平成24年に実写映画化され、今夏にもその続編2本が連続公開される予定の人気漫画「るろうに剣心」。
幕末の人斬りが、明治の世になり人を生かすために剣を振るうストーリーだ。この作品のなかで、主人公が持つ刀は刃と峰が逆の「逆刃刀(さかばとう)」。刃 で斬り捨てたと思いきや峰打ちとなり、敵を生かす。そんな作者の空想で生まれたはずの「逆刃刀」が、千葉県白井市の旧家から見つかった。インターネット上 では「本当にあった」「想像が膨らむ」などの声も。果たしてその真相は-。(山本浩輔)
発見されたのは全長約28センチで刃渡り約22センチと短い小刀。作品中の逆刃刀と同様、本来鋭利な刃があるべき部分に厚みのある峰があり、一般的な日本刀と比べて全く逆のつくりになっている。
この小刀は昨年10月、同市が江戸時代に幕府直轄の馬牧を管理する「牧士」だった旧家を調査中に発見された。驚いた同市教育委員会の担当者らは、すぐに県教委に美術刀の申請を行った。
しかし、この小刀は、柄に隠れる、刀身と一体になった茎(なかご)の部分が異常に小さいことなどから、「日本刀の製法にのっとっていない」として申請は却 下された。それでも「前例もなく実在しないといわれてきた『逆刃刀』でネット上でも話題となった」(同市教委の担当者)ため、同市郷土博物館で展示され た。3月には市の指定文化財になる予定だ。
千葉県教委の登録審査会で鑑定を担当した、刀剣専門の美術館「塚本美術館」(同県佐倉市)の三 角正人副館長(64)は「刃と峰が逆の刀なんて、見たことも聞いたこともなかった」と驚いた様子。だが、「見えない部分(茎)がとってつけたような粗雑さ に加え、刃の切れ味を最大限に出すための反りを無視しており、刀としてはまったく合理的でない」と首を傾げる。
また、この小刀の茎は小さすぎて、少し力を入れて何かを切ろうとすれば、すぐに折れてしまうほどのもろさだという。
では、この小刀は何のために作られたのか。その目的や刀の製造年などを知る手がかりとなる資料は見つかっていないという。三角副館長は「プロの刀鍛冶が作ったとはとても思えない。明治時代になって、人を驚かすために遊びで作ったのかもしれない」と話した。
また、白井市教委の担当者は、以前行われたテレビ局の取材で「馬の爪きり」の可能性を指摘する専門家もいたと明かしたが、「馬の爪ですら、切ろうとすれば この茎が折れてしまうのではないか」と説明。「この旧家からは鉄扇など実用的でないものも見つかっている。変わったものとして、人に見せびらかすものだっ たのではないか」と推測する。確かに、この小刀の鞘も太く風変わりで、どこか装飾品のようでもある。
専門家の見立てでは実用性などに疑問の声も上がり、漫画の中の「逆刃刀」とはだいぶ趣が異なるようだが、まだ分からないことばかり。ユーモアか失敗か。やはり想像は膨らむ。