リチャード・カーティスの引退作「アバウト・タイム」は愛おしくてパーソナルな作品(Stereo Sound ONLINE) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140930-00010000-ssonline-movi
インタビューの名手として知られる、映画ライターの金子裕子さん。これまで取材したスターは星の数ほど、というベテランです。そんな金子さんが実際に会って感じた“スターの素顔”を、Stereo Sound ONLINE独占でお届けします! (Stereo Sound ONLINE 編集部)
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長い間いろいろな人にインタビューをしていると、稀に相手の“人生の曲がり角”のような時期に当たることがある。取材が終了した翌日にイーサン・ホークとの離婚が大々的に報じられたユマ・サーマンとか、コカイン&ヘロイン所持で逮捕され刑務所暮しを経験した直後に猛省していたブラッド・レンフロとか……。
『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』のプロモーションで来日したリチャード・カーティス監督との会見も、そんな時期に遭遇してしまったようだ。というのも、本作をもって「監督業に終止符を打つ」と宣言していたからだ。
知っての通りリチャード・カーティスが注目されたのは、『フォー・ウェディング』(94年)、『ノッティングヒルの恋人』(99年)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(01年)などの脚本が始まりだ。そして自らの脚本で監督デビューした『ラブ・アクチュアリー』(01年)が世界的な大ヒットとなり、<恋愛専科>と称されるようになった。
とはいえ、その後は04年に『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうな私の12か月』の脚本は書いたけれど、監督第2作目の『パイレーツ・ロック』(09年)は60年代のラジオの海賊放送に人生を賭けたロック野郎たちの物語であり、ラブストーリーではなかった。
そして、監督第3作目にして最後のしめくくりとなる『アバウト・タイム』は、内気な青年がタイムトラベルを駆使して運命の女性と結婚し、ステキな家庭を手に入れるまでを描いたファンタスティックなラブストーリー。<恋愛>を主軸にしつつも、最愛の父との別れや、ロクデナシ男との腐れ縁で荒んだ生活を送る妹との絆など、人生の悲喜こもごもが丁寧に絡められている。
「この作品を映画監督としての集大成にしようと思う。物語のテーマは家族。恋をして、結婚して、家族を築いていくことの素晴らしさを語っている。作品を見てくれた人たちには、何気ないことがかけがえのないものに変わることを感じてほしい」という、プレスシート(編集部注:マスコミに向けたパンフレットのような資料)に書かれたメッセージを読めば「どうして最後なの?」と問いたくなるのは当然だろう。
「まず、この作品に描いた全部のエピソードは、ここ5年間で僕自身に起こったこと。父の死、妹のトラブル、そして娘の病気……。いま、彼女は闘っている。僕は、少しでも長く娘の側にいたいんだ。監督という仕事は、他のことには目もくれずに膨大な時間を製作に注ぎ込まなければいない。今の僕には、それはできない」
目の縁を赤く染めて語るカーティス。メッセージの最後に「なにげないことが、かけがえのないものに変わることを感じて欲しい」とあるのも、納得だ。
「タイムトラベルができたら何をしたい? とよく質問されるんだ。数年前の僕だったら“スカーレット・ヨハンソンと一緒にラスベガスへ行ってルーレットで大儲けする”と答えただろうけど、いまは“愛する家族と穏やかに暮らしたい”。もう、今の僕は、悟りを求めるブッティストみたいな心境だよ」
無理に作った笑顔があまりにも痛々しいので、ついインタビューであることを忘れてしまった。そう、極私的なことで恐縮だが、私も以前に夫と父を同時期に失った経験があるので、彼の心が痛いほどにわかるのだ。でも、私はその後も元気で、生きている。遺された家族や、友人たちのおかげで……。そのことを伝えると、「そうだね。人生は続くんだよね。僕には息子もいるし、愛する女性もいる。そして友人も」。
ちなみに、主人公の少年時代を演じたのはカーティスの実の息子。父親を演じたビル・ナイは親友で隣人でもある。プライベートでも息子は「アンクル・ビル」と呼んで懐いているという。そのふたりが父子を演じて海岸を散歩するシーンが「とても好きなんだ」と遠くを見つめるまなざしで語るカーティス。きっと、いつか、また映画を作りたいと思う日が来るだろう。いや、ファンはみんな、そう願っています!
■『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』作品情報
監督・脚本:リチャード・カーティス
出演:ドーナル・グリーソン/レイチェル・マクアダムス/ビル・ナイ/トム・ホランダー/マーゴット・ロビー/リンゼイ・ダンカン
原題:ABOUT TIME
配給:シンカ/パルコ
2013年/イギリス/124分/シネスコ/ドルビーSRD
公開中