クローネンバーグファンのくせに「ブルード」とか「スキャナーズ」ばっかり見て肝心の「コズモポリス」を見るのがすっかり遅くなってしまった私。だって「トワイライト」のロブ様ファンがクローネンバーグ作品見たらどういうリアクションするのかと思うと恐いものがありまして。
幸い「コズモポリス」は「ザ・フライ」とか「イグジステンズ」みたいに人体変容系ではないので、クローネンバーグは手ひどい非難を受けるということはなくてすんだようです。
でも、外見は普通の人間のままでも、内面が次第に狂気に蝕まれて別のものに変わってしまうというクローネンバーグ特有の描写は「コズモポリス」に健在でした。最近のヴィゴ・モーテンセンが出演していた作品群に比べると、より顕著な感じさえしましたね。
ヴィゴやヴァンサン・カッセルやマイケル・ファスベンダーといった俳優さん達はすでにこれまでの作品で正気と狂気の間をいったりきたりするような演技をしっかり印象づけておりますので、観客は彼らを見るだけで一種危険な妖しい魅力をそこに感じとるようにしつけられているわけですが、ロバート・パティンソンはそうじゃありませんもんね♪ 「ハリー・ポッター」とか「トワイライト」の好青年なイメージがまだまだ強いのですよ。とってもハンサムで、乙女心をかき乱すロマンチックな雰囲気も備えてますしね♪
しか~し、「コズモポリス」のロバートは違いました!
彼の演技力は知ってたつもりですが、それをいかんなく発揮して、徐々に壊れていく主人公に見事になりきってましたわ。雰囲気的に「ビデオドローム」のジェームズ・ウッズとか「戦慄の絆」のジェレミー・アイアンズに近いですね。静かに静かに演じているのに、彼の中で狂気が次第に満ちていき喫水線を超える瞬間を目にできるという感じ。
もうこれは、ロバートなくして映画化はできませんでしたね、「コズモポリス」。ワタクシ原作読んでないのですが、とても読みたくなってしまいました。だってセリフの一つ一つが美しいんですもの! 会話なのに、まるでお互いが詩を語っているようなんです。まあだから会話としては全く噛み合ってなかったりするんですが、それでも平気なぐらい目にする(字幕なので)言葉が美しい! それがロブ様特有のあの思い詰めた表情で語られるんですからたまりませんよ。
しかし、よくこれ、「コズモポリス」、映画化できたなあと思いました。だって、ほとんどがロブ演じるエリックとその知り合いの誰かの二人の会話だけで構成されているんですよ。つまり物語らしい物語というものはないんですわ。よくこれにちゃんと動きをつけてメリハリを与えることができたものだと感心しました。さすがクローネンバーグだわ。
相手の「誰か」が変わっても、メインがロブな間は全然退屈しないんです。それはやっぱりロブの顔がとても美しいから、それだけで見る価値があるんですよ。まさに主役としてのロバートの存在価値。これが終わりの方になってポール・ジアマッティが出てきてしゃべり出すと途端に私の意識は体を離れて眠りの世界へと漂って行っちゃいましたからね。ポールの声が響かないというのもその理由の一つですが。それまで出てきてエリックと噛み合わない会話をしていた相手は男も女もよく響くいい声と特徴のある話し方をしていたんですが、ポール演じるベノだけはボソボソっとしか喋っていなかったような。もっとも私がポール・ジアマッティ嫌いなんでそう感じただけかもしれませんけどね。
「コズモポリス」はエリックが白いリムジンに乗るところから始まります。
小型バス並の長い車体をもち、快適に過ごすための設備が充分に整ったそのリムジンの内部はまるで宇宙船のカプセルのようにも見えます。そこにいれば外界の騒ぎからは隔絶され、保護されて安全に過ごすことができるのです。その中で仕事もすればセックスもする。彼の生活はそこにあるといってもいい。全てが順調で上手くいき、誰もがうらやむような暮らしぶりのように見えて……
でもその日、彼はどうしてもそのリムジンで街を横切って床屋に行くことができません。
それが全てのケチのつけ始めで、彼の予定通りに運ばないことが次々に起こり、それが徐々に彼の内部を崩壊させていくのです。パズルのピースが一つ狂ったら、全てが台無しになるように。
その、思い通りに行かない一日の終わりにエリックは遂にリムジンを降り、それがガレージに入るのを見届けます。そして自ら望んで無防備になったところで、ベノと邂逅するのです。
それはエリックが望んだことだとも言えます。
お金で買えるものは全て自分のものにしてきたた男、それがエリックです。しかし彼は実はそんな生活に飽き飽きしていた。「生きている」という実感を得るためには刺激を求めるしかなくなって、その先に見えるものは「死」でしかないと悟ってもいた。何を買っても、結局自分の「生きる喜び」につながらないという事実に気がついてしまったら、あとは絶望しか残らないのかもしれません。
結局のところ、エリックは最後に自分の望んだとおりのことをできたのでしょうか?
その判断は観客に委ねられているのですが、実はそれを左右するのがポール・ジアマッティなもんでね、結末は謎のままです。なにしろポールって、「期待はずれ」が役回りなもので。どっちであれ、観客が望んだのと違うことをやったと思うのが正しい解釈かも。
まあ、そういう意味じゃポール・ジアマッティも名優だよね。
その他美人女優さんや性格俳優さんてんこもりの「コズモポリス」ですが、私が嬉しかったのはケヴィン・デュランドが出てたこと♪ 「ロビン・フッド」のリトル・ジョンとか「レギオン」のガブリエルとか、「リアル・スティール」の金貸しとか、見たら忘れられない顔と体のあの人です♪ 今回もピッタリな役回りでしたよ~ん♪