映画美術監督・種田陽平、転機になった『キル・ビル』から新作『清須会議』まで語る(クランクイン!) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131110-00027713-crankinn-movi
「種田陽平による三谷幸喜映画の世界観展 『清須会議』までの映画美術の軌跡、そして…」が、東京・上野の森美術館で開催中だ。11月9日に公開された『清須会議』に合わせ、映画美術監督・種田陽平の軌跡を紹介している。三谷作品からクエンティン・タランティーノら世界の名匠との仕事を振り返り、「デジタルの時代に新たな作戦で、さらに違う映画世界を作りたい」と語る種田氏に映画美術について話を聞いた。 三谷監督と種田氏の共同作業は『THE 有頂天ホテル』(06)、『ザ・マジックアワー』(08)、『ステキな金縛り』(11)、『清須会議』(13)と足かけ7年に及ぶ。初の時代劇について、種田氏は「世界中どこでも(歴史物は)現代劇よりお金も手間もかかる。でも三谷さんの時代劇は、ぜひ成功させなければならなかった。時代劇でこういう面白い、現代的で新しいものが作れるんだ。CGにどっぷり頼らなくとも可能なんだと示すことが、映画界全体において重要だと思ったから」と話す。
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映画のための世界観を生み出す種田氏は、“リアルだけれど、おとぎ話のような”三谷作品に欠かせない存在となっている。「三谷さんは要求がシンプルではないんです。単純ではつらつとしたイメージの人ですが、映画を作る時は込み入った、複雑なことを考えていると思う。だから一言で『こういう風にしたいんです』という会話はないし、細かくて本当に大変。なかなか難しい大監督だと思いますよ」と語る。苦労の末に生み出された種田氏の美術は、CGに頼らず「役者と共演する」(種田氏)ものとなり、作品世界に大きな意味を与えている。
今やハリウッド、アジアと世界をまたにかけて活躍する種田氏。映画界入りのきっかけは、武蔵野美術大学油絵学科在学中、寺山修司監督作『上海異人娼館/チャイナ・ドール』(81)に絵画助手として参加したことだった。その後、岩井俊二監督の『スワロウテイル』」(96)、リー・チーガイ監督の『不夜城 SLEEPLESS TOWN』(98)などを経て、タランティーノ監督の大ヒット作『キル・ビル Vol.1』(03)の美術監督を務めた。 これが「21世紀に向けた転機になった」と振り返る。「90年代の映画を経て、世紀末にどんな映画を撮ろうか模索していた。次の世紀に映画は残っていけるのか。若い観客に届くのか。『キル・ビル VOl.1』を撮ったタランティーノの態度にそのことをはっきり感じました。僕ら“20世紀の映画少年”として、21世紀にどうやったら映画をもう一度復活させることができるか。彼が強く持っている意識だと思います」と言う。
最近もウェイ・ダーション監督作、台湾の歴史大作『セデック・バレ』二部作(13)、中国のチャン・イーモウ監督の『The Flowers of War ザ・フラワーズ・オブ・ウォー 金陵十三釵』(11、日本未公開)、キアヌ・リーヴスの監督デビュー作『Man of Tai Chi マン・オブ・タイチー 太極侠』(13、日本未公開)と海外作品に次々と参加している。
ウェイ、チャン監督の両作品とも、広大な野外セットを建設する大規模な取り組みだった。チャン監督との仕事で「彼は中国の黒澤明なんだ」と驚いたという。「出来上がっているセットも、現場で撮り始めてから『ちょっと作り変えてくれないか』、『あさってまでに全部直してくれ』と指示を出す。彼が一声かければ、500人ぐらいが一気に動き出す。(チャン監督による北京)五輪の演出のように。ああ、黒澤明がここにいた、と思いました」と語る。台湾映画史に残る大作となった『セデック・バレ』でも、ウェイ監督のこだわりと正面から向き合った。「彼はやりたいことは絶対に貫く。撮りたいものはなんとしても撮る。大変です。でも大変な監督を僕たちは求めている。普通の監督は求めていない(笑)。だからチャン・イーモウが大変なのも、ウェイ・ダーションのような若手が出てくるのも、今のアジア映画界にとってはいいことなんですよ」。
今後は『風と共に去りぬ』のような時代絵巻や、小さなラブコメディーもやってみたい、という種田氏。「また新たな監督に出会いたい。今世紀どこまで働くか分からないけれど、デジタルの時代に新たな作戦で、もっと違う空間、映画世界を作ってみたい。僕はまだまだ映画の可能性を信じています」。(取材・文・写真:阿部陽子)
「種田陽平による三谷幸喜映画の世界観展 『清須会議』までの映画美術の軌跡、そして…」は11月17日まで開催中。