました。クリントとは意見の相違もありましたが、「さすがクリント」と思えるアドバイスは取り入れつつ、私なりのスタイルが反映された作品になるように意識しながら作りました。


【プロフィル】Robert Lorenz フィルムメーカーとして長年活躍し、本作で長編監督デビュー。シカゴ郊外で育ち、1989年に映画業界に。助監督を務めた『マディソン郡の橋』(95年)で初めてイーストウッドと組み、その後、『目撃』(97年)『真夜中のサバナ』(同)、『トゥルー・クライム』(99年)、『スペース カウボーイ』(00年)などの製作に助監督などで加わった後、『ブラッド・ワーク』(02)では製作総指揮を務めた。イーストウッドが米アカデミー賞作品賞・監督賞を獲得した『ミリオンダラー・ベイビー』(04年)では製作総指揮を担当。第二次世界大戦の硫黄島の戦いを描いた二部作『父親たちの星条旗』(06年)『硫黄島からの手紙』(同)では、イーストウッド、スティーブン・スピルバーグとともに製作を務め、後者で2度目の同賞作品賞ノミネートを獲得した。その他、イーストウッド監督映画では『チェンジリング』(08年)『グラン・トリノ』(同)『インビクタス/負けざる者たち』(09年)『ヒア アフター』(10年)『J・エドガー』(11年)などで製作を務めている。