レオ、ガガらが声なき声を代弁! 社会問題を明らかにし、若者に希望を与えるアカデミー賞(dmenu映画) - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160301-00010000-dmenueiga-movi #Yahooニュース
第88回アカデミー賞は、カトリック教会のスキャンダルを題材に、真実を追求するジャーナリストたちの姿を描いた『スポットライト 世紀のスクープ』が作品賞と脚本賞を受賞。厳しい自然と立ち向かいながら、復讐と魂の旅に燃える男の姿を描いた『レヴェナント:蘇えりし者』が、アレハンドロ・ゴンザレス・イリャニトゥに2年連続の監督賞、レオナルド・ディカプリオに念願の主演男優賞をもたらしたほか、撮影賞にも輝いた。技術部門では『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が衣装デザイン賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、編集賞、音響編集賞、録音賞の6部門を制し、圧倒的な強さを見せた。
このほか、主演女優賞は『ルーム』のブリー・ラーソン、助演女優賞は『リリーのすべて』のアリシア・ヴィカンダーが、賞レースの勢いそのままに初受賞、助演男優賞は『ブリッジ・オブ・スパイ』のベテラン俳優マーク・ライランスに贈られた。ジブリ作品『思い出のマーニー』の長編アニメーション賞受賞はならず、同賞は『インサイド・ヘッド』が受賞した。ハリウッドの多様性へのニーズがホットトピックとなるなか、アフリカ系アメリカ人コメディアンのクリス・ロックが賛否両論の仕切りを見せた、今回の授賞式のハイライトを振り返ってみたい。
通常、ノミネート作品のダイジェスト版やパロディ・コントが流されることの多いオープニング映像だが、今回は『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』や『テッド2』など、オスカーとは無縁ながら興行や話題で盛り上げた作品をつなぎ合わせ、2015年の映画界を振り返る演出。オスカーは、あくまでもひとつのご褒美であり、どのようなジャンルであれ、映画という芸術は素晴らしい! と感じさせてくれるスタートだった。その後の受賞発表においても、映画を祝するスタンスを貫き、映画製作のプロセスに準じた順序で各部門の受賞者を発表。先頭を切った脚本賞では、プレゼンターのシャーリーズ・セロンが「映画はストーリーがなければ始まりません。脚本家の皆さん、愛しています」とメッセージを送り、映画の真の立役者である技術者を讃えるムードをつくり上げた。
印象的だったのは、思春期の娘の葛藤に着想を得て、『インサイド・ヘッド』を作り上げた長編アニメーション賞受賞者、ピート・ドクター監督のスピーチ。10代の若者に「悲しみや怒りや恐れという感情は、君たちがどうにかできることではありません。でも、作ることはできるのです。映画でも、絵でも、文章でも。作ることで何かが変わることでしょう」と語りかけた。授賞式のフィナーレには、各部門の受賞者がオスカーを手にステージに集合、紙吹雪が舞うなか抱擁しあうという、お祭り的な雰囲気が微笑ましかった。
同授賞式の最大かつ確実な目玉とされていた「レオナルド・ディカプリオ、悲願の受賞なるか?」の行方。レオは名前を呼ばれると、隣の母親にキスをして、確かな足取りで登壇した。例年、主演男優賞が発表されると、必ずと言っていいほどスタンディング・オベーションが贈られるが、今年の観客席からの祝福はまた、格別なものであった。『タイタニック』でともにブレイクしたケイト・ウィンスレットは呼吸もままならないほどに興奮し、『アビエイター』の共演者であるケイト・ブランシェットは拍手を止めず、同世代の俳優仲間であるマット・デイモンは目を細めた。先輩のあたたかい眼差し、後輩の羨望の視線に囲まれて、嬉しさをかみしめるレオの姿は感慨深かった。
そして、堂々たる、魂のこもった、完璧なスピーチ。ノミネート仲間を祝し、イリャニトゥ監督と共演者のトム・ハーディを始めとするすべての『レヴェナント:蘇えりし者』チームに賛辞を贈り、自分のキャリアや人生を支えた人々と“恩師”であるマーティン・スコセッシ監督に感謝を述べると、最後は、自身のライフワークでもある地球温暖化問題について熱い想いを語った。自然を生きる男たちを描いた同作の撮影体験と、2015年の気温が過去最高であった危機的状況を伝えたのちに、声なき声に耳を傾け、子孫のために尽力する政治家やリーダー支持の必要性を説いたレオ。最後の「この星をあたり前のものだと思わないで下さい。私は今夜の受賞を当然のこととは思いません」という締めに心震えた人は多いだろう。19歳にして『ギルバート・グレイプ』でオスカーにノミネートされて以来、『アビエイター』『ディパーテッド』『ブラッド・ダイヤモンド』と4度ノミネートされながら受賞を逃し、5度目にして念願の初受賞。公私、名実ともに映画界の宝に成長したレオだからこそ、“今”の受賞に意味があるのだろう。
世界225カ国・地域で放送されるアカデミー賞受賞式は、声なき声を代弁し、社会問題を明るみにし、若者に希望を与える場所でもある。クリス・ロックは、2年連続で俳優部門20枠を白人俳優が占めたことに発端を得た「白すぎるオスカー」問題に、授賞式をとおして、ギャグ、コント、皮肉、パロディと思いつく限りすべての角度からアプローチ。ハリウッドにおけるマイノリティのチャンス拡大を訴えた。『007 スペクター』の「ライティングズ・オン・ザ・ウォール」で歌曲賞を受賞したサム・スミスは、「同性愛者の人間として、ここに立っていることを誇りに思います。誰もが平等でいられる世界になりますように」とLGBTコミュニティを代弁。恋愛によって死刑を宣告されたパキスタンの女性の姿を描いた短編ドキュメンタリー賞を受賞した“A Girl in the River: The Price of Forgiveness”は、女性の権利平等を訴えた。前述のレオは地球環境問題に警笛を鳴らし、今年秋の米大統領選を意識した政治的コメントも相次いだ。
こうしたなか、閃光を放ったのはレディー・ガガのパフォーマンス。ガガは、米国の大学キャンパスで多発しているレイプ事件を浮き彫りにしたドキュメンタリー映画『ザ・ハンティング・グラウンド(原題)』の歌曲「ティル・イット・ハプンズ・トゥ・ユー」で歌曲賞にノミネートされていた。ジョー・バイデン副大統領の「大学キャンパスでの性的虐待撤廃を!」という力強い呼びかけとともに登場したガガは、ピアノを弾きながら、性的虐待を受けた人々の心の叫びを熱唱。同ドキュメンタリーに登場した若者たちが、各々の想いを綴った手を高く上げると、会場は拍手と涙に包まれた。ゴールデングローブ賞では女優への夢を語り、グラミー賞ではデイヴィッド・ボウイへのトリビュート・パフォーマンスで賛否両論を浴びたガガ。声なき声を代弁する魂のこもったパフォーマンスこそが、専売特許であることを再認識させた。
最後に、司会者ロックが授賞式で行ったガールスカウト募金について触れたい。米国ではよく、子どもたちが、自身が通う公立学校やさまざまな非営利団体のために資金集めチャリティ活動を行っている。そして今は、ガールスカウトの募金シーズン真っ盛り。街中のあちこちに女の子がブースを出し、クッキーを売っているのだ。クリスの娘もその一人で、クリスが億万長者のそろうオスカー授賞式で募金を呼びかけたところ、空腹の出席者から集まった金額は6万ドル以上。ハリウッドの金銭感覚に驚きつつ、目を輝かせる女の子たちの表情が印象的な演出だった。