上半期映画興行、昨年実績を大幅に上回るも邦画実写の低迷が顕著(オリコン) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140624-00000312-oric-movi


昨年実績を大幅に上回る映画興行となった2014年の上半期映画シーン。しかし、それぞれの作品に目を向けると、『アナと雪の女王』のメガヒット、上半期映画興行ランキング上位作品の健闘の一方、邦画実写作品の低迷ぶりが顕著に現れている。そんな上半期映画シーンの現状と傾向、低迷原因、そしてこの先への期待を、映画ジャーナリストの大高宏雄氏が綴る。

速報!上半期映画興行ランキングTOP10(興行収入も)

◆メガヒットの裏で顕著になった邦画実写の低迷ぶり

 今年上半期は、昨年実績を大幅に上回る映画興行であった。『アナと雪の女王』のメガヒット効果は当然ながら、興収上位に入ったそれぞれの作品が健闘したことも大きかった。一方で、邦画の実写作品の低迷ぶりも顕著になった。これからの映画界を考えた場合、後者のほうがより重要な意味をもってくるだろう。後年、この2014年はどのように振り返ることができるだろうか。『アナと雪』が切り開いた社会現象としての映画の底力は、確かに素晴らしいし、映画の誇りでもあろう。だが、それ以上に、邦画の低迷がズシンと、その後の映画界に響いてくるような年になっているかもしれないのである。

 興収上位10本からでは、見えてこない傾向を語る。東宝配給の実写作品で、最終興収10億円を下回った作品が、この上半期、非常に多かった。タイトルを以下に挙げてみよう。『銀の匙 Silver Spoon』『神様のカルテ2』『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』『悪夢ちゃん The 夢ovie』『WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~』『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』(2013年12月~2014年6月に公開された作品。推定数字の作品を含む)。これは全く意外であった。

 ちなみに、昨年の東宝配給作品で10億円にとどかなかったのは、全部で8本。上半期だけでは6本あった。それが今年は、上半期だけで先の6本に他のアニメを加えて、8本を数える。これは、異常事態だと言える。東宝のヒットの方程式が、崩れてきたのである。

◆守りの姿勢がうかがえる企画の行き詰まり

 昨年末、今年の東宝のラインナップを見て、私はこう思った。10億円を下回る作品は、いったい何本出るのだろうかと。これは、ほとんどの作品が10億円を超えるのではないかという意味であった。それほどに、実写作品を中心に興行見通しの安定感が抜群であった。前作がヒット実績をもつ続編的な作品のありよう。作品を手掛ける監督のこれまでの実績、テレビ局を主体にした製作体制。これらが、相当万全なように見えた。

 その見通しは、甘かった。さきに挙げた作品のうち、多くが6~7億円あたりで推移しているのが、とくに注目されるだろう。配給会社の取り分となる昔ながらの配収計算では、3億5000万円から4億円程度。これでは、利益を出すのが、なかなか難しい。

 それらを、1本1本あたる余裕はないので、全体から見えてくるひとつの低迷原因について述べる。それが、企画の行き詰まりである。これを、公開前から言わなかった、あるいは言えなかったのは、私の力量不足であった。だから、あくまで結果を見ての判断としてもらいたいのだが、まさに今考えれば、それぞれの企画には、守りの姿勢が強く感じられるのである。守りの姿勢とは、はなはだ抽象的ではあるが、安定志向のなかにべったりと貼りついている消極姿勢と言えるものである。

 つまるところ、新たな観客層を視野にした新機軸の作品に打って出る、強い積極姿勢に欠けるのだ。安定志向は否定しない。それなくして、今の興行は成立するはずもないからだ。だが、全体がそうなってくるとなると、話は別だ。もちろん、全部がそうだとは言わない。『銀の匙』や『万能鑑定士Q』などからは、挑戦の意欲はうかがえる。ただ、全体の印象が、そう見えてしまう。それがあまりに度が過ぎるように見えてくれば、受けとる側は引き気味になってくる。似たものの繰り返しか、またか、となってしまう。

◆安定志向を打ち破るための用意周到な企画立案

 さて、上半期興行ランキングの上位10本に駆け足で触れれば、ここからは相も変わらない傾向が見えてくるだろう。アニメの好調さと洋画の低迷ぶりである。これは、毎度おなじみのフレーズであるが、変わらないのだから仕方がない。アニメに関してはひとつだけ言っておく。『名探偵コナン 異次元の狙撃手(スナイパー)』が、同シリーズとしては初めて40億円を超えた。これは、『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』の成功が大きいとも言われる。この作品で、コナンシリーズファンが確実に増え、単独新作によい効果が出たのだ。シリーズの安定感のうえに立ったテコ入れが、周到に行われたと言うべきだろう。

 個人的には語り過ぎた感もある『アナと雪の女王』については、何らかの今後の洋画の突破口になってくれないかと思っている。ディズニー、アニメ、ミュージカルだからといって、実写の洋画作品と全く無関係ということはありえないだろう。米本国とは異なる宣伝展開、人々の関心を引き出す手法などは、今後の洋画宣伝において生かすべき点が多々あったと思う。そこを見なければ、メガヒットの意味も半減するというものだ。

 10本のなかで、実は私の目を大いに奪ったのは、10位の『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』であった。単純に、これはさきのような安定志向の作品ではないからだ。新ジャンルへの挑戦と主演俳優(生田斗真)の新境地。物語、題材的に、危ない面も多分にある作品。中級の娯楽作品に求められる斬新な企画の1本が、上半期これであったと思う。

 安定志向からの逸脱が、本作では明確にうかがえた。ただ、闇雲な逸脱ではないことが重要である。原作の人気は確実にあり、企画はそこから動き出している。俳優の布陣も闇雲ではない。安定志向を打ち破るために、用意周到な企画立案が敷かれていたということである。この周到さは、邦画の製作ばかりにあてはまるのではない。洋画の宣伝面においても、全く同じことが言える。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)