ポゼッション「公式サイト」
はい、これは「エクソシスト」に始まり「ポルターガイスト」のパワーを受け継ぐ由緒正しい血統書付きのアメリカン・ホラーでございます。アメリカ人一家の家族愛さえ
あれば困難にも打ち勝ると信じてた頃の懐かしささえ感じますな。
(下の方、ネタバレになります)
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とはいえこんな御時世でございますから、登場する御一家も当然のように壊れております。夫婦は数ヶ月前に離婚していて、元妻の方にはすでに新しい男がいます。元夫の方は心機一転をはかりたかったのかまだ周囲は造成中の新興住宅地に新しい家を買い、引っ越したばかり。そこで娘二人と週末を過ごすのですが、家を建ち並んでいるものの住人の気配はほとんどなくて寂しい限り。悲鳴をあげても闇に吸い込まれるだけみたいな、まさにホラーにぴったりの舞台設定を得て物語は恐怖の始まりを迎えるのでございます。
え~、ちなみに話そのものはそんなに恐くはありません。前にも書きましたが「開かずのなんちゃら」を開けた者に罰が当たるというパターンの昔ながらの怪談です。これが恐いとするなら、それは「実話がベース」だからでしょうね。「怪談」というのも「これは本当にあったことです」という前提で語られるから恐いわけで。稲川淳二に「ポゼッション」語らせたら最高に恐いんじゃないでしょうか。
と~はいえ、この映画のどこまでが「本当にあったこと」なのかというと、た~ぶん「妙な箱が売りに出されて買った人が不幸な目にあった」程度ではないかと。細かい部分は全部創作なんでしょうね。だってあまりに話が上手くできすぎてるもの。
実は「ポゼッション」、ホラーの体裁をとりつつ、語られているのは絆を取り戻していく家族の話なのです。
この作品の主役は先に書いた離婚した家族の父親の方なんですが、どうやら彼の仕事熱心がたたって妻との間に心のすれ違いが生じ、最終的に三行半を突きつけられたらしいんですな。さらに同じ理由で長女からも距離を置かれている様子。まだ思春期前の次女だけがお父さんを変わらず慕っているけれど、両親の離婚という事実が彼女の心にも影を落としている、とうことが説明っぽく語られることなくちょっとしたエピソードの積み重ねで大変よく理解できるようになっております。脚本家も俳優も一流揃いね。
離婚した妻の方を演じているのが「クローザー」のキーラ・セジウィック。この方本当に上手くて、気持ちとしては元夫に対する怒りがふつふつとたぎっているですが、心の中ではまだ彼を愛しているという女心の揺らぎを完璧に表現しておりました。
娘達がきちんとしつけられて真っ当に育っているので、この両親は自分達の役目をしっかり果たしてきたし、父親が仕事に夢中になって子どもの事を忘れてた場合でも母親がでフォローしてたんだろうな……と観客は自然にその家族関係を危うさもろともいつの間にか受け容れてしまいます。
仕事に夢中になると他のことを忘れてしまう父親役はジェフリー・ディーン・モーガン。「P,S.アイラヴユー」でジェラード・バトラーの二番煎じみたいな雰囲気で出演してましたが、ジェラードに比べるとごく普通の男っぽく見えます。「ポゼッション」ではその普通っぽい感じがよく合ってました。この普通のお父さんが次女を救うべく東奔西走する姿がいいんですね♪ 普通ですが元々仕事熱心な人ですので、やると決めたらとことんやる。大変納得できる性格設定になっております。
とはいえ普通の人ですからできることには限界があるわけで、最終的には誰かに頼らなければならない。悟空とか亀仙人がいればよかったのですがこれは「ポゼッション」で「ドラゴンボール」ではないので魔封波じゃなくて悪魔祓いを行わない限り次女を救う手立てはないのですね。そこで家族が結束し、おとーさんが次女のために命さえ投げ打つ覚悟を決めたことで、妻や長女との間に失われていた絆を取り戻すのですよ。アメリカ人の家族愛に勝てるものはこの世にないのです。
という、ホラーにしては珍しいぐらいハートウォーミングな映画なのですが、でもやっぱり恐いこた恐い! 超絶恐い!! そうじゃないとホラーになりませんからね。「エクソシスト」だって「ポルターガイスト」だって死ぬほど恐かったでしょ。
「ポゼッション」は実話ベースの怪談の恐さに加え、観客をドキッとさせる仕掛けも生理的嫌悪感を与えていや~な気分にさせる手法も存分に使ってます。これが効果的じゃないと、ホラーはただただ退屈するだけなんですが、「ポゼッション」はさすがサム・ライミが携わっているだけ合って上手かったですね♪ 何か訳のわからない事が起こっているけれど当事者以外にそれを理解しているのが自分だけなので、周囲には自分の方が異常と思われる……というスリラー的展開も上手に組み込まれていてサスペンスを盛り上げます。「ポゼッション」の場合、両親が離婚したことが原因で次女が何か精神的な問題を抱えてしまったのではないか……という周囲の憶測が余計に問題の解決を遅らせるというもどかしさもサスペンスになっておりました。非常に現代的ですね♪
まあ、「マニアック」に比べると正統派ホラーの「ポゼッション」の方がおもしろいし、それに見やすかったです。やっぱり映画は綺麗じゃないとね。