ゼロ・グラビティ」(公式サイト 12月13日公開!


で、公開前ですので、当然見たのは試写会。

例のTCX&ドルビーアトモスがウリのシネコン、この「ゼロ・グラビティ」がこけら落としだったので勇んで応募してたんですがそれには外れ、がっかりしていたところをトーキョー女子映画部に拾って頂き、フツーのスクリーンとフツーの音響で2Dで鑑賞して参りました。


でも、フツーの2D鑑賞でも充分宇宙空間に漂ってる気分になれましたわよ。



というより、これうっかり巨大スクリーンの3Dなんかで見たら絶対船酔い、じゃなくて宇宙酔いすると思いましたわ、私。私の如く三半規管に自信のない、車酔い体質の方は初回は2Dで見ることをお勧めします。それでも3D鑑賞に挑戦するという果敢な方はゲロ袋の用意をお忘れなく。


何がそんなに三半規管に影響を及ぼすかって、予告を見た方はお分かりでしょうが、実際に宇宙空間で撮影されたかのような映像なんですもん。無重力ですわよ、無重力。邦題になっているように重力(グラビティ)ゼロの世界。ちなみに空気もゼロなら当然気圧もゼロ。摩擦係数だってほとんどゼロ。だから一旦衝撃を受けたら、そのパワーのままその方向にどこまで~も移動していきます。その作用に対する反作用で相殺しない限り、ほとんど永遠に止まらないわけ。それが宇宙空間。


この宇宙空間の描写が、これまで見たどのSF映画よりも真に迫って見えるのですわ。そもそもどんだけ大作のSF映画といえど地球上で撮影されてる限りはその重力からは抜け出せないわけで、「スター・ウォーズ」だろうが「スター・トレック」だろうが人間が立ってるシーンはまず間違いなく1Gの重力下にあるのでございますよ。「2001年宇宙の旅」が傑作の名を欲しいままにしているのは、重力化にありながら無重力を見事に表現しているからでしょう。最近の作品で完全に無重力のシーンを地上に再現してみせたのは「インセプション」。これは恐らく自由落下を利用して無重力を生み出してそのシーンを撮影したと思われます。この手法を最初に使って宇宙空間の無重力状態を表現したのが「アポロ13」。しかし「ゼロ・グラビティ」ほど長時間にわたっての無重力シーンはありません。


「ゼロ・グラビティ」、何がスゴイって、ほとんど全編にわたって無重力状続くんですよ。それも、ヘルメットと宇宙服ひとつで真空と隔たっているだけの、船外。文字通りの宇宙空間に体一つで漂っているのです、サンドラ・ブロック。


こ~れはコワイ。

ヘタなホラーよりよっぽどコワイ。

ってゆーか、この前これだけ恐い思いしたのは「パラノーマル・アクティビティ」を試写会で見た時まで遡りますよ。その前は「ソウ」だったから、5年に一回ぐらいしか出会えない恐怖のどん底にたたき落とされる映画、それが「ゼロ・グラビティ」なのです!


この無重力と真空の恐怖を目一杯味わわせてくれるのが、サンドラの迫真の表情! その目の見開き具合を見るだけで、観客である私も一緒になって恐くなって恐怖のアドレナリンがばしばし血中に放出される感じですわ。サンドラってば非絶叫系のホラークイーンとして、「ブラック・スワン」のナタリー・ポートマンと双璧をなすんじゃないかしら? や、この勢いで是非二度目のオスカーとって欲しいものです。それだけの価値のある演技してますよ、ホント。


もう一人の登場人物であるジョージ・クルーニー、彼も最高でした!

大宇宙にたった一人で放り出された時に誰の声を聞きたいかって、もう絶対ジョージ兄貴の声だと思ったわ。こんなに人の心をあったかく、心強く感じさせてくれる声は他にありませんね! しかも、兄貴ときたらその上ユーモアで楽しませ、恐怖に震える人の心を軽くする術まで心得てるんですからニクイじゃないですか♪ この映画、ハンサムな彼の顔が出るシーン、少ないんですよ! 大体いつも宇宙服のヘルメット被った姿で出てきますから。その代わり声はたっぷり聞けます。ジョージの声としゃべり方が好きな人にはたまらない作品だと思います。アタシこれ見て、ますますジョージのファンになっちゃった♪


声といえば、前述の「アポロ13」でいい役演じてたエド・ハリスが声の出演をしています。ぜ~ったい「アポロ13」見た監督が彼の声を欲しがったんだと思うな。宇宙船において地上から聞こえる最も頼りになる声。それにしても登場人物の少ない映画だ。


内容としては、大体「一人の女性に次々と降りかかる重大な危機。彼女は果たしてそれらを切り抜けられるのか?!」といった感じになります。この「危機」の部分が宇宙人だと「エイリアン」、超自然の殺人鬼だと「ハロウィン」などのホラー、普通の殺人鬼だと「コピーキャット」等のサスペンススリラーになりますし、サメとかワニとか野生生物なら動物パニックもの、津波とか噴火とか自然災害だったらサバイバルものとなるのでしょうが、「ゼロ・グラビティ」の場合は全部「人災」なんですよね。その「人災」の中には彼女自身がひきおこしたものも含まれるのですが、とにかくどの「人災」も全く防げないのですよ。


こんな恐怖はちょっとないですね。


普通「人災」なら、人がなんとかすれば防ぐことができるとか、防げなくても生存者を救出する望みがあるとか、映画なら必ずそこに人災ならではの「希望」が描かれているものなんですよ。だってそうじゃなかったらやりきれないじゃないですか?


その「やりきれなさ」を徹底的に描いてるのが「ゼロ・グラビティ」なんです。サンドラが何をしても彼女に降りかかる「人災」は防げない。やることなすこと、出る目は「絶望」ばかり。見ていて自分も死ぬかと思いましたわ。


先程触れた「ブラック・スワン」ですが、ここではヒロインのナタリー・ポートマンを襲う「危機」は自分自身の心でした。だからどうやっても逃げられない。良かれと思って何かしても、常に自分の心はその裏をかいてくる。そういう、何をしても何をしても逃れられない恐怖、それと同種の恐ろしさが「ゼロ・グラビティ」にはあるのです。サンドラ演じるヒロインも、どこかしら自分の内に閉じこもって周囲に壁を作ってる部分があります。舞台は宇宙空間ですが、恐怖に対峙するのは常に人の心。繰り返される危機に直面する内に心が絶望に打ちひしがれて萎縮していく有様、すなわち救いの無さというものがいかに人間を無力にするかがサンドラを通じて克明に描写されているのです。宇宙という地上とかけ離れた場所で起こっている出来事を描きながら、実は人間の心の普遍的な部分を見事にあぶり出しているのですよ。


小さく閉じこもった心は最終的には外界からの一切の刺激をも断とうとするものですが、映画ではそこに「解放」をもたらしてくれるものとの邂逅が大体クライマックスになります。「ブラック・スワン」ではそれはタイトルそのままでしたが、「ゼロ・グラビティ」では……ま、それは見てのお楽しみということで。これは絶対スクリーンで、周囲を闇に包まれて見るべき作品ですので是非最寄りの劇場まで足をお運び下さい。ワタクシ、公開の暁にはゲロ袋携えて3Dに挑戦するつもりです。


「ゼロ・グラビティ」、見なかったら損ですよ!

ところでこれ、原題には「ゼロ」がつかないのです。ただの「GRAVITY」。その理由は最後の最後に分かる仕掛けになっているので、途中でうっかり寝たとしても最後には目を覚ましていてくださいね!