「8月の家族たち」(公式サイト )
え~とですね、この作品、映画としてのデキが悪いとか見ていてタイクツするとかいうことは一切ないのですよ。名優を揃えているだけあって演技は見応えあるし、意外な展開も用意されてるのでスリリングだし、爆発シーンはないけど感情が爆発するカットは随所にあるのでハデっちゃハデだしね。
ただ、見ていて全然楽しめないのですよ。見てると心が索漠とした思いにとらわれるわ。8月でオクラホマで、劇中では暑い暑いと言ってるけれど、見ている観客の心は寒々としてくるばかり。
一体何考えてこんな映画作ったんだ?
と鑑賞しながらず~っと不思議に思ってたんですが、これ、元は舞台だったんですね。はいはいそれなら納得だわ。
舞台ならば、確かに傑作だと思うんですよ、これ。久しぶりに一堂に会した親族の仲が時間の経過と共に険悪になり、その内各々の秘密が暴露されて泥沼化して……っていうパターン、舞台には結構ありますもんね。
テレビのホームドラマなんかだとその後何故か仲直りして「雨降って地固まる」とか言って家族の絆がより強まったところで大団円だったりするんですが、さんざん互いに罵った後でありえねーだろそんなこと、とかねてから私は思っておりました。
この戯曲&脚本を書いたトレイシー・レッツさんもその思いは同じだったらしく、この話の中には嘘臭い「許し」なんて一つも出てこないのです。それはそれで潔く、大変リアルだ尤もだと思いはしたのですが……舞台ならともかく映画でそれ見るの、つらいわ。
先にも書きましたが名優揃いのキャスティングで、しかもかのメリル・ストリープがオスカーノミネートの入魂の演技をしてるわけですよ。スクリーンの中は虚構と分かってはいても、彼女を見てるとあたかも今そこでまさに起こっている現実のできごとのように思えてくるのに、そこで交わされている会話があまりにも殺伐として思いやりに欠けるものだと、一言ごとに心にドリルで穴をあけられているいくような気がしますわ。
それに輪をかけてひどいのがジュリア・ロバーツのギスギス女ぶりなんですけど。ず~っと額に青筋浮いてました。美人が台無し。まあそれでも美人だというのが、ジュリアのすごさですね。それでオスカーにノミネートされたのか。この役、長女のバーバラ、ジュリアが演じたのでなければ見るに堪えなかったでしょうね。ジュリアが美しいからこそ、我慢して見続けるって部分、絶対ありますね。母親であるビクトリア役のメリル・ストリープもそうだけれど。
しかし我慢にも限界というものがありまして。
自分どんだけメリルとジュリアのファンでも、これ以上は見てるのいやだわと何度も思いましたね、この映画。
実際この作品って、人がどこまで他人の思いやりのなさに耐えられるかという限界を見せるものなんですよね。その限界を超えた登場人物から一人ずつ退場していくのですが、それを最後まで見届けなきゃいけない観客が一番長く堪え忍んでなきゃならないという……なんで映画見に行って、そんな仕打ちにあわなきゃいけないわけ?! 私には全くもって理解不能でしたわ。
アメリカでオクラホマで8月というのは、よっぽど特殊な環境なのでしょうか? これを普遍とみなし自分にあてはめるのは、どうやったってちょっとムリ! あんたたち勝手に不幸になってて! って感じでしたわ。
これはベネディクト・カンバーバッチが出ているというので見に行ったのですが……出番、少なすぎ! 普段彼が演じる役とは正反対といっていい、自分に自信がもてず常におろおろしている男性像を巧みに演じてました。よくまあ、あのシャーロックともあろう方が、あんなにも情けない顔ができるものだとほとほと感心いたしましたよ。劇中歌をきかせてくれるシーンがあるのですが、歌声も歌唱も見事なのにはビックリ&うっとり。その声と、外見の立派さがちょっとね、です。
その息子を溺愛している父親が役がクリス・クーパー。
先日見た「アメイジング・スパイダーマン2」でも父親役でしたが、それとは顔も性格もかけ離れていて、こちらもビックリ&うっとり。そう、クリス・クーパーって、こんなに素敵な「普通の」お父さんになれるのかって思ったぐらいで……。この方、この作品の中でただ一人「普通」で「真っ当」な役なのですよ。すっごくいい人で、穏やかな顔してるんです。クリス・クーパーの優しい顔って、今まであんまり見たことなかったような気がするんですが、意外なことに英国の名優、ビル・ナイに雰囲気がよく似ておりました。飄々としたお父さん役が似合うのね。
このお父さん、チャールズの存在がこの映画における唯一の救いでしたね。
ただ、最後まで見ると、彼もひょっとしたらある意味「普通」ではなかったのかな、なんて思うフシもあったりして。クリス・クーパーだしね。
男性陣としてバーバラの夫のビル役でユアン・マクレガーが出ておりましたが、妻に頭の上がらない夫を好演するあまり、影が薄かったです。もう一人、バーバラの妹の婚約者役のダーモット・マローニーの方が胡散臭さをまきちらしてた分、目立ってましたね。
これらの男性を一喝するだけで命令に従わせることができるのが、メリルの演じたビクトリアなんですよ。その君臨ぶりがどれだけのものか分かるでしょ?
で、そのビクトリアを力づくでねじ伏せてまで自分の言うことをきかせるのが娘のバーバラなんですわ。
この人達のやってることって、支配権争い。普通、一般家庭では表だってここまで激しくはやらない。特に女性は。特に、大奥とかハレムとかで支配者である男の寵愛を奪い合っているわけでもない場合は。珍しいけど、珍獣と違って見てても嬉しいわけでもない。猿山のボス争いと大して違わないから。
王族とかマフィアで行われるなら血で血を洗う争いになるからもうちょっと見ていてもおもしろいんだろうけど、普通のご家庭で身内のアラを暴き立てながらというのは、ほんと神経にこたえます。映画館に行ってまで、見るもんじゃないわ!