5月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3611
ナイス数:32
虫屋のみる夢の感想
2006年出版なのに、随分古臭い印象の本。昭和の頃に流行った北杜夫等の随筆のようで、さらに古くは明治の文豪、夏目漱石の影響もありそう。著者が1948生まれなので無理もないのだろうが、身体に染みついている「昔ながらの教育」の匂いがぷんぷんする。それは空気のように当たり前に「女性を男性より下に見る視線」。妻達や母達を語る時のステレオタイプ化。ご本人に女性蔑視をしてるつもりは毛頭ないのだろうが、「男は女より上」とごく自然に思い込んでいるのだ。15年前なら楽しめたかもしれないが、時代はすでに変わってしまったのだ。
読了日:05月02日 著者:田川 研
拮抗 (ハヤカワ・ノヴェルズ)の感想
久しぶりのディック・フランシス。最後に読んだのはいつだろう? 手に取らなかった間に奥様の死で筆を折り、息子の参加で再活動という情報にまずビックリ。ページを開くと……これ、なんか、私が知ってたフランシスと違う~。そう、それは著者が息子との共作に変わったからというより訳者が変わっていたからの方が大きい。ディックといえば菊池光訳だったのも今は昔。いろいろ変わっていたけれど、本書の内容が当時最先端であったろうのは息子さんのおかげだろう。展開にかつての勢いはないが、読後感は痛快。
読了日:05月11日 著者:ディック フランシス,フェリックス フランシス
大英帝国はミュージック・ホールから (朝日選書)の感想
以前から英国のシュールなギャグセンスがどこから来るのか不思議だったのだが本書に解答があった。ミュージック・ホールこそが現英国エンターテインメントのルーツなのだ。「クイーン・ヒストリー」という映画の中で彼らの演奏にもその雰囲気が感じられると言及されている。フレディーと観客のコール&レスポンスもミュージック・ホールのスター芸人と客席との掛け合いに遡れるのかもしれない。そこで演じられた寸劇(スケッチ)がモンティ・パイソンやミスター・ビーンを生み出した揺籃なのだろう。現代の英娯楽を理解するのに欠かせない本だと思う
読了日:05月19日 著者:井野瀬 久美恵
ラトクリフ街道の殺人 (クライム・ブックス)の感想
1811年のロンドンで起きた2件の一家惨殺事件(赤子を含む)。科学捜査はおろか、現代的な警察さえない時代に犯人はどうやって目星をつけられ、収監されたのか。まずは賞金で目撃証言を募り、あとは都合のいいように話を作って犯人のでっちあげ……。この時代に生まれなくて本当に良かった。ただこの時代、容疑者の取り調べに拷問は含まれていなかったようだ(書類に残ってないだけかもしれないが)。後に「シャーロック・ホームズ」が世に出た時、何故熱狂的に受け入れられたのかよく分かる。論理と証拠で組み立てる推理って、素晴らしいもん。
読了日:05月21日 著者:P・D・ジェイムズ,T・A・クリッチリー
不潔都市ロンドン: ヴィクトリア朝の都市浄化大作戦の感想
一口に19世紀といってもその間100年、産業革命真っ直中のロンドンの様子がよくわかる。この時代、自治は「教区」が受け持っていて、そして何かにつけ出費を惜しみ、急を要さないことには無関心、儲けにならないことは無視というのは……案外今もどこでも同じかも。それでも「公衆衛生」という概念が生まれたのはこの時代で、何十年もかけて辛抱強く運動した人達がいるからロンドンには立派な下水道があるのだそうだ。映画でよく見る立派な地下のトンネル、あれがそうだったのね。因みに当時の人にやる気を起こさせたのは強烈な悪臭だったそうだ
読了日:05月23日 著者:リー ジャクソン
メイフェア劇場の亡霊の感想
19世紀のロンドンについての本をまとめて読んだところなので、タイトルに惹かれて読むことにしたのだが、期待外れもいいとこだった。元はNHK英会話テキストに連載された掌編なので、その時々のテーマと共にちょっとした息抜きとして読むのなら興も湧くかもしれないが、一冊にまとまるとそれぞれの作品の時代背景もバラバラで、とりとめもない話の羅列にしかならないのだ。文体はいろいろと凝ってるみたいだが、逆にそれが災いして舞台は英国なのに中国古典の伝奇物語集みたいな趣である。外は西洋でも中はどこまでも東洋な世界であった。
読了日:05月23日 著者:林 望
ハンターキラー 潜航せよ〔上〕 (ハヤカワ文庫NV)の感想
映画が大変面白かったので原作を確認。三つ巴で進行する話の内一つを映画ではばっさりカットした模様。より長尺になるのと散漫になるのを避けた正しい決断と思われる。原作もよくできていると思うのだが、原潜内部とか軍港とかどれだけ正確な描写をされても最早想像力で追いつく世界ではないので、映画で具体的な映像を見ておいて良かったとしみじみ思う。登場人物が多く、主役級の人物でも特段に書き込みが多いというわけではないので、さほど魅力を感じないというのが小説としては欠点か。映画を見ているからこその推進力で読み進んでいける感じ。
読了日:05月24日 著者:ジョージ・ウォーレス,ドン・キース
ハンターキラー 潜航せよ〔下〕 (ハヤカワ文庫NV)の感想
下巻は映画とはまるで違う展開で、おかげで違うハラハラドキドキが楽しめた。読んでる内から感じていたが、この話には同じ登場人物での前のエピソードがあるらしい。そっちも是非読んでみたいが、まだ訳されていない模様。残念。 さて、本書が面白いのは、悪役達が人間臭いところ。狂信者や凶悪なマフィアが、彼らの目論見が何故か思った通りに進まないため、茫然としたり歯噛みしたり気を取り直したりする場面が描かれていて可哀相になってくる。主役陣は精神面も強くて何事にも動じないので、悪役のドタバタぶりが読者の息抜き。同情さえ覚えた。
読了日:05月25日 著者:ジョージ・ウォーレス,ドン・キース
お菓子の由来物語の感想
幼い頃、高級洋菓子店に並ぶケーキや焼き菓子をショーウィンドウ越しに飽かず眺めていた時の気分が蘇った。写真でも子どもの小遣いでも手に入らぬのは同じ事。高校生になるとおつかいでケーキ屋にも行くようになったが、店によって見た目が違うのに同じ名前のケーキがあるのは何故だろうと思っていた。モンブランぐらい特徴が分かりやすければいいが、「オペラ」とかだと何が共通点か一見分からない。また日本ではアップルパイもケーキの内だが欧米人にとってはパイとケーキは別物と聞き混迷はさらに深まる。そんな積年の悩みが本書で一気に解決した。
読了日:05月27日 著者:猫井 登
スタートボタンを押してください (ゲームSF傑作選) (創元SF文庫)の感想
ゲームをほぼやらない私にとってゲーマーの頭の中を知るよい教材だった。ゲーム内での万能感と現実の肉体との落差、自分のやってるゲームが実はスカウト用だった等、共通のテーマを持つ映画も多い。しかし私が一番感じたのは「ゲームではやり直しが当たり前」という事。「同じ事を何度も繰り返してやる」のは私にとっては苦痛そのものだが、ゲーマーにとっては至極普通の事。ああ、だから最近の個人情報記入等のフォームは、一度間違ったら当たり前のように最初からの入力に戻るのか。今それを作っているのは幼少時からゲームしてた人だろうから。
読了日:05月27日 著者:ケン・リュウ,桜坂 洋,アンディ・ウィアー,アーネスト・クライン,ヒュー・ハウイー,コリイ・ドクトロウ,チャールズ・ユウ,ダニエル・H・ウィルソン,チャーリー・ジェーン・アンダース,ホリー・ブラック,ショーニン・マグワイア,デヴィッド・バー・カートリー,ミッキー・ニールソン
ハツカネズミと人間 (新潮文庫)の感想
読むのは初めてだが本書で描かれている労働の風景というのは昔の米映画やドラマでさんざん見たような…。筋立ても知っているような気がするが、それは本作が多くの亜流を生み出したからだろうか。或いはそのままドラマ化された映像を見たのかもしれないが……。米文学の中にしっかと根を下ろして今に至るまで息づいている作品なのだと思った。 しかし皆がスマホを持ちゲームがあれば一人でいても平気な世代に、登場人物達の置かれた境遇は本当に「分かる」のだろうか? 失敗したら最初からやり直せばいいと思っているゲーム小説とは違うのである。
読了日:05月30日 著者:ジョン スタインベック
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