【レポート】押井守監督「楽な仕事だと思ったら大変だった」-『うる星やつら』以来のラブコメに挑戦(マイナビニュース) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130125-00000001-mycomj-ent
1月23日、電子書籍専門の出版社コミックアニメーションは記者発表会を開催し、「コミックアニメーション」第一弾作品の発表を行った。発表会には映画監督の押井守氏と漫画家の藤原カムイ氏が出席し、作品の解説やコミックアニメーションという表現方法についての考えを述べた。
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「コミックアニメーション」とは、「漫画」と「アニメ」を融合した電子時代における新しいコンテンツ表現のスタイルのこと。株式会社コミックアニメーション社長の建石氏は「国内外で出版物の電子化が進む中、既存の本をスキャンするだけでなく、スマートフォンやタブレットのハードウェアの機能を利用した電子専門のコンテンツを作っていきたい」と同社設立の趣旨を説明した。
漫画とアニメを融合させ、電子書籍ならではの表現を生み出す――この趣旨に賛同し、第一弾作品に参加したのが、「攻殻機動隊」などの制作で世界的な映画監督として知られる押井守氏と、「ロトの紋章」などのヒット作で知られる漫画家の藤原カムイ氏だ。
まず押井監督が手がけた「ちまみれマイ・らぶ」から紹介しよう。
20日よりAppStoreで配信中の「ちまみれマイ・らぶ」は、献血マニアの高校生<僕>と、突然現れた本物の美少女吸血鬼「マイ」との生活を描いた作品で、押井監督にとっては「うる星やつら」以来のドタバタコメディとなる。脚本は山邑圭氏、キャラクターデザインは左氏、ディレクターは水野歌/ロマのフ比嘉氏が手がけている。
本作の特徴は、漫画からコマ割りの概念を取り払った画面構成だ。一言でいうとテキストアドベンチャーゲームのスタイルに近い。タップで物語を進め、効果音やサウンドが物語を盛り上げる。この手法を新しいと見るかどうかは評価が分かれそうなところだが、少なくともあの押井監督が久しぶりにラブコメを手がけたという点は注目を集めそうだ。
今回の作品制作について押井監督は、「アニメーションはいったん見始めたら映画と同じで見るのをやめるしかないけど、前にさかのぼったり、飛ばして見たり、気に入ったところだけを見ることができない。コミックアニメーションはそれができるのが醍醐味」と既存の手法との違いを述べ、さらにスマホやタブレットといったハードの魅力について「子どもの頃、布団の中で漫画を読んでいて母親に怒られていた。iPadの面白いところは、そういう布団の中でコンテンツを眺めるというポータブルな楽しみ方ができること。個人的には今回の作品も夜に布団で一人で見てほしい」と語った。
そんな「ちまみれマイ・らぶ」は、吸血鬼の女の子と献血マニア主人公とのラブコメを描いた物語で、"血"が物語の重要なモチーフになっている。また押井監督曰く、「表現はコミカルだが、お話はシリアス。バイオレンスも入っている」という。
この設定に、海外の記者からは「日本の社会における献血マニアの魅力って?」というユニークな質問が飛び出し、押井監督は苦笑しつつも「僕個人は血を見るのは嫌いで、ちょっと血が出ただけで大騒ぎするし、自分の作品でもあまり使わない。でも日本人は血液型にもこだわるし、血をどこか美しいものとしてとらえている。日本において血というのがある種の文化なのは間違いない」と回答。また、「吸血鬼が血液型を気にするとしたらどうなるかなってことを考えているうちに面白くなってきた」と、本作のストーリーを思いついたきっかけについて語った。
一方の「銀色のうさぎ」は、漫画家の藤原カムイ氏が作画を手がけた作品で、妖怪の世界に迷い込んでしまった少年が超遠視能力を持つ一つ目小僧に変身し、「銀のうさぎ」にまつわる冒険に旅立つという異世界ファンタジー。
従来の漫画表現をベースに、デジタルデバイスならでは機能を活かした直観的かつ立体的な表現を取り入れた意欲的なコンテンツとなっている。原案は久保淳氏、脚本は伊藤和典氏が担当する。
一見するとフルカラーの漫画そのものだが、特徴的なのは漫画をレイヤーと呼ばれる"層"に分け、デバイスを傾けることでレイヤーを個別に動かすことができるという独特の演出だ。たとえばコマの中の特定のキャラクターや背景だけを左右に動かして楽しむことができるといった具合だ。また、特定の箇所をタップすると色が変わるなど、ゲームでいうところの"隠し通路"のような遊び心が随所に散りばめられている。もちろん、そうした演出抜きで純粋に電子コミックとして楽しむこともできる。
藤原氏は本作について「納得のいく形が形が出てこなかった。電子上でどういうものが表現できるか模索していた」と語り、今後については「次の作品については確約はできませんが……」としながらも、「ハードウェアについては新しいアイデアが出てくると思うので、私たちもそれを生かした面白いアイデアを作っていきたい。たとえば見開きで本のようになるタブレットなんかがほしい」と新しい表現に意欲を見せていた。
建石氏によれば、今回の2作品はまず日本国内で売れてから海外に広がっていくと予想していたものの、ふたをあけてみれば英語版との同時リリースということもあってか海外からのアクセスが予想以上に多く、大きな反響を得ているという。
また、コミックアニメーションという新しい市場については、短期間でアプリケーションをリリースし、コストを下げてビジネスを成立させていきたいと語った。
押井監督曰く、「業界は保守的だから、新しいことをやろうとするとやめておけと言われる。でも僕らは新しいことをやっていないとモチベーションが上がらない。これ(コミックアニメーション)をやってから、また漫画を描いたりアニメを作ったり、行ったり来たりすることが大事なんだと思う」とのことで、コミックアニメーションの今後の可能性に手応えを感じているようだった。
「ちまみれマイ・らぶ」「銀色のうさぎ」は、AppStoreにてダウンロードできる。