>「スティーブ・ジョブズ」「ブラック・スキャンダル」「キャロル」続けて鑑賞。面白いと思ったのもこの順番。正直、「キャロル」は何が良くてそんなに賞を貰ってるのか理解不能。いや、女優さんの演技は良いですよ。でも話がつまんない。パトリシア・ハイスミス原作だから期待したのにな。
>それに比べて「スティーブ・ジョブズ」のおもしろかったこと! ほとんどをの舞台が「舞台裏」という設定が上手いよね。一秒刻みのスリルとサスペンスが痛いほど身にしみて分かるから。まるで舞台劇みたいなのに、映画でなければできない表現をちゃんと使っているのもいいのよ。
>BAFTAでケイト・ウィンスレットが助演女優賞に輝いた「スティーブ・ジョブズですが、主演のマイケル・ファスベンダーも素晴らしかったのです。あれだけの膨大な台詞を覚えて次から次にまくしたててるのに、その間に人と話してはちゃんとその人の反応に対応してることが分かるんですから。
>「スティーブ・ジョブズ」でのマイケルの演技に近いものを邦画で探したら「デスノート」で松山ケンイチが演じたLにたどり着いた。うん、どっちも天才なわけだ。で、彼らのその「天才」を示す指標が反応速度の速さなんだよね。シャーロックもそうだけど、神経伝達の速度自体が早いんじゃないのかしらね
>スティーブ・ジョブズは、最初本当にイヤなヤツとして登場する。傲岸不遜で尊大で人の心は踏みにじり意見には耳を傾けない。これがまたマイケルにぴったりで。でもそんなジョブズの心の中が映画が進むにつれ少しずつ分かってくる。彼のあの態度には彼なりの理由があったということが。
>ジョブズは自分に好意を持ってくれた人も愛する人も全て突き放すかのように振る舞う。でもマイケルの演技によって次第にそれが彼自身が愛を知らないからだ……と思わされる様になるのね。子どもがどこまで駄々をこねられるか親を試すように。或いはどこまでやっても大丈夫だと盲信しているかのように
>「スティーブ・ジョブズ」にはスティーブのそれまでとっていた態度の理由が風船が弾けるようにパンと理解できる魔法の瞬間があって、その爽快感ったらない。まるでよくできた推理小説のよう。どのシーンをとってもカウントダウン中みたいなものだからスリリング極まりないし。これ、傑作だよ。
>ケイト・ウィンスレットはそんなジョブズを信じ、彼の仕事が沈没船と言われようが何だろうが、時には強力な助っ人となってとことん付き合う女の役。ん? これって「タイタニック」の時のローズと同じじゃん。でも今回は「母性」のイメージの方が強く出ていたかも。ケイト、助演女優賞受賞おめでとう!
>ダニー・ボイル監督は、ベネディクト・カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーの舞台「フランケンシュタイン」の演出も手がけた人だから、とにかく対話をサスペンスフルに撮るのが上手い。それはもちろん最高の脚本があってのことで、アーロン・ソーキンさすが。何も起こらないのに目が離せないなんて
>そんな「スティーブ・ジョブズ」と正反対だったのが「キャロル」で、「何か起きるはず……」という期待の元に見ているのに、何も起こらないので飽きてしまう。最終的には何かしら起こったが、その結果としてひきおこされる次の事態もどうってことなく……。そこに人生の機微を感じ取れない私が悪いの?
>ところで「ブラック・スキャンダル」でジョエル・エドガートンを見るたび、「アメリカン・ハッスル」のジェレミー・レナーが思い出されてならなかったんですが。
>「ブラック・スキャンダル」も意外と面白かったのです。前日見た身内がけなしてたんだけど、私丁度数日前のイベントでボストンに住んでた人の話を聞いたばかりだったので、「なるほど~」と思う部分もあって。ジョニーもベネ様もしっかりボストン訛りを身につけて喋ってのがおかしかったわ。
>ボストンに住んでた彼女、ジョニデがロケに来てるってんで駆けつけてはみたけれど、黒山の人だかりで微塵も見えなかったと言っていた。でもまあ、あの外見のジョニデだったら、見てもわかんなかったかも。でも鼻の形の良さだけはキャプテン・スパロウのまんまなんだよね。
>ボストン訛りって、例えばマット・デイモンやマーク・ウォールバーグ御本人達が普通に喋ってる時ね。あれは声を響かせる位置が独特で、なんか頭蓋骨の後ろの方が共鳴してる感じなんだよね。だからベネ様もいつもの深い声じゃなくて、ボストン風の響きだった。「深い声」は体の深い位置から響くのね。
>「ブラック・スキャンダル」を私が面白いと思ったのは、自分がやってることに歯止めが効かなくなる人の気持ちが分かるからかも……。善悪も将来も関係なく、今自分がやってる「仕事」をこのままやり続けるために必用な事をやり続ける内、一体何が重要なのか自分で分からなくなるという……。
それにしても「ブラック・スキャンダル」のジョニデはすごかった。あれだけ見た>目を落としていても、それでも彼は美しい。何かに取り憑かれたような演技は彼の十八番ではあるけれど、派手な表現をしなくても内面の狂気を瞳に宿す彼の演技力って底知れない。あの目、恐いんだけど、切ないんだよね。
>でも「ブラック・スキャンダル」より「スティーブ・ジョブズ」の方が面白かったのも確かで。どっちの主人公もほとんど人格破綻してるんだけど、ジョブズの方は少なくとも犯罪者ではないので。映画の作りにもちゃんと救いがあったし。ダニー・ボイル監督、さすが!
>結局の所、これら三作の順位付けって、そのまま監督が自分の好みかどうかの順位でもある。私トッド・ヘインズ監督の作品って、いつ見ても何がいいんだかさっぱり分かんないもん。それに比べてダニー・ボイル作品はいっつも熱狂的に好きになるもんね。スコット・クーパー監督は…まあ、普通というか。
>というわけで、今週の私のイチオシは「スティーブ・ジョブズ」。コレを見逃すのは絶対惜しい。対話劇ならテレビでもいいじゃんと思われた方、それは間違い。もうね、絶対大きな劇場で見た方がいいシーンがばん、ばん! ばーん!! とありますから。キャスト達の素晴らしい演技に目を見はって!