鬼才D・クローネンバーグが語るハリウッドの“夢”と“闇”(ぴあ映画生活) - Y!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141219-00000006-piaeiga-movi
デイヴィッド・クローネンバーグ監督がハリウッドで生きる人々の欲望と狂気を描き出した新作『マップ・トゥ・ザ・スターズ』を完成させた。自国カナダを拠点に製作を続けてきた監督はハリウッドをどう見ているのだろうか? 国際電話で話を聞いた。
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本作は監督の長年の友人ブルース・ワグナーのオリジナル脚本を映画化した作品で、ハリウッドで栄華を極めているセレブ一家と、再起をはかろうともがき続ける女優が、ある女性の登場を機に転落していく様を壮絶な描写を交えて描いている。
「僕はハリウッドの映画監督じゃない」と言い切るクローネンバーグはその言葉通り、カナダを拠点に活動してきた。「でもブルースの脚本の力があまりに説得力があり、カリスマ的だったから、この脚本はぜひやらなくてはと感じたんだ」。そこで監督は人生で初めてアメリカで撮影を行った。「ロデオドライブ、シャトー・マーモント、ハリウッドサインの下で撮影した。重要な場所に行き、象徴的なハリウッドを撮影したよ」。そこで暮すのは、ドラッグから抜け出せないでいる子役や役を得るためには手段を選ばない女優など、欲望を剥き出しにした人間たちだ。「彼らは誰もが必死になって自分の”存在”を求めているんだ。彼らにとって存在するとは、映画に出演し、レッドカーペットを歩き、セレブリティになり、賞をとることだ。そんな彼らが最も恐れるのは、人から忘れられてしまうこと。それはこの世界に存在しないのと同様なんだよ」。
登場人物たちは誰もが他人に対して自分を売り込み、時に横暴に振舞うが、同時に恐怖にとりつかれておびえている。そのせいか、彼らは幾度となく“幽霊のような存在”を目撃する。「私は無神論者だから、これまでの映画でもいわゆる幽霊や霊的存在は描くことを避けてきた。だから私が描いたのは、記憶や罪悪感や欲望が具現化されたものなんだ。だから登場人物と“それ”は1対1の関係でしか描かれない。第三者がそれを見ることは決してないんだ。脚本には子供の幽霊がたくさん通りを歩くシーンがあったけど『幽霊を描いてしまうと、自分がこれまで描いてきたものと意味が変わってしまうのでカットするよ』と宣言したぐらいだ」。
舞台や設定は変われど、クローネンバーグは変わらない。彼の作品に登場人物たちはいつもアイデンティティと欲望の間で悩み、恐怖を感じ、苦しみ続ける。「ハリウッドはとても引力が強い惑星のようなものだ。おかげで世界中から人が集まってくるけど、そこから離れることも難しいんだ」。
ハリウッドは美しく、夢と希望があふれ、そこで暮らす人々は華やかな毎日をおくっている。しかし、彼らは何かを失い、常に恐怖を感じている。「ハリウッドとは物理的に死ぬ前に“死ぬこと”ができる場所だとも言える。俳優としてのキャリアが終わってしまうと、その人は消滅してしまうんだよ。映画界でよく“40歳になるといい役がもらえなくなる”という話を耳するけど、あれはいい例だと思う。マリリン・モンローが39歳で死んだのは偶然ではないと私は思っているんだ」。
鬼才クローネンバーグ監督はハリウッドを舞台に、どんな恐怖を、どんな葛藤を、そして、どんな“物理的ではない死”を描き出すのか? 監督のファンならずとも気になるのではないだろうか。
『マップ・トゥ・ザ・スターズ』
12月20日(土)、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー