これちょっとツイッターに書いたんですが、その後もうちょっと考えることがあったのでブログで書き足すことにしました。内容にふれることになりますので、続きは下げますね。
「サーミの血」は「ブレードランナー2049」とは公開館数がたぶん桁違いに少ないのですが、大変おもしろい映画でした。そもそも「サーミ」って何? という世界から入ったのですが、ラップランドでトナカイの放牧をして暮らす民族のことなのでした。
で、ネタバレにならない感想としては、同じような事をしていた国は、日本も含めて、世界中にあるんだなあ、でしたよ。
クリス・スネイク・プリスケン@paxomnibus#サーミの血 と #ブレードランナー2049 一見正反対な映画に見えるけれど、内包しているテーマは同じ。「人より劣る」とみなされている種族の一員が「人」として振る舞うために煩悶する。自分は「人」と同じに見えると思っているのに、実は… https://t.co/xVShdN5A98
2017年11月16日 21:35
クリス・スネイク・プリスケン@paxomnibus#サーミの血 は現実に起こった事を元にしている。撮影場所も本当に自然そのまま。対する #ブレードランナー2049 はオリジナルの #ブレードランナー の時代から最先端SFの誉れが高い。だが背景とか装置とかを取り去れば、そこにはいわ… https://t.co/zGtwoR0Vmg
2017年11月16日 21:39
一見正反対な映画に見えるけれど、内包しているテーマは同じ。「人より劣る」とみなされている種族の一員が「人」として振る舞うために煩悶する。自分は「人」と同じに見えると思っているのに、実は他者から見ると出自が明らかであると知った時の葛藤たるや…。
#サーミの血 は現実に起こった事を元にしている。撮影場所も本当に自然そのまま。対する #ブレードランナー2049 はオリジナルの #ブレードランナー の時代から最先端SFの誉れが高い。だが背景とか装置とかを取り去れば、そこにはいわれのない差別を受けて苦しむ人間の姿が浮かび上がる。
ただ、「だから差別はいけない」とかいいたい映画ではないのですね、これらは。
「劣等民族」として、或いは「レプリカント」として二級市民であるという差別が実際に行われている世界において、そこから逃れたいと思っている主人公達の「行動」をつぶさに描いている作品なのです。
主人公達は自らのルーツを全てふり捨てまでも「一級市民」、すなわち「人間」になろうとする。
でも、「なろう」と思ったところで残念ながらなれないわけです。何故なら「生まれ」が違うから。
この「生まれ」の違いというのは、本人の努力でどうすることもできない、変える事のできないものです。
では主人公達がどうするかというと、「生まれ」を隠して「人間」になりすまそうとするわけですよ。「ブレラン2049」の場合はちょっと違って、自分が信じていた出自は実は違っていたのではないかという疑念が生じた時から、あたかもそれが真実であるかのように自分に言い聞かせてしまうんですね。自分、レプリカントだけど、実は人間のように生まれてきた特別な存在なんじゃないかって。
これまあ、よくある話ですね。子どもが自分の親は王様か貴族で、自分はわけわってよその家で暮らしているだけ高貴な存在なんだ、と夢想するパターン。それの変形ではあるんですが、主役のライアン・ゴズリングの夢見るような瞳に切実な願いが宿ると、観客は彼に夢中になるあまりに一緒になって彼が「特別な存在」であると信じたくなってしまうんです。だって子どもの頃に同じようなこと考えた覚え、あったりしますからね。
「サーミの血」の方では主人公が少女なので、自分の民族と異なる「人間」の男性と恋に落ちてみたりします。「王子様」に象徴されるように、女性は結婚することによって今の自分の身分から夫の身分へと劇的な変化を遂げることが可能ですから。「サーミ」では「人間」の少年と恋をしたことでヒロインがそんな期待に胸をふくらませてしまいます。ヒロイン、一回会っただけの、休みが終わって遠くの都市に帰ってしまった彼を追いかけ、居るべき場所も離れて必死の思いで汽車に乗ります。そして自分がそれまでずっと着ていた民族衣装を焼き捨てて普通の女性の衣服に着替えもします。ヒロインはそれで彼と同じ「人間」になったつもりだったんですが、でも彼の両親には自分の正体がバレてしまっていることに気づかされるんです。両親が彼になんであんな娘を連れてきたのかと叱責するのを洩れ聞いてね。
両作品とも、その事実――どうやっても、自分は自分のままである――ということを指摘される瞬間が一番つらい。
自分、うまくやってる。首尾良く「人間」に、自分から見た「特別な存在」になれた。そう思い込んでいたところを呆気なく覆されるわけですから。
秘密がバレた屈辱と、結局自分はどうあがいても「特別な存在」にはなれないという事実を突きつけられて、その瞬間って本当にいたたまれないと思います。頬が真っ赤に染まり身体中が熱くなる感覚ですね。
この感覚を共有できる人って、案外少なくないんじゃないかな。例えば私がそうであるように。
今の日本で私が「二級市民」と認定されることはありませんが、でも目に見えない階層、ヒエラレルヒーってのは絶対あるわけです。最近では「スクールカースト」という言葉をよく見かけるようになりましたが、社会に出たって似たようなものはたくさんある。
それは外見の美醜の差であるとか、仕事の手際の良さの違いであるとか、それ以前に所属している会社や出身校によっても微妙に分けられる階層の差です。様々なパターンで幾重にもかけられているので、例えば出身校は偏差値45ぐらいでも美人なら大きな顔ができる社会とか、実際にあるわけですよ。もちろん逆もまた然りですね。
で、どこかのカーストで一つでも上の方にいられれば、ワリとその人は自信を持って人生乗り切っていけるんじゃないかと思います。超有名企業に就職できた男性は婚活界において立場が最強、みたいな(だからといって幸せとは限らないけどね)。
でもそうじゃない場合、ひょっとしたら今のカーストの地位よりも一つでも上に進めば、何か違った世界が、具体的(?)にいえば幸せが、待っているんじゃないかと夢想しちゃったりしません?
そういった時に、自分のことをよく知らない人の前に出る時、あたかも自分がカーストの高位置にいるように振る舞っちゃったりするわけです。どこぞの高級ブランドのバッグを当たり前のように使いこなしているのよ、ダイヤのネックレスもしてるのよ、お金持ちのいいとこの生まれなのよ、みたいな顔をして。
それって、見栄です。虚栄心です、ザックリ言って。
自分を、実際の地位よりも高いものに見せたいと思うのは。
倫理的や、道義的な意味で「良い人間になりたい」と心から願うのとは違って、本来自分が属する世界よりも上位のクラスの出身者であると見せかけたいと思うのですから、そこには偽りが含まれる。「虚栄」の「虚」は「虚偽」のそれでもあるわけですね。自分の真実の姿よりも他人の目にどう映るかが重要になってくる。
そのためか「虚栄心」は昔っから宗教とか道徳とか、まあ様々な社会制度の上で悪とされてきました。見栄の張り合いは最後は悲劇を招くと相場が決まっていると、経験則があるようです。
しかし昔っから言われているということは、虚栄心が人間心理とは切っても切り離せないものだということでもあるのですよ。
例えば年収300万円の男性が婚活パーティーで自己紹介カードに「年収600万円」と書いてしまうとかね。今の言葉で言うなら「盛り」ですが、そうした方が女性の関心を強くひけるという結果が伴うのなら、その行為はエスカレートしていくでしょう。
ただやっぱり、普通に小心者である人間は悪である虚栄心を満たすために、さらに悪である「嘘」を重ねることに罪の意識を感じるものです。だから、わずかの真実を混ぜて「嘘」が完全な「虚偽」になることを防ごうとする。年収を「盛る」のでも一千万とか一億とかかけ離れた額じゃなく、がんばれば額面でこのぐらいは稼げるはずという期待値に留めるとか、正規の値段でブランドバッグが買えないにしても、安物コピーを使うのではなくネット上で安く買うとか、或いはレンタルするとか、いろんな手を使って画策するわけです。そうすれば「盛り」が嘘だとバレた時でも自他ともに言い訳が可能ですから。でもそういう「手」を使うことにあまりにも一生懸命になると、今度はそのこと自体が涙ぐましく思えてくるわけで。
そういった「涙ぐましさ」、「必死さ」が、「サーミの血」と「ブレードランナー2049」の双方にあるんです。それはもう、直視を避けたい程の勢いで。
そしてね、どちらの映画でもそれを嘲ってない。
彼らが他の者になりたいと願う強い心とその手段の激しさを「虚栄心」と断罪するのではなく、そうしなければ「自由」を手にすることもできないのだと、それこそが悲劇であると描いているんです。
差別から自由になるために、これだけの恥を忍ばなければならない人々もいる。
生まれ育ったルーツもプライドも皆捨てて、がむしゃらに「人間」のふりをするって、そういうことなんですね。
それで果たして、幸せな人生を送れるのか。
それはその人、そしてそのレプリカント次第なのかもしれません。
それぞれの結末は、どうぞ本編をご覧下さい。
「虚栄心」と言われ蔑まれている感情を「二級市民」に配置することで両作品ともそれがごく当たり前の人間の持つごく当たり前の感情であることを濃やかに描いています。たぶん、その感情がなければ向上心も生まれないのかもしれない。それなのに生きるのに必死な人程、それを虚栄心と指摘されることで激しく傷つく。そんな人の世の矛盾さえもあぶり出しているのが、「サーミの血」と「ブレードランナー2049」なのでした。
です。とているけれど