「ノクターナル・アニマルズ」を機内上映で見ようと思ったのは、エイミー・アダムスが好きなことと、「シングルマン」のトム・フォードの新作だったからである。
見終わってすぐ見なきゃよかったと時間を無駄にしたことにむかついたものだ。カナダエアの機内上映は充実していたから、この映画を見ている間に見られる作品は他にたくさんあったのだ(「ハクソーリッジ」とか)。この監督は一体何を考えてこんな映画を撮ったのだ?
以下、内容に触れますので未見(日本公開前だし……)の方はご注意下さい。
脈絡のない花の写真で行稼ぎ。
私が「ノクターナル・アニマルズ」を見終わったあとでむかっ腹をたてたのは、話に何の解決もみられなかったからである。
何かの解決がもたらされるのではないかと観客に期待させておいて空振りに終わらせたままジ・エンドなんて作品、ストレスが増すばかりで映画鑑賞の喜びがどこにもないではないか!
第73回ヴェネツィア国際映画祭ではコンペティション部門で審査員大賞を獲得したそうだが、それはたぶんハッピーエンドでもなければアメコミ原作でもないという点で評論家にウケたからだろう。評論家というのは大体人が不幸になって不幸で終わる話が好きである。きっと自分も不幸だから映画であっても他人が幸せになるのが許せないんだろう。
まあ、見ようによってはエイミー・アダムス演じる上流で高慢で美人なヒロイン(エイミー)が最後にその鼻っ柱を折られるようなラストだから、それをいい気味だとほくそ笑む観客もいるのかもしれない。それにしたって爽快感の全くないラストなのだが。
物語はその時のエイミーの人生と、彼女の元に届けられた元夫が書いた小説の劇中劇とが交互に語られてすすむ。だがその劇中劇があまりにリアルでしかも時間的にも長くとられているので、実はその小説は現実にあったことが書かれているだけで、観客はその実際のできごとの方を見ているのではないかという気にさせられる。その小説のストーリー自体は結構ウソっぽいと言ってもいいのだが、役者の演技が真に迫っているのでそういうこともあるかもしれないと思わされるのだ。アメリカだったらそんなこともあるかもしれないと。
映画としてはその劇中劇の部分だけで立派に成立するはずだ。後味はよくないが問題提起として受け入れられる。主人公はジェイク・ギレンホールだし、彼の事件を担当し、後に復讐の手助けをする男(保安官だったか警官だったか忘れた)はマイケル・シャノンだ。しかも髭で顔の下半分が隠れていてさえ滅法ハンサムな悪党集団のリーダーときたら、アーロン・テイラー=ジョンソンだ。彼らのドラマはサスペンスフルで重厚でとても面白い。
だがそれはあくまで劇中劇、ヒロインが読んでいる小説であるから何度も中断される。そして分かれた夫がそんな小説を書いて自分に送りつけてきた意味が分からない彼女の困惑がクローズアップされるのだ。
小説の内容は自分の判断ミスのせいで妻子を殺された主人公が復讐するというものだ。おもしろいのは主人公が積極的に復讐を企んでいたわけではないのに、事件を扱った男にたきつけられ次第にその気になっていくというところだ。無理に復讐しなくてもよかったはずなのに、最終的には自分も殺人者となってしまう。
そんな話を別れた夫に送りつけられたら、彼女じゃなくたって理解に苦しむ。一体彼はようやく書き上げた小説の批評をして欲しいのか、それとも浮気の末に自分を捨てた妻にいつか復讐するとでも言いたいのか。何が目的で、何がしたくてこんな原稿を送ってくるのか。
それはヒロインのみならず、映画を見ている全員が知りたい部分だと思う。だから彼女は彼にメールする。会って話がしたいわ、と。
彼は喜んでそれにこたえ、場所と日時を約束する。
そしてその日その場所に赴いた彼女は……
壮大な待ちぼうけをくらうのである。
約束の時間になっても閉店時になっても彼は現れず、彼女はワインのグラスを前におなかをすかせたまま(いや、これはどうでもいいのかもしれないが)。
これか? これが復讐なのか? 相手から誘わせておいてすっぽかしをくらわせること? いや、まあ、このヒロインにとってはそれはあり得ないほどの心の痛手かもしれないが……。そうかあ?
観客の混乱と心の中の怒号をよそに映画はそのまま静かに終わる。
おいおいおい、そこで終わっちゃうのかよ。彼、こないのかよ。あの小説はフィクションなのか実話なのかもハッキリしないままなのかよ。私生活がけっぷちのヒロイン、このあとどーすんだよ。
さまざまな疑問に対する解答は一切ない。
なんだこれ、ヒドイやり方で夫を捨てた女は不幸になれってメッセージか? といっても彼女が彼から被った被害というのは実際には待ち合わせを一度すっぽかされただけだが。それとも表面完璧に装っているセレブ女性も内側は変な元夫とか浮気中の現夫とか金銭面のトラブルとかいろいろあると言いたかった?
解決されない疑問はきらいである。
何故なら考えるだけ時間の無駄だから。
私の時間を返せ!
こんなことなら「ゴーストバスターズ2016」でも見といた方がよっぽどよかったわ!
映像は大変美しいし、劇中劇はショッキングだが、全体としてみると私には監督が何を訴えたいのかまるでわからない映画でした。