>なぜ爆発的大ヒットに?インド映画「バーフバリ」が人々を熱狂させるワケとは(シネマトゥデイ) - Yahoo!ニュース https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180507-00000005-flix-movi @YahooNewsTopics
>インド映画『バーフバリ』二部作の盛り上がりが止まらない。一作目の『バーフバリ 伝説誕生』が日本公開されたのは昨年4月。あくまでも小規模な上映だったが、一年を経た今もリバイバル上映が繰り返し行われている。そしてインド映画史上ぶっちぎりの大ヒットとなった後編『バーフバリ 王の凱旋』は昨年12月に日本公開され、応援上映や爆音上映といったイベント企画は完売状態。さらにファンの熱い要望で、日本で上映されていた「インターナショナル版」より26分長い167分間の『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』が6月1日より公開されるという異例の事態になっている。果たしてこの映画の何がこれほどの熱狂を生んでいるのだろうか?(村山章)
『バーフバリ』2部作は、古代インドの架空の国“マヒシュマティ王国”を舞台に、王位をめぐる壮大な争いを描いたアクション叙事詩だ。しかし、とことん盛りだくさんに観客を楽しませるインド映画にジャンル分けなど無意味。『バーフバリ』は2世代にわたる家族のドラマであり、命を懸けた熱いラブストーリーでもある。もちろんインド名物の歌と踊りも忘れない。「すべての感情を描く」と言われるインド映画ならではの“全部のせ”の神髄がここに詰まっているのだ。
正直、このハイテンションはクセになる。勢いと密度で観客を巻き込むパワーは中毒性がハンパなく、『バーフバリ』でインド映画のオモシロさに開眼したという人が多いのも納得だ。
世の中が複雑になり、昔は無条件にカッコよかったヒーロー像も、現実を反映した葛藤を抱えたダークなキャラが増えた。しかし『バーフバリ』が文句なしにスッキリさせてくれるのが、主人公である英雄“バーフバリ”の120%の快男児っぷり。南インドのスター、プラバースが演じたバーフバリは、筋骨隆々で愛嬌があり、知力も身体能力も飛び抜けた正義漢。卓越した指導力と人望で王位継承者となる人物だ。出来過ぎたキャラクターかも知れないが、問答無用で“正しき道”を貫くバーフバリの姿は、このややこしい現代に描かれるからこそ爽快そのものなのである。
現代の視点で見れば、“偉大な王”や“英雄”を求める民衆の姿はポピュリズムに陥る危険性もはらんでいるのだが、『バーフバリ』は決してその問題をおざなりにはしていない。父のいないバーフバリは奴隷の身分の臣下を“父”と慕い、女性をセクハラから守るために敬愛する国母にも逆らい、愛する女性のために王座にすら背を向ける。バーフバリは、現代も根強いさまざまな差別に対して明らかにNOを突きつけているのである。もちろん封建的な世界観の中においてではるのだが、現代に通用する説得力を備えた“理想のヒーロー”であることは特筆すべきだろう。
しかし作品のクオリティや面白さだけではこれほどのブームは起こらない。前述の“応援上映”や“絶叫上映”と呼ばれる上映形態では、観客が思い思いにコスプレをしたり、鳴り物を持ち込んで声援を送り、我らが英雄バーフバリ王を讃えて「バーフバリ! バーフバリ!」と歓声を上げる。こういった参加型の企画が行われるのは『バーフバリ』が初めてではないが、“応援”で生まれる一体感がこれほどまでに内容とシンクロした映画も希少であり、参加型上映との親和性の高さもファンを増やした要員要因の一つだろう。
そして中毒的な魅力にハマったファンたちが、さらに“マヒシュマティの民”を増やそうと口コミを広げたり友人を誘ったりしていることも牽引力になっている。『バーフバリ』2部作はすでにソフト化されていて本来なら劇場上映は下火になるはずなのに、大勢と一緒に観ることでより盛り上がる作品の魅力がファン数の増大に拍車をかけているのだ。
かつてはインド映画といえば1990年代に日本でもヒットした『ムトゥ 踊るマハラジャ』のイメージが強かった。やり過ぎ感あふれる何でもありのミュージカル仕立て、というイロモノ的なイメージだ。しかし2013年に『きっと、うまくいく』が公開されたことで、日本でのインド映画の認識も大きく変わった。お約束の歌や踊りは確かにあるのだが、むしろ笑いと感動のヒューマンドラマとして評価されたのだ。
以降、爆発的にではないが日本公開されるインド映画は確実に増えた。特に『きっと、うまくいく』の主演スターだったアーミル・カーンの新作は、現在公開中の『ダンガル きっと、つよくなる』に至るまでどれも日本の劇場にまで届いている。ハリウッド映画も日本映画もインド映画も分け隔てなく楽しめる土壌は着々と育っていたのである。
そこに満を持して迎えられたのが『バーフバリ』なわけだが、面白いのは後編の『王の凱旋』で火が付いたこと。もちろん『伝説誕生』を先に観ていた人も少なくないが、ストーリー的には後半戦である『王の凱旋』から観た人たちが大勢いたからこそ、前作をはるかにしのぐヒットとなったのだ。
つまりは前編・後編を貫く大河ストーリーを追うよりも、個々のシーンやキャラクターに夢中になった人たちが現在の『バーフバリ』ブームを後押ししたことになる。世界に名だたる映画大国インドが培ってきた表現の強さがこれで日本にも根を下ろしたーーと考えるのはまだ早計かも知れないが、『バーフバリ』がエンタメ映画の多様性を楽しむ新たな可能性を切り開いてくれたことは間違いないと言えるだろう。
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