これ以降はネタバレ全開なので未見の方はご注意下さい。

まあこんな映画見なくたってどうってことないけど。

 

『チタン』のヒロインは幼少時、自分が原因で自動車事故にあい、その際に欠けた頭蓋骨の一部をチタンで補う手術をする。彼女はチタンを頭に埋め込んだまま成長する。”

だからといって人間は自動車に欲情するようにはならんぞ、普通

少年と見違える程ボーイッシュだった彼女の現在の職業はポールダンサー。その踊りは挑発的でファンもいる。しかし彼女には裏の顔があって実は連続殺人鬼なのだ。”

もうこの展開が唐突すぎて……だって何の説明もなくいきなり殺し始めるんだもん。殺しにはかんざしのように常に頭にさしてる金属製の太いスパイクを使うんだけど、あれ、あんな重い物、どうやって髪で支えていられるんだ? いや、それは副次的疑問で、本来は何故そうするようになったかという動機を問うべきなんだけど、彼女があまりに凶暴なので単に衝動的に殺したいから殺してるんだろうとしか思えない。後始末もずさんなので殺し屋でもなさそうだし……そもそもそんなんで今までどうしてバレなかった? 手際の良さからこれが初めてではないだろうに、等と思っている内に、どうやら彼女は男よりも車の方が好きらしいと分かる。

車の中で激しく自慰行為をする彼女。何がどうなっているのか分からないが、とにかく何かの上で上下動を繰り返し、エクスタシーを感じているようだ。
翌日彼女が気づくと股間が濡れている。観客は彼女のショーツを通して黒いものがしみだしているのを見る。”


あたしゃ下痢でもしたんかいと思いました。ようそんなシーン撮るな、とも。
ところがこの後の展開で、その黒い液体がエンジンオイルか何からしいと分かって来るんですね。

そう、彼女はどうやら自分でも気づかない内に車とセックスし、そのまま車の子を妊娠してしまったのだ。”

あほでしょ?! 
ありえないでしょ?!
なんぼ私がしょーもないホラーが好きでもこんなトンデモ展開は呆れ果てるわよ。

だってさ、動機というか理由というか原因が何一つ描かれてないんだもん。
自動車事故のせいでチタンが頭蓋骨の一部となった故、彼女がチタンや車に愛着を感じるようになったというのは百歩譲って許したとしよう。
でもさ、車は?
彼女を妊娠させた車の方はいつ彼女を愛したのよ?
ってゆーか、いつ妊娠させるパワーを得たんだよ?
魔術でも科学でも宇宙人でもなんでもいいけど、車が女を妊娠させるに至る、そっちの説明が一切ないのよ、この映画。

いいのか? そんなに簡単に車が女を妊娠させて、それでいいのか?
世の中の全ての法則に逆らってるわ、それ。
しかも全く恐くない。
その上ロマンチックでもない。
彼女は欲望を満たしただけで、車との間に愛の交歓はなかったから(書いててアホらしすぎる)。
ただただ、呆れて見てましたよ。

こんなのがカンヌのパルムドールだなんて、カンヌの審査員も頭どうかしてるわ。前々からカンヌの受賞作は分からんと思ってたけど、今回のことでハッキリしたわ。

”彼女が胎内に宿したモノは恐るべきスピードで成長し、やがて母体を引き裂いてこの世に現れる。
それはチタンの鈍色に輝く赤ん坊。人間と車のハイブリッド。
奇跡の子は祝福の元に、子を願ってやまなかった父の元に授けられた。おしまい。


あほかーーーーーーー!!!!!
ここに来て物語の主人公がヒロインじゃなくて、行くあてのない彼女を家において世話してた男の方だったってなるんか~い!!!!!
何見てたんだよ、あたしゃ~~~~~!!!!!

いえ、ここでは割愛してますがその男=父の話も延々と描かれてはいたのですよ。しかし中年すぎた離婚歴のあるおっさんの話がそっちに転ぶとは思わなかった。

"男は子どもの頃に行方不明になった息子を捜し続けている。その子の風貌に自分がよく似ている事に気づいたヒロインは警察の捜査を避けるために男装し、成長した息子と偽って男の家にもぐりこむ。男は彼女を見つかった息子だと周囲に宣言し、自分が隊長を務める消防署で働かせ始める。だが母親の方は息子が帰ってくるなどあり得ないと冷笑。実は男は自分の不注意で息子を死なせてしまい、それを周囲には「行方不明」と言って隠し続けてきたらしいのだ。

だから「息子」を別人と知りつつ自分の罪を隠すためにその存在を受け入れる。途中で女だと薄々気づいても「息子」だと周囲には言い張り続ける。彼は亡くした子の事を本当に愛していたのだ。そのため毎日罪の意識に打ちひしがれていた。そんな男にとっては偽物であれ「息子」の存在は何よりも嬉しいものだった
。”

だからといって同情などせんわ!
あんたら本当に頭おかしいってば!!
あ、似たもの同士だから共同生活も何か上手くいってたのか……。

"実の父に愛されたことのなかったヒロインは「息子」として厳しくも優しく扱ってくれる男に「父親」を感じ、信頼するようになる。だから生まれる子どもを安心して彼に託す。
男は、欲しくて欲しくてたまらなかった子どもを遂に自分の手に抱くことができた。だからそれが全然人間じゃなかったとしても最早気にならないのだ。二人の将来に幸あれ。


って、なんでそうなるのか全然わからない!
いいのか、それで、いいのか?!

まあ「家族」というものの新しい側面を切り取ったという意味でカンヌ好みではあるんでしょうよ。

しかしこの映画、何を言いたいの?
ひょっとしてヒロイン、処女懐胎で生まれたのは新たなキリスト? 
なんぼなんでも殺人鬼のマリアと嘘つきのヨハネじゃいやだわ。なし、これはなし。

こういう時私は「作品の中で一番得した人」を探します。大抵それが作者で、「得」した内容がテーマだから。
そうすると本作では棚ぼたで「赤子を得た父」だと思うのが妥当だと思うのですが、テーマにならんのですよ、「殺人鬼でも拾って世話すると子どもが貰える」なんて。言いかえると「献身は実を結ぶ」ですが、それはあなたマザーテレサとかさ、そういう人を中心に据えて描くべきでしょうよ、こんな卑怯者のおっさんじゃなく。む、それがそもそも自分の頭がかたいということか。しかしそれにしたってこの映画見て「献身は実を結ぶ」と思う人、いねーよ。

で、気づいたんですが、この監督、女性なんですよ。
そうすると女性キャラってヒロインしかいないんで(後はほぼ全員殺されてる)、彼女の「得」って何かを考えますよね。
それは「我が子を安心して他人に託す」になります。普通ラストシーンが結論ですから。
するってーと「望まぬ妊娠をしたけど生まれた子どもを信頼できる相手に養子にやれてヨカッタ」って事になりません? それ、本音かもしれないけど、そこまで赤裸々にテーマにするか? したからパルムドールなのか? この映画は実は『ジュノ』の焼き直しだったのか?

そう思えば確かに『チタン』は望まぬ妊娠をした女性の苦悩の日々を描いてもいたわけですよ、例の殺人用スパイク(20㎝ぐらいある)使って自分で中絶しようとしてたもん。胎児がアレなもんでできなかったんですが。

テーマがなんであれ、一筋縄では分からない。というかそんなことどーでもよくなるぐらい頭オカシイ映画なのでした。

一体何が言いたかったんだよ?!