「光をくれた人」と「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を同じ日に見た。

 

以下、内容につれて触れますので、未鑑賞の方はご注意を。

 

「光をくれた人」はマイケル・ファスベンダーとアリシア・ビキャンデルという好きな俳優二人の組み合わせだったので。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」の方はケイシー・アフレックがオスカーの主演男優賞に輝いたというので、ずっと見たいと思っていたのだ。

 

 

奇しくも両作品とも「子どもを亡くした親」の物語だった。

ただし共通点はそこまでで、「光~」の方は第一次大戦直後のオーストラリア、「マンチェスター」は現代のアメリカが舞台である。

 

第一次大戦というと、終結は1918年だから、大体今から100年前。時代の違いが大きいのかもしれないが、主役のマイケル・ファスベンダー演じる男の考え方があまりにもアホすぎて、最終的についていけなかった。

 

恐らくそのアホな男がそう考えるに至った背景には第一次大戦の凄惨な戦場からただ一人生き残って帰ってきた時の、言いしれぬ罪悪感があるのだとは思う。

 

100年前の戦争のことだから知識としてしかしらないが、出征した村にただ一人の生き残りとして帰還した兵のことは知っている。「指輪物語」を書いたトールキンだ。彼の心の傷の深さは、それを埋めるためにあの壮大な物語を産み出さねばならない程だった。

 

そこから測ればそのアホな男、トムの苦悩の深さもなんとなく分かるし、一人生き残ったという罪を償いたいと心の底で思っていることも推測できる。

 

推測はできるのだが、それにしても劇中で彼のやっていることはアホだと思う。

 

恐らくそこには100年という時代の流れがあって、それ故に理解の妨げとなっているとは思うのだが。

 

流産を続けて精神的に参っている妻が、漂着したボートの中にいた赤ん坊を拾って自分達の子として育てましょうと提案したとき、一度はそれを受け入れたトムなのに、赤子の実の母の存在を知った途端にへろへろゆらぎだすのである。

 

オマエは、自分の妻の幸せのために、罪を犯す(拾った赤子を実子として届ける)ことを決心したんだろ? 一度決めたことなら最後まで貫き通せ! とこの後のトムの行動を見ながらずっと心の中で思っていた私である。

 

実の母(レイチェル・ワイズ)は子どもは夫と共に亡くなったと思って墓まで建てているのである。亡骸は見つからなかったとはいえ、墓を建てた時点で彼女は二人の生存をあきらめているのだ。悲しくはあっても、それなりに落ちついた心で過ごしているはずだろう。

 

それをトムは要らん手紙を送って「お嬢さんは生きています、大切に育てられいます」と、彼女の心をかき乱すのである。そんなことしたって誰の、何の役にもたたないではないか。赤子が生きていると知った実母は当然捜索を始め、懸賞金までかけるのだ。

 

ちなみにこの映画で一番トクをした人物は、その後この懸賞金を得ることになる男である。彼がその金を得たとしても、映画を見ている私達にはなんの感興も催さないのだが。

 

その懸賞金が与えられることになるのは、数年後、娘が可愛い盛りになった時、バレることを見越してトムがさらに要らんことをしたせいである。トムは捕まることを覚悟の上で、妻には「自分は無関係だと言え」と彼女の罪まで被ることにしたのだが、そんなことされたところで大切に育てた娘を実母にとりあげられてしまった妻には何の意味もない。実母は実母で、さらったも同然にして連れ帰った娘に当然なつかれるわけもなく、誰にとってもつらい結果にしかならない。ところがトム自身はそれが一番いいことだと思っているようなのである。

 

妻からも世間からも非難を受け、余計な罪までかぶって牢につながれ、トムはそれが当然と思っているのだ。何故なら戦争から一人生きて帰ってきたから。

 

そんなに罪を償いたいなら、妻をまきこまずにその罪を黙って被って一人で死ね、と思いましたよ、私は。実子を二人も流産した妻は拾った赤子を溺愛して育てているのに、それをいきなり奪うような形に仕向けて一体何が嬉しいんだ、トムは。アホじゃないのか、と。

 

どうやらトムにとっては赤子を実母の元へ返すのが一番正しい道だったようなのだが、そう考えるのはトムが男だからでしょうか?

 自分だって何年も愛しんで育ててきた娘なのに、正義のためなら自分の心を殺すのが男? 妻の心は踏みにじって? そのため自分は捕縛され、獄につながれても?

 

この辺がたぶん、100年の壁なのだ。自分の気持ちよりも、建前というか、法というか、神の前の正義というか。

 

数十年前なら、私もトムのその姿を美しいとか、崇高とか思ったかもしれない。

 

でも今はもうそれができない。

自分の正義を貫くために他者(妻とか)を犠牲にする男なんぞ、クソだと思ってしまいます。何、自分に酔ってるの、って感じ。

 

たぶん、時代なんですよね。トムの行動がとても正しいと思えないのは。

 

行動以前に、彼の日和見的な態度が一番キライなんですけど。妻に流されたとはいえ、一度決めたことはちゃんと貫かんかい! 

 

とはいえマイケル・ファスベンダーはね、割と情に流される役がお得意ですからね、「Xメン アポカリプス」のマグニートーのようにね。そういう意味ではハマリ役だったのかもしれません。