キングの本を手に取ったなら、全ての予定はキャンセルしなければなりません。だって読書に夢中になって他のことができなくなるからさ! 上巻は主人公の幼児期から大人になるまでが一人称で淡々と語られるだけなのに、ただそれだけなのに、ページを繰る手が止まらない。どうしてこんなに瑞々しく思春期の恋を描けるのだ?! ところで訳文を読んで訳者が若いなと思った。「~かどうか」の「どうか」を省略したり、下巻では「爆睡」という単語を使ったり、今までのキングの翻訳では見たことのないものだったから。でもテンポが良くて読みやすかった。
読了日:09月10日 著者:スティーヴン キング
心霊電流 下の感想
読み進む内にこれは「フランケンシュタイン」のオマージュだと思い始めた。ひょっとしたら「グリーンマイル」みたいな話になるのかなと思ってたのが最後の方では「ペットセマタリー」になったらどうしようとビクビクしてたのだが、違った。いや~、そう来るのか~。実際、後書きにキングは「フラ~」と「パンの大神」に触発されて本書を書いたのだそう。しかしそれだけのアイディアをよくここまでの長編にできたな、と。本書ではロックへの愛も語られるが、「ロッカー同士は『死んだ魚のような握手』を交わす」というのが独特な仲間意識の表現で秀逸
読了日:09月11日 著者:スティーヴン キング
切り裂きジャック 127年目の真実の感想
本書によると、ロンドン警視庁は当時から特定していてそれを証明する文書も残していたのだが、切り裂きジャック関連で莫大な金儲けができるから真犯人を明かさないのだそう。 そしてまさにその通りだった。最新の科学と地味で綿密な調査の結果、現場に残されていたショールが実は犯人の物だったことが分かり、それに付着していたDNAからジャックの正体が判明したのだ。その真実が夢も希望もないというか…これまで王族だの実は女だったのさんざん想像逞しくしてきたものが打ち砕かれてしまった。こんな真実より謎のままの方がずっと楽しい。闇。
読了日:09月12日 著者:ラッセル・エドワーズ
きれいな猟奇―映画のアウトサイドの感想
切り裂きジャックの殺人の現場写真で本物の猟奇を見てしまうと、「きれいな猟奇」などインテリの言葉遊びにしか過ぎない。ロリコンも(成人)女性嫌悪もゲイへのまなざしも、意味ありげな言葉を積み上げただけの見せかけ。そこに豊富な知識の裏打ちはあるが、それが読者の役に立つ事はない。 元原稿は1990から01年の間に書かれたものだが、そこから現在までの激しい変化を如実に感じる。もはや言葉で読者を眩惑させてそこに「何か」がありそうと錯覚させ妄想をふくらませるのは不可能だろう。スマホで動画を見つける方が手っ取り早いのだから
読了日:09月14日 著者:滝本 誠
天国でまた会おう(上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)の感想
文章が上手でテンポもよく、次々に予想外のことが起こるのでどんどん読み進むことができるのだが……登場人物の腐れ外道ぶりに手が止まる。第一次大戦の悲惨さについては映画などで見てきたが、それを元に金儲けする奴の話というのが……これが現代でもそのまま行われていそうで、こういう奴らが金儲けして長生きして善人は前線で死んでいくのかと思うとやりきれない思いばかりがつのる。
読了日:09月18日 著者:ピエール ルメートル,Pierre Lemaitre