「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作、文庫版にして9冊の一気読みというのをやっちゃいまして……はい、食事する間も惜しんでページめくってましたわ。大体1日に1冊のペースで9日間、本を読む以外のことは何もしたくない日々。起きてる時間で用事のない時はほぼ目で活字を追っかけているという状態。疲れると寝て、目が覚めたらまた読書三昧(至福)。シリーズものをこれだけ続けて読んだのは15年ぐらい前に「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの原作である「指輪物語」全6冊にはまって以来かな? 


ところがこちら「ゲーム・オブ・スローンズ」の方は9冊読んでもまだ全然終わらないの! 未だ物語り半ば。この先どーなるんだ、おい! 大体登場人物多すぎて次が出るまで全部覚えてられないわ、という状態なので読み終わっても何故か思ったほどの達成感というか満足感が得られなかったのがちと残念。虚脱感ともちょっと違うんですよね。だって現実世界に戻って来られない程感動した……ということがないんですもの。あー読んだ読んだ、というのが一番近いかしら。テレビドラマの「24」を1シーズン分ぶっ続けて見た時の感覚に近いです。この、感動の無さが「指輪」と全然違うところなのよね。

いえ、「ゲーム・オブ・スローンズ」原作だって全部完結したのを読んだなら大いなる感動に満ちて読み終わったあともしばらく現実の世界に帰って来られなくなるのかもしれませんが、まだ第4部が終わったところなのでね。今のところ7部作になる予定ということなので、まだこれから。ちゃんと完結するのかどうかは、作家の健康次第かも。

というわけで、物語に関しての感想というのもあまり書けないんですが、読んでいて思ったのが「アメリカのテレビシリーズ見てるみたい」でした。「ゲーム・オブ・スローンズ」、むろん現在はテレビドラマ化されてて日本でも放送されているわけですが、最初は小説として書かれたものでドラマ化を念頭においたものではなかったはずなのですが、なんと申しましょうか構成が最近のアメリカのドラマっぽいのですよ。

似てるなあと思ったのがまず「LOST」。あ、お話そのものじゃなくてシリーズ構成が。第1部=第1シーズン(以下同様に対応)はとにかくおもしろくて、登場人物もまだキラキラしてて何となくだけど「いい方」と「悪い方」に分かれてて、彼らの間の人間関係が深まったり或いは過去の因縁に触れたりするのに興味をそそられてどんどんどんどん読み進んでしまうという状態。最後がどうなるのかは見当つかないけれど、まだ物語が始まったばかりなのでそれも気にならないし、作家の方も受け手を退屈させまいと必死ですから文句なしにおもしろいんですよね。

これが第2部になると、第1部の人気に少々あぐらをかいてしまう部分が出て参ります。直線的にぐいぐい読者(視聴者)を引っ張らなくてもよくなったので物語上の「遊び」の部分が増えていくんですよね。それはそれでおもしろいんですが、本筋はどこへ行ったの? という場面もちらほら。メインキャラクター以外の登場人物も増えるし、それらサブキャラのエピソードもそれにつれて多くなる。物語に深みを与えようというのか、それまで「いい人」のはずだったキャラのそうではない点を出したり(これは少ない)、それまで悪い側だったキャラが「どーしてそんなヤツになったか」という過去を掘り返し始めたり(これが多い)して、白黒がはっきりしなくなっていきます。読んでいる側としては深みという名の混迷にはまった気分。この辺で物語りの方向がどこへ向かっているのかわからなくなります。

第3部は第1部の伏線をある程度回収しつつ、最初の主人公に一応の華は持たせつつ、でもまだ全然物語りは終わってないんだよ~という展開。すでにキャラクターが多すぎて収拾つかなくなっているので、将来的に使い道のない、或いはこのまま生かしとくと後でめんどくさくなるようなキャラの皆殺しが始まります。結構描き込んだような(テレビだと人気のあるような)キャラもあっさり殺しちゃいますね~。物語のおもしろさとしては、一応のクライマックスなのでおもしろいっちゃおもしろいんだけど、でもまだいろんな問題全然片付いてないよ~という不満が噴出する頃。

そして第4部。これは「LOST」でも一番つまんないシーズンだったような気がする(よく覚えていないし)。伏線の回収は一旦よそにおいといて、サブキャラや新キャラのエピソードのてんこもり。私は読んでて果て自分は「ゲーム・オブ・スローンズ」を読んでたはずなのにいつの間に「デスパレートな妻たち」になったんだ? と首をひねりましたよ。物語は混迷を深め、作者は一体これをどこに着地させるつもりなのか読者には見当もつかなくなってしまいました。大体メインキャラのほとんどはどこに行ったのよ? という状態。もうこのままやめてもいいかな……という気もちらほら……。

もっとも「LOST」の場合はその分第5部が劇的におもしろかったので、本の方も第5部にあたる「A Dance with Dragons」はきっと超絶おもしろいに違いないと期待はしているんですが。

ただ、どこまでいっても、結局自分の中でこの「ゲーム・オブ・スローンズ」が「ロード・オブ・ザ・リング」を超えることはないだろうな、というのは今までの段階でわかりましたね。たぶん、「ハリー・ポッター」も。それは好みの問題ではありますが、だってやっぱり「ゲーム~」はテレビドラマのレベルなんだもん。

何が違うって、気高さ、崇高さ、そういったもろもろの人間の精神が究極に示すことのできる美しさ。そういったものを体現していたアラゴルンやフロドやサムに匹敵するキャラクターがいないのですわ。

もちろん「ロード・オブ・ザ・リング」とは書かれた時代が違いますから、キャラクターをそんな美化してキレイキレイに描けないというのは分かっているんですよ。できるとしたらジュヴナイル。例えば「ハリー・ポッター」のように。

でもそれ以前に書き手である作家の資質の違いなんですよ。
「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作である「氷と炎の歌」の作者であるジョージ・R・R・マーティンさんは、恐らく「悪い奴」を描く方が好きなのです。だってそういうキャラを書いている方が楽しそうだし、そのキャラクター達が巻を重ねるにつれ魅力的になっていくのに対し最初主役側かと思われていた「いい人」達の描写がどんどんおざなりになっていきますからね。どこかで、書いてる内に、方向が変わってるんですよ。まあ作家にとって正義の味方的な人は動きが限定されるからつまらないというのはあるでしょうが、それでも「バットマン」のシリーズを撮りきってブルース・ウェインの苦悩を深く描いたクリストファー・ノーランに比べると、マーティンさんはさっさと「いい人」を見限っちゃったと言っていいでしょう。まあ、映画と小説はメディアが違いますから比較してもしようがないんですけどね。でも、人を崇高なものとして描くことはまだできるのに、マーティンさんの物語ではそれは期待できないんだな……というのが正直な感想なんですよ。スティーブン・キングにはできるんですけどね、それ。


でもまだ第4部までしか読んでないので決めつけてはいけないのです(自戒)。これから物語がどう展開していくのかはまだまだ未知の世界なので。


とはいえ、これだけ読むとね、作家のクセというのかトラウマの在処というのが分かって参ります。それがどうも私の好みとはちょっと違うんですよね。この方は美形キャラに外傷を与えて消えない傷や一生ものの障がいを残すのが大変お好きなようで、これが美形好みの私には読んでいて胸が痛いところなのですわ~。ティリオンという生まれながらに心以外に美しいものをもたない登場人物もおりますが、どうもそういう「醜さ」をしょったキャラクターの方により感情移入して書いてるフシがあるのですよ。私としては「銀河英雄伝説」みたいに登場人物皆完璧美形、といった作品の方が読んでいても好きなんですけどね~。想像するだけで嬉しいじゃん。話戻して、ひどいケガを負うのは美形だけではないのですが、幾ら設定が戦乱の世の中だからといってちょっと多すぎない? というレベルなんですよ。一人や二人じゃないから。え~と、なんていうのかな、他の作家だったら美形キャラを生かして残すんだったらそこまでひどい傷は与えないだろうっていう感じ。普通素直にそのまま死なせますよね。生かしておくならそれが一つのテーマになるはずなんだけど(障がいを克服して生きる術を得る、とか)、ど~もそこまでのテーマ性も今の所見いだせないので作家の趣味かトラウマかって思っちゃうのね。いずれはそれらが全て伏線であったことが明らかになる日が来るのかとも思ったけれど、それだけでもなさそうだし。かといって残酷描写に淫しているわけでもないのが救いですが。

意外と男(少年も大人も)のメインキャラは根が純だったりするのがせめてもの救いですか。トラウマはおいといて、おそらくこれがマーティンさんの本質ですね。そこはちょっと安心できる部分です。

とはいえ、女性をいっぱいだすとデス妻になっちゃうし、少女は少女で別の生き物だし、母は母でまた母性という名の狂気だったりして。なかなか読んでて疲れるものもあります。

でも、一度読み出したらページをめくる手が止まらない。それだけは請け合います。


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