2月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3578
ナイス数:22
警告(下) (講談社文庫)の感想
前世紀なら近未来SFとして発表されただろう(マイクル・クライトン辺りが書いたとしてもおかしくない)。それが今ではいつ現実に起こってもおかしくない出来事となっている。かつてのSFでは思いもよらなかったであろう現代的な要素は、とあるDNAを有する女性を「バーで落としやすい」として彼女達の個人情報を売りに出す点と、その市場が「非自発的独身主義者(インヴォランタリリー・セリバトゥ:略してインセル)である点だ。ヒトゲノム解析ってそんな目的のために行われたのかと頭がクラクラしたが、しかし実際ありそうだし実用的。恐い。
読了日:02月01日 著者:マイクル・コナリー
警告(上) (講談社文庫)の感想
お久しぶりのマカヴォイ君。私は彼があんまり好きじゃないんだけど、本作読んで何故だか分かった。記者魂が強すぎて誰も信じられず、すぐに人を傷つけるからだ。まあその報いは充分過ぎるほど受けているのだけど。ボッシュの「鬼火」に続き、本作もDNAを証拠として過信する事への警鐘となっている。科学捜査でDNAが出てそれが容疑者と一致すればハイ犯人~という時代はフィクションではもう終わったのかもしれない。また「環椎(かんつい)後頭関節脱臼」という言葉も覚えた。首を勢いよくぐるっとひねって外すと反対向きになるそう。大抵死ぬ
読了日:02月01日 著者:マイクル・コナリー
韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化 (中公新書)の感想
大変有意義で面白い本だった。現代を舞台にした韓国ドラマを見ながら抱いた疑問の大部分が本書で解消した。特に驚いたのは高校が受験なしの全員入学という点。だから簡単に転校できるのねと超納得。また大学入試におけるポートフォリオの重要性は日本の「内申」の比じゃない事も。受験もないのに子ども達が塾通いで忙しいのは親が家にいないため、学校が早く終わっても安心できる居場所がないから。またドラマのカップルが結婚を考える年齢がやたら遅いと思っていたが、晩婚化が進み低出生率も続いている現実の反映だと知った。韓ドラファンの必読書
読了日:02月08日 著者:春木育美
韓国 現地からの報告 (ちくま新書)の感想
「韓国社会の現在」読後に残っていた疑問が本書であらかた解決できた。この二冊は現代を舞台にした韓国ドラマを理解する際のバイブルだろう。「冬ソナ」で描かれた前世紀、今世紀初頭、現代で高校生活がまるで違う事が理解できたのは大きい。韓国の受験は今や日本とまるで違うシステムで、教師のあり方も様変わりしている。そして変化が急なのだ。フェミニズムの台頭も激しいが、その結果ワリを食うのも女性であることは「よくおごってくれる綺麗なお姉さん」で描かれていた。韓ドラは時代をダイレクトに反映している。それでいて面白いんだから最高
読了日:02月13日 著者:伊東 順子
7は秘密 ニューヨーク最初の警官 (創元推理文庫)の感想
前作よりは過剰さが減って随分読みやすくなったが、それでも文章による粉飾が過ぎて実際に起きて問題にしてる事が何だったのか分からなくなる。『鬼滅の刃』は炭治郎の独り言が多いと言われているが、モノローグ主体の本作の主人公、ティムに比べたら可愛いものだ。ティムときたら何にでも自分の見解と悲嘆と文句と追憶と怒りその他を交えて表明しないと気が済まないのだから。その上馬鹿。自分がこの上なく愛されてる事実を常に無視して孤独ぶってるから。歴史的な題材は大変興味深かった。主人公の悲壮ぶりっこが次作ではもう少しマシになればいい
読了日:02月14日 著者:リンジー・フェイ
ジェーン・スティールの告白 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)の感想
登場人物全員中二病で『ジェーン・エア』の二次創作をがっつりやりました、みたいな作品。面白いんだけど感動はしない。主人公が「シリアルキラー」という設定なんだけど、プロファイラー系のドラマでこの言葉を紹介される際とは意味が違っている。なりゆきで殺人を繰り返すのと、楽しんで人を殺す「連続殺人犯」は違うのでそこはちょっと注意しておきたい。本書にはビクトリア朝の英国におけるインド事情が書かれていて、『小公女』をちょっと思い出した。一番同情したのはそれまで男女平等だったのに突然「女だから家政を」とされてぶち切れた人ね
読了日:02月20日 著者:リンジー フェイ
音楽の在りての感想
文章は素っ気ないが内容は豊かなイメージに満ちている。そのまま萩尾のマンガとして想像でいそうな程だ。細部を描くのが煩雑だったり、テーマを語るのに説明文ばかりになりそうな物語を文章化したのか。「マンガ原人」は筆者の心の叫びのようだった。『ウルフガイ』で狼の遠吠えが「君はそこにいるか。俺はここにいるぞ」と書かれるのと同じ、仲間を求める切実な気持ち。だが例え出会ったとしても「美しの神の伝え」にあるように、人は自分以外の人の心を分かるなんてできない。心の交流はあたたかく身体さえも包み込むが、愛とて孤独は癒せないのだ
読了日:02月22日 著者:萩尾 望都
いとみち(新潮文庫)の感想
映画がわりと面白かったので原作を読んでみたくなった。映画の方がヒロインの住んでる地域のスコーンと開けた様子が分かりやすくてよかった。キャスティングのせいでヒロイン始め本とは違う設定のキャラが何人かいたが、話はほぼそのまま。その割に厚いのはヒロインの日常に関する書き込みが多いせいだが、進学高のはずなのに勉強や学校行事の話がほとんど出てこないのは不自然。またブラウスとワンピースは普通は一緒には着用しない。着るならジャンパースカートだろうし、スカートには裏地がつくかペチコートを併用する。まあ、その程度の作品。
読了日:02月25日 著者:越谷オサム
我は、おばさんの感想
「いとみち」の不自然なヒロインの言動と違い、本書には現代に生きる血の通った女性の生の声が満ちあふれている。圧倒的な情報量で次に読みたいと思う本がたくさんあって嬉しい。また自分の好きな少女マンガや映画への言及も多く、その都度ニヤリとした。本書のテーマは最終的には「人生の中で"母"として過ごす時間がなかった人間が"おばさん" として胸を張って暮らせる世の中にしよう」というもの。それには全面的に賛成なのだが、母親とおばさんを両立させる視点に欠けている。まあ著者も書いてはいるが、おばさんって無責任な立場なのよね…
読了日:02月26日 著者:岡田 育
疫病の精神史 ――ユダヤ・キリスト教の穢れと救い (ちくま新書)の感想
大変面白く、興味深い内容だった。日本と欧米諸国のCovid-19や患者に対する政策や医療、また世情の違いが宗教観に裏打ちされた文化の差に起因するものであるとよく分かる。欧米がその拠り所とするキリスト教は本来イエスが病人(を始めとする弱者全て)を積極的に世話し、癒した所に端を発したとも言えるのだった。『指輪物語』に「王の手は癒しの手」とあるが、本来イエス=神の手であるものを王が代わるのが「按手」だそうだ。病人が排斥されない宗教は羨ましい。日本が行っているのは今や「姥捨て」そのもの。生産性の無い者は死を選べと
読了日:02月26日 著者:竹下 節子
十二神将変 (河出文庫)の感想
旧仮名旧字はともかく、読めない漢字や知らない単語が次々出てきてスマホで調べながら読んだ。『音楽の在りて』にも新薬師寺の十二神将の出てくる短編があったので薬師如来共々画像もチェック。書かれている時代は戦後20~25年程らしいが、戦前から東京住まいの家の人ってみんな普通に金持ちのインテリだったのだろうかと『虚無への供物』を思い出したが、読み終えてみればTVの2時間推理ドラマの如き筋立てだった。読者の目を眩ます仕掛けは文章共々華やかなのでそれを楽しむ作品だろう。初出の頃は物議を醸したかもしれぬ内容も今は昔である
読了日:02月28日 著者:塚本 邦雄
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