「クロユリ団地」(公式サイト


大ヒットしているそうなので見に行ったのですが、ダメですね、この手の日本のホラーって私全く恐怖を感じないのです。特にこの「クロユリ団地」では映像的に恐いと思う部分がほとんどなくて……唯一恐かったのが「リング」にも出てきていたあの細長い楕円の鏡かな? 今回、この鏡に関する因縁というのはなかったのですが、あの形はシーンに登場するだけで恐怖をそそりますな。「リング」は見ながら震え上がり冷や汗が背中を伝う程恐かったからね。


「クロユリ団地」で恐かったのは音響。というか、音で無理矢理恐さを演出してました。いかにも恐怖感を煽るようなメロディーをシーンにかぶせることで観客に「ここ、恐がる所ですから!」と念押ししてるような展開のしつこさに少々うんざりしましたわ。次はきっとテロップ字幕で注釈がつくわよ、「今が恐がる時です」みたいに。


映像で恐さを覚えなかった理由の一つとして、自分が一時期クロユリ団地みたいな造形の建物に住んでたことが挙げられます。昔懐かしこそあれ、そこに恐怖は感じないもんね。当時一番恐かったのは管理人とハウスダストぐらいで、暮らしは平和そのものだったから。ま、時代が違うんでしょうけど。だからまあ、如何に映像でおどろおどろしく見えるように団地が撮影されていてもね、全然平気なわけ。というより、これもやっぱり「どお~だ~、恐いだろ~、恐いと言え~」と無理強いされてるようなあざとさを感じちゃうわけです。そんなこと言われたって恐くないもんは恐くないんだってば。


如何に目と耳両方から『「クロユリ団地」は恐い映画として制作されています』という情報を受けていたとしても実感として恐怖を感じられないのにはリアリティーの乏しさとストーリー展開のお粗末さが挙げられますが、私自身がこの作品が訴える「恐さ」に全く共感できないというのが一番の理由でしょうね。だって理解不能なんだもん。


いや、この理解不能な理不尽さが一番恐いんだと言われれば確かにそうなんですが、でも「クロユリ団地」の恐怖のポイントとそれは微妙にズレているような気がする。だって主人公が自分の身にふりかかっている事態を理不尽と感じていないもの。何が理解できないって、そう考えるヒロインの精神構造だよ。だから私は彼女と恐怖を共有できないの。


彼女の身に起きていることって、全然彼女に責任ないんですよ。それなのに彼女は何故か全部「自分が悪い」って思い込んでいるのね。「悪いのは自分なんだから、その罰を受けて当然だ」とまで思い詰めている。「クロユリ団地」はホラー映画だから、その「罰」の部分が恐怖の対象なんですが、でもそもそも彼女にそんな罰を受ける必然性なんかどこにもないんですぜ。単に彼女がそう思い込んでいるだけ。


これね、ホラー映画じゃなかったら、DV被害者の精神構造ですよ。ドメスティック・バイオレンス。愛する彼が私に手を上げるのは私が悪いからで彼が悪いんじゃない、と思い込んで日々殴る蹴るの暴力を受けても黙って甘んじている人。さもなきゃデート・レイプ。レイプされたのは私がうっかり彼を部屋にあげてしまったせいだと自分を責め続ける人。ほぼそういう人に近いのです、「クロユリ団地」のヒロイン。全てを自分のせいにして、自分を責め続けてるわけですが、それだけなんだよね。


洋画ならクリストファー・ノーランの「バットマン」シリーズでも、先にあげた「エンド・オブ・ホワイトハウス」でも身近な人の死の責任を自分で負っていても、そこから一歩前に進む決心をして、さらにそのための行動も取るじゃないですか。まあ、彼らはヒロインじゃなくてヒーローだけどもさ。でもいつまで~も同じ所を堂々めぐりしながら「私が悪かった。私のせいだ。ごめんなさいごめんなさい」と呟き続けたりは、例え彼らが女だったとしても絶対しないと思う。そんな事してたって何の解決にもならないから。今の自分の状態から抜け出るためには何をしたらいいかと暗中模索しつつ、それでも前へ進んで行こうとする強い意志がないと、人生止まっちゃいます。そんな人生、つまんないっての。

実際、「クロユリ団地」に出てくるのは人生止まっちゃった、というより自分で止めた人ばっかりなんです。そりゃあ私が見てもつまらないわけだわ。


何かに責任を感じるとか、何かを負い目に思うという感情は分かりますよ。時間を巻き戻せるものならやり直したい過去はいっぱいある。その責任を取り、負債を払い、罪を償うというのなら、私にも理解できます。


だけど、もう一回言いますけど、「クロユリ団地」のヒロインには、そもそも直接の責任はないんです。そこに至るキッカケは作ったかもしれないけれど、それが原因になったわけではない。それなのにその些細なキッカケを必要以上に重く感じて「全部自分のせいだ」と思い込んでいるんです。それってすでに「責任感がある」とかないとかいう問題じゃないわ。その思い込みの激しさが自ら不幸を招いているのよ(これはホラーなの招き寄せられたのは霊ですが)。


なんちゅーか、その何でも自分が悪い、自分のせいだと思い込みたがるヒロインの性格が一番ホラーだわ。超自然すぎて私には理解の外だわ。


実はリアリティーの無さもほとんどがこのヒロインの性格造形に起因しているのですが、このあり得なさっぷりがホラーで観客呼んだんですかね? 欧米のホラーに比べると、日本人体質べっとりなところが受けたのかもしれません。


この「日本人体質べっとり」な部分はネタバレになりますので、別記事にて。