C・マッカリー監督が語る『ミッション:インポッシブル』最新作(ぴあ映画生活) - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150806-00000002-piaeiga-movi
トム・クルーズが主演を務める人気シリーズの第5弾『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が明日から公開になる。脚本と監督を務めたクリストファー・マッカリーは、長年に渡ってクルーズとタッグを組んで映画製作を続ける中で、確かな手ごたえを感じ、満を持して本作に挑んだようだ。
その他の画像/『ミッション:インポッシブル』最新作
『ミッション:インポッシブル』シリーズは、変装の名人にして圧倒的な身体能力と作戦遂行能力を誇るエージェント、イーサン・ハント(クルーズ)らが毎作、それぞれの得意分野を活かしながら“不可能”としか思えない難題に挑む超人気シリーズだ。
マッカリーは『ユージュアル・サスペクツ』などの脚本で知られ、『ワルキューレ』の脚本を手がけてからクルーズと幾度となくタッグを組んできた。前作『…ゴースト・プロトコル』でも彼はノンクレジットで脚本作りに参加していたが、本作でついに単独で脚本を執筆し、監督も手がけることになった。「シリーズ開始から20年になりますから、そのことを祝福しようという気持ちがあった」というマッカリーはまず、これまでに登場した人気メンバー、ルーサー、ベンジー、ブラントをすべて集めてイーサンと“最強のチーム”を組ませ、彼らと同じぐらい訓練されたならずもの組織(ローグ・ネイション)“シンジケート”を敵役に置いた。新作ではアクション、サスペンス、人間ドラマ、コメディが絶妙なバランスでプロットに配置され、マッカリーは脚本家でもある強みを生かして、撮影現場で起こった出来事やそこで生まれた関係性を、リアルタイムで脚本に反映していったという。
さらに本作では“映画監督”マッカリーの実力が存分に発揮されている。彼は、ムダに観客を煽るような演出を好まず、正統派の演出でストーリーを語る監督として知られているが、本作でも「まず最初にプロデューサーでもあるトムとじっくりと話し合って、“明確さ”と“地理感”を大事にしようと決めました。観客が画面で何が起こっているのかわからなかったり、視点がどこあるのかわからなくなって混乱するようなことは避けようという話になったんです。だから物語にルールがある場合はちゃんと説明して、アクションが始まった段階では観客はすべてのルールを理解していて、画面で起こっていることに集中できるようにしました」という。
マッカリーとクルーズが決めた方針は、本シリーズを成功させる上で重要なポイントだ。『ミッション:インポッシブル』シリーズでは必ず最初に、ミッションに対する“計画”が語られる。侵入するビルにはどんな警備装置がついているのか? そこの守りはどれだけ堅いのか? 警備員の数は? 彼らに与えられた時間は? どんなスパイ道具を使う? すべてを把握した上で主人公たちは“計画”を立てて、それを遂行しようとする。何が待っているのかわからない迷宮に挑むアドベンチャー映画と違い、観客はイーサンたちが挑む場所に何が待っているのかを事前に知っている。いや、知っているからこそ、成功するかどうかハラハラしたり、不足の事態が起こった場合に緊張感が高まるのだ。「その通り! だからコミュニケーション“できない”ことを描くことを心がけました。あるシーンではイーサンとベンジーの連絡が取れなくなってしまい、誤解が生じてしまうことで観客はハラハラします。バイクチェイスの場面でも、イーサンとあるキャラクターの間に誤解が生じています。イーサンの潜水シーンでは、外部と連絡が遮断されてしまうため、キャラクターの思惑や考えがそれぞれズレていくことで面白さが生まれるようにしました」
マッカリーとクルーズが敬愛するヒッチコックも言っている。“サスペンスとサプライズを混同してはならない”と。だからマッカリー監督は、すべて情報を観客に与え、画面で何が起こっているのか、イーサンがどんなピンチなのかを観客にわかりやすく見せることに注力した。「たまに映画を観ていてイライラさせられるのは、映画で起こっている体験が観客にちゃんと届いていないと感じる時です。観客が“編集者”の仕事をしながら映像を観て『画面ではたぶん、こういうことが起こっているんだな』と考えないといけない。アクションや映像に集中できないんです。だから、私はいつも“明確さ”を失わずに描こうとしています。画面の美しさをキープして明確さが失われるぐらいなら、私は明確さを保ちたいんです」。
しかし完成した作品の映像は、明確さを保ちながら時おりハッとさせられるほどに美しい。アクションシーンであっても、キャラクターとそこに差し込む光、それらが作り出す影が絶妙な構図で描かれている。「撮影監督のロバート・エルスウィットは天才です。私は彼の撮影した映像の“質感”が本当に好きで、特に彼がポール・トーマス・アンダーソンと撮った作品が大好きなのです」。前作『ゴースト・プロトコル』の撮影も担当したエルスウィットは、米映画界を代表する撮影監督のひとりで、『マグノリア』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『グッドナイト&グッドラック』などの撮影で知られている。「撮影の初期は、どのアプローチが自分のスタイルに合うのか探っていたのですが、昨年のクリスマスに撮影が休みになった際に編集室で、それまでに撮影していたフィルムをすべて観ることができたんです。その時から私は撮影のアプローチを変えました。彼が撮ったフィルムを観て、私は映画撮影における“照明”の影響について多くを学ぶことができました。ですから、休暇をあけてからの撮影はロバートとそれまで以上に同調して撮影を進めることができました」
マッカリー監督の進化は、相棒クルーズとの関係性にも及んだようで、監督は「私は理論を追及して、目標にたどりつくための手法を分析するタイプで、トムは純粋に情熱でアプローチするタイプ。トムとの関係性が深まっていくことで、お互いが相手が必要としているものが、これまで以上にわかるようになってきました」と笑う。とは言え、マッカリーも“情熱”の人だ。本作はアクションやサスペンスがふんだんに盛り込まれているが、シリーズで最もドラマが深く描かれている。「トムとやった『アウトロー』の時には物語を描く上で、ある感情を盛り上げたいけれど、そこに存在しない感情を追求してしまったことがありました。脚本を手がけた『オール・ユー・ニード・イズ・キル』ではトムとエミリー・ブラントのキャラクターの感情を無理に物語にあてはめようとして、うまくいかないケースもありました。でもこの映画の撮影中に私はトムに言ったんです。『無理に感情を出させようとすると失敗するよね』とね。それはアクションであっても、コメディでも同じことで、俳優から自然とわき出た感情でなければ、やらない方がいいのです。その違いが最もハッキリと出たのが、『アウトロー』のラストでトムとロザムンド・パイクが別れを告げる場面と、本作のラストです。この映画では自然とわき出た感情をリアルに描くことができました」。
アクション、サスペンス、ストーリーテリング、撮影、そして感情表現……マッカリーとクルーズは、何作もかけて映画作りのあらゆる側面に磨きをかけ、ついに『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』を完成させた。クルーズが「シリーズで最高の作品になった」と自信を見せる最新作がいよいよ、日本のスクリーンに登場する。
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
8月7日(金)公開