米国のスターよ、甦れ! 米国に押し寄せる英国人俳優の波(ウォール・ストリート・ジャーナル) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130326-00000569-wsj-int


ダニエル・デイ=ルイスは先ごろ、米第16代大統領エイブラハム・リンカーンを見事に演じて3度目のアカデミー賞を受賞した。デイ=ルイスは英国の桂冠詩人の息子でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのメンバーだ。私は歴代大統領の中でも最も米国人らしい大統領を英国人が演じることについて深くは考えなかった。デイ=ルイス氏はこれまで既にモヒカン族やニューヨークのギャング団のリーダー、カリフォルニアで油田を掘り当てた男の役を演じてきたからだ。

しかし、映画「リンカーン」でユリシーズ・グラント将軍が登場したときにははっとした。グラント将軍を演じたジャレッド・ハリスはテレビシリーズ「マッドメン」でお高くとまった英国人のレーン・プライスを演じていた。誤解しないでほしい。ハリスは素晴らしい(父親の故リチャード・ハリスなら、役柄のダンブルドア教授のように「brilliant」と言ったことだろう)。だが、米国で最も素晴らしい大統領だけでなく最も素晴らしい酔っ払いも英国人が演じている。われわれはそんなところまで来てしまったのだろうか。

実際、英国人俳優は米国人から最高の役を静かに奪っている。いとも簡単に。

私たちは長い間、悪人がキングズ・イングリッシュで恐ろしい脅し文句を吐くことを受け入れてきた。この流れはジェレミー・アイアンズやアラン・リックマン、マルコム・マクダウェルから始まった。しかし、米国を象徴する実在の人物の役を英国人が次から次に手に入れている以上、私は抗議しなければならない。

ヴァージン・アトランティック航空に乗ってやって来るロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身の俳優たちを送り返すには、誰に電話をすればいいのだろうか。バットマンやスパイダーマンではない。今ではこの2つの役も英国人が演じている。スーパーマンは助けに来てくれるだろうか。残念だが「スーパーマン」の新シリーズ「マン・オブ・スティール」で主役を演じるヘンリー・カヴィルは真実、正義、そして出身地である英国王室属領ジャージー島のために戦っている。

テレビドラマはかつて、ジェームズ・ガーナー、トム・セレック、ジェームズ・ガンドルフィーニのような根っからの米国人俳優の独壇場だったが、今では英国人の手に渡ってしまった。「トゥルーブラッド」のスティーブン・モイヤー、「リベンジ」のジョシュ・ボウマン、「サン・オブ・アナーキー」のチャーリー・ハナムがそうだ。昨年、エミー賞を受賞したダミアン・ルイスは「ホームランド」で秘密を抱えた米海兵隊員を演じたが、ルイス自身、祖父がロンドン市長だったことを隠している。

 「ウォーキング・デッド」に出演しているアンドリュー・リンカーン、デービッド・モリッシー、ローレン・コーハンという3人のスターはジョージア州特有ののんびりした話し方を英国で学んだ。アンドリュー・リンカーンは間違いなく米国人の名前だろう。しかし、悲しいかな、彼はロンドン生まれで、本名はアンドリュー・クラターバックだ。映画に出演している俳優でクラターバック以上にディケンズの作品に出てきそうな名前の人物といえば、ベネディクト・カンバーバッチがいる。彼は「8月:オサージュ郡」の映画版でオクラホマ生まれの人物を演じる予定だ。

 われわれ哀れな米国人は、英国の流刑地だったオーストラリア出身の俳優にもこてんぱんにやられている。サイモン・ベーカーからポピー・モンゴメリーまで、オーストラリア人もまたテレビドラマの役を奪っている。米国のテレビドラマを代表する「ハワイ5-0」のリメイク版でスティーブ・マクギャレットを演じているのはシドニー出身のアレックス・オローリンだ。

 なぜこんなことが起きているだろう。キャスティング会社に出向いたハリウッドのプロデューサーは美しい英国式のアクセントで雑談する俳優に誘惑されているのだ。英国人は「文句を言うわけじゃないけど、405号線の渋滞はひどかった」との文章を英国のスラングで話していても、そつなく王立芸術院仕込みの米国式アクセントに切り替える。このストイックな俳優は心の奥底に複雑さと魅力を秘めているという潜在的なメッセージが伝わる。彼はかすかなアールグレイの香りを残しながら英国風に「さようなら」とあいさつする。そしてわれわれ米国人は驚かされるのだ。

 米国人はどうやって反撃すればいいのか。この革命に勝利できるかどうかは残る米国人スター次第だ。彼らには巨額のギャラやロサンゼルスのジムでの「ソウルサイクル」のクラスを投げ捨てて、英国で英国人らしい役を奪ってもらわなければならない。ブラッド・ピットはあごにたるみができつつあるからウィンストン・チャーチル役ができる。アンジェリーナ・ジョリーにはタトゥーをファンデーションで隠して、ビクトリア女王を演じてもらおう。アダム・サンドラーが演じるハムレットを、ティナ・フェイのジェーン・エアを、マシュー・マコノヒーのマーティン・チャズルウィットを見てみたいものだ。

 ついにはマーク・ウォールバーグやポール・ラッド、ザ・ロックという名前がジェームズ・ボンド役にキャスティングされる日が訪れるかもしれない。そのときには、英国映画テレビ芸術アカデミーの会長を務めるウィリアム王子は、米国の責任者に電話をして、英国人の役は英国人が、米国人の役は米国人が演じよう、と休戦を申し出るしかないだろう。

 しかし、時間は刻々と過ぎていく。オバマ大統領の映画が制作される前に休戦を取り付けなければならない。米国のキャスティング・ディレクターはきっとイドリス・エルバを起用したくなる。エルバはテレビドラマ「ザ・ワイヤー」でボルティモアの麻薬王を演じた素晴らしい役者だが、イースト・ロンドン出身だ。それともデービッド・ヘアウッドか。ヘアウッドは「ホームランド」で米中央情報局(CIA)のテロ対策センターのトップを演じたが、 現実の世界では大英勲章(MBE)を受勲している。

 米国のスターよ、英国に急げ。米大統領と米国にはあなた方が必要だ。

(ラゼブニック氏はテレビアニメシリーズ「シンプソンズ」の作者の一人)