これは“選択”の物語。名優マッツ・ミケルセンが語る『ドクター・ストレンジ』(ぴあ映画生活) - Yahoo!ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170128-00010001-piaeigat-movi #Yahooニュース

 

昨日から日本での公開をスタートさせたマーベルの新作映画『ドクター・ストレンジ』で名優マッツ・ミケルセンが主人公の前に立ちはだかる男カエシリウスを演じている。多くの記事でカエシリウスは“悪役”と紹介されているが、彼は本当に悪をなそうとしている人物なのだろうか? 来日したミケルセンに話を聞いた。

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映画は、圧倒的な腕を誇る神経外科医ドクター・スティーヴン・ストレンジが交通事故によって使えなくなってしまった両手を癒そうとする過程で、神秘的な力に触れ、師エンシェント・ワンのもとで修業を積み、富と地位のあるそれまでの世界に戻るか、魔術師として世界のために戦うかの選択を迫られる物語を描いている。

カエシリウスは、かつてエンシェント・ワンのもとにいたが、その教えに背き、闇の魔術に魅了されてしまった人物で、ストレンジと対峙するが、ミケルセンは「カエシリウスは、この世界を良いものにしようと思って行動している」という。「みんなにとって美しい世界にね。そして彼は、目的のために大きな代価を支払う準備ができているんだ。世界を救うために数千人の命を犠牲にできるのか? という問いは非常に難しい問題だが、彼の場合は、その犠牲を払ってもいいし、手段は問わないと考えているんだよ」

カエシリウスは、闇の魔術を使い、世界を破滅に追い込むことで、この世界を“美しく”しようとする。それが彼の考える正義であり、考えた上で選んだ手段だ。もちろん、この考えは極めて危険だが、彼がそう考えるようになったのには、ちゃんと理由がある。主人公のストレンジは、一度はすべてを失うが、やがて帰るべき場所と守るべき存在を見出していく。しかし、カエシリウスは、仮に世界が彼の思う通りに美しくなったとしても、帰るべき場所を喪失した哀しみを抱えたままだ。「ありがとう。よく気づいてくれたね。この映画では深く描かれてはいないけど、彼は深い哀しみを抱えているし、そのことに観客が気づいてくれることは私にとって重要なことだった。興味深いのは、ドクター・ストレンジも物語の冒頭ではカエシリウスと同じぐらい危険をはらんだ人間だということだ。もし、ストレンジが何かに幻滅していたとしたら、彼は自分の力と知性を違う道に進むために使っていただろう。この映画では“選択”が極めて重要な主題になっている。ストレンジはナルシストで、自分のことばかり考えているわけだけど、長い時間をかけて成長していく中で、自分以外のことにも力を使うべきだと学んでいく。そして、カエシリウスも同じことを考えているんだ。彼もまた、自分のためだけではなく、世界のために力を使おうと考えている」。ストレンジとカエシリウスは単なる正義と悪の使者ではなく、この世界をより良く、より美しくする“手段”をめぐって対立し、様々な選択をし、様々な時空を行き交いながら戦いを繰り広げていく。

ミケルセンは、幼少期からコミックの大ファンで「私は、コミックがいかにクリエイティブなものかよく知っている」と力強く語る。「ハリウッドと言っても『それでも夜は明ける』のような作品もあれば、『スター・ウォーズ』や『地獄の黙示録』のような作品もあるわけだけど、マーベルはその中でも特異な存在だと思う。人によっては『マンガを映画にしてるだけじゃないか』という人もいるけど、それは違う。彼らはコミックの持っているクリエイティブな側面をスクリーンに描くことに成功しているし、本作はグラフィック・ノベルの世界をそのままスクリーンで描くことができた初めての、画期的な映画になったと思っているよ。私は、俳優の仕事は、作品の描く世界の中でいかに誠実でいられるかが重要だと思っている。キッチンの中で展開されるような描く範囲の狭い作品であっても、マーベルのような広大な世界であっても、ミュージカルであっても、その中で誠実にキャラクターと向き合い、演じること。そうすることで、私は真実を見出すことができるし、どんなキャラクターであってもそこにリアリティを見出すことができると思っているよ」

インタビュー中、ミケルセンは“誠実”というフレーズに力を込めたが、彼の誠実さは、演技だけでなく、カメラの外にまで及んでいる。飾らない人柄、ファンに対する思いやりは、超大作に次々と出演し、“至宝”とまで呼ばれる名優とは思えないほどだ。「私たち俳優は観客に作品を観てもらいたいと思っているし、私のために何時間も待ってくれている人がいるのであれば、私はサインをするべきだと思う。もちろん、時間が迫っていたり、スタッフの指示が飛んできたりして、私の意思だけで決められない場面もある。でも、ファンと交流したり、ジャーナリストと映画について語り合うことは仕事の大事な一部だと考えているよ。もちろん、その時間が演じることより長くなってしまうのはよくない。何よりも私がすべきことは、演じることだからね」

『ドクター・ストレンジ』
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