「シェイプ・オブ・ウォーター」が公開されたので早速見て参りました。

 

日本では「パシフィック・リム」で人気の鬼才、ギレルモ・デル・トロ監督作品ですからね、そりゃ何をおいても見に行きまさあね、ファンとしちゃ。今回はその上、アカデミー賞がかかってますからね。SF・ファンタジーファンとしては「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ以来の大量受賞に王手がかかっている気持ちです。個人的に監督賞は「ダンケルク」のクリストファー・ノーランにとって欲しいけど、やっぱり今回もちょっと分が悪いかな~。

 

さて、その「シェイプ~」と「ダンケルク」の最大のライバルとみなされている、というかもはや本命扱いされているのが「スリー・ビルボード」で、当然こちらもワタクシ、鑑賞済み。SF・ファンタジーファンとしては残念ながら、こちらの作品の方が批評家受けはいいであろうことを認めざるを得ません。つまり、賞はこっちに行く可能性が高いということね。

 

なんでか(←微妙に北海道弁。「で」にアクセント)。

 

ま~、あれです、批評家に限らないけれど、人生を不幸に歩んでいる人が全体として不幸な映画と幸福な映画を見た時どちらに軍配をあげるかというと、不幸な作品を選ぶ場合の方が多いんじゃないかと私は思うんですね。

 

私、一時期、自分をすごく不幸だと思い込んでた時期がありまして、そういう時ってディズニーとかハッピーエンドで終わるロマコメとか、大嫌いでしたもん。自分が不幸だと、「幸福」を描いた作品がウソ臭く思えてしまうのですよ。

 

こうね、サスペンスとかミステリーとか、SFでもファンダジーでも、成功してる作品ってさ、主人公、ずっと幸せいっぱいなわけじゃないでしょ? まあ大体最初幸せでもそれがひっくり返って不幸のどん底に突き落とされ、それが陰謀であることを知って解決にのりだすも失敗続きで、最後の最後にどんでん返しがあってようやく身の潔白を示せる、みたいな感じでストーリー進みますよね。それで評論家筋に評判がいいのは、事態が解決しても主人公はある程度不幸なままというパターンだったりします。その「程度」の割合が微妙でね、それでも主人公にとっての正義が果たされれば、それは一種のハッピーエンドになったりもする。少なくとも、映画館を出る観客がくら~い顔のままってことのないよう、ちょっとしたさじ加減で決まるわけですよ。

 

で、そのさじ加減が上手いな、と思ったのが「スリー・ビルボード」だったわけ。

 

ネタバレになるので何も書けないんですが、確かに主演女優賞と助演男優賞はこの作品が持っていっても当然だな、と思いましたよ。フランシス・マクドーマンドの常に怒りを秘めた顔も行動もそりゃすごいんですが、最後の最後にふっとそのチカラがゆるむのがもうね、何とも言えず観客の心を掴むんですよ。彼女は不幸を全身で表現し、その不幸は何も変わらないのだけど、彼女の中で何かが変わったんですよね。その変化が観客にとって、何故かほっとするものになるんです。どこまでも現実に即してね。

 

そういう具合にうまいこと観客を救いに導きつつ、現実のやりきれなさを見せつけているのが「スリー・ビルボード」なので、これは絶対、普段自分の人生について悲観的な思いを抱いている人には受けがいいのですよ。で、今の世の中、様々な理由で自分を不幸だと思ってる人の方が、幸せ一杯な人よりも多いのではないかと思うのですね。そういう人達が投票するのは「スリー・ビルボード」になるんじゃないかなあと、そう思うわけです。まあ、今までの受賞作の傾向からしてね。

 

それでも私が好きだし、賞をとって欲しいと強く願っている作品が

「シェイプ・オブ・ウォーター」であることは言うまでもありません。

 

だって、美しいんですよ、この作品は。

 

主演女優のサリー・ホーキンス、決して素晴らしい美女ではないのですが、しかし挙措のひとつひとつが実に美しく、その仕草と表情がいちいち可愛らしいのですわ。形ではなく、動きの美しさが彼女には備わっているのです。どの動作もまるでバレエを見ているかのよう……。実際にタップやダンスをするシーンもあるので、彼女はきっと名手なのだと思います。

 

そしてサリーさんは、映画「パディントン」でもそうですが、無邪気で無償の愛にあふれている役が非常に似合うのですよ。

 

ヒロインのイライザ、その境遇は決して幸福なものではありません。むしろ不幸といってもいい。自分を憐れもうと思えば好きなだけその世界に浸れるような生活です。しかし彼女は決して自分を不幸せだとは思っていないのです。今あるもので満ち足りた生活をおくれているので彼女は問題なく幸せで、その幸福感を周囲の人に分け与えることさえできる。傍目にはみじめに見えるかもしれない人生でも、イライザ本人は充分な幸福を味わっているのです。

 

このサリーさんによって醸し出される幸福感が好きなのですよ、私。だって私も、オーランド・ブルームに銀幕上で出会って以来、同じように毎日幸せを噛みしめていますからね。同じ境遇でも「だから私は不幸なんだ」と思うか「それでも私は幸せだ」と思えるかで、本人の幸福度は変わります。「幸せだ」と思っていれば、幸せな気分がしてくるものなんですよ。

 

まあ、「スリー・ビルボード」のヒロインであるミルドレッドの場合はどうあがいても自分を幸せだと思うことができない境遇なので仕方がないことではあるのですが、彼女の場合その「不幸」を「怒り」にすりかえることで問題解決をはかろうとするのですね。その気持ちも大変よく分かるのですが……でも映画見ていても幸せにはなれない。少なくとも私はね。怒りの果てにあるものまで見せられても、それで自分自身の人生が深くなるわけでもないので。

 

どちらの作品も展開がスリリングでおもしろいのですが、より先が読めないのは実は「スリー・ビルボード」の方でした。こういう意外な展開というのも、きっとアカデミー会員には受けがいいんだろうな、と思ったりして。

 

もうじき始まるアカデミー授賞式、結果がどうなるか今から胸がドキドキです。「スリー・ビルボード」の方が一歩先んじてる感じですが、せめて主演女優賞はサリーさんにとって欲しいな♪ フランシスは「ファーゴ」ですでにオスカーとってることですしね。

 

そして「ダンケルク」にも技術賞以外を、ぜひ! 願わくばクリストファー・ノーランに監督賞を!!