「大地保育ものがたり(第13話)」
2020.11.7
よくある質問③『名のない遊びって何ですか?(その2)
―定義を教えてください―』
読者の方から、『名のない遊びの定義を教えてください』という質問がありました。
では教授から答えさせていただきます。
『名のない遊び(the nameless plays)』の定義
1: 遊びには名前をつけて呼ぶのが一般的である
例えば、縄とび遊び・コマ遊び・ままごと遊びなどと名前がある。
しかし『名のない遊び』とは、名前がない遊びで、名前を付けようにも文字や言葉では表せない行為や行動である。
乳幼児の発達と遊びを観察してみると『名のない遊び』が意外に多く・かつ重要であることに気づく。例えば、どろんこ遊びやいたずらなどの探索活動・試行錯誤の実験・無意識の表出や表現など、認知学習(*)や非認知学習(**)の遊びの総称である。
しかしながら、従来教師指導型の一斉教育を伝統としてきた保育・幼児教育界にあっては統制的・指示的な活動形態が多く、無視されたり、異端視されてきた。
そこで『名のない遊び』の認知と啓発を目的として、1978年に塩川寿平(1938年~)が論文『保育内容の基礎理論』の中で、子どものありのままの発達過程を受容する人間尊重の視点と、幼児の特色ある独立した存在の児童文化として『名のない遊び』と定義した。
『名もない遊び』とも呼ばれるが同義語である。
発達過程に基づいたありのままの好奇心や探索の受容から生まれる『名のない遊び』は、まさに乳幼児の発明や発見や創造でもあることから、本人自身の生き方が尊重され認められたことであり、自信が育つ源泉となるものである。
それ故に今日、自己肯定感情や自尊感情を育てる上から高く評価されている。
(*)認知学習=外から見えやすい能力。技能・訓練・知的能力・学力など。
(**)非認知学習=外から見えにくい能力。集中力・忍耐力・失敗してもめげない力
・相手のやる気を引き出す力・意外性・楽天的・自己肯定感情など。
2: 先生の自由精神と、包容力・寛大さが必要
例えば、1歳児の女の子が先生のスカートの中に隠れてしまったり。2歳児の男の子が先生の靴を履いて園庭に出かけてしまったり。園児たちが、雨あがりの水たまりでピチャピチャ跳びはねて泥だらけになってしまったり。
先生は困ってしまいますが、破壊や暴力に至らない範囲は寛大に見守ってくださいね。
その日のあとの保育もありますし、先生は後片付けをしなければなりませんから、どこで遊びを止めたらよいかということになりますが、担任の先生の「責任のとれる範囲」と心得てください。
例えば、お人形や積み木で遊んでいて散らかしっぱなしになったなら、
「さあ!給食の準備をしましょう」
と声かけして、先生一人で片付けるのではなく、子どもたちにも呼び掛けて、共同作業で片づけましょう。
『名のない遊び』は、園児の自由意思の尊重で進められますが、1日の保育のバランスが崩れてしまうほど盛大になってしまうことがあります。
では子の自由はどこまで許されるかというと、「自由には責任」が伴います。
しかしながら、発達を考えると園児にそれを求めることは無理がありますから、まだまだ遊びを続けたいという園児の自由意思を尊重しながらも、そこは先生の出番です。
その日のあとの保育のことも考えて、担任の先生の「責任のとれる範囲」で園児に声かけして一緒に片づけましょう。
あとの保育も尊重し、保育全体の自由も守らなければならないからです。
3: 園児から学ぶチャンスです
大人から見ると困ることが多いのですが、子どもたちは嫌がらせでやっているのではありません。
自ら興味を持って自発的に主体的に遊びを創造しているのです。
基本的に乳幼児の個性豊かな遊びに無駄なことは一つもありません。
『名のない遊び』をよく観察してください。子どもから学ぶチャンスです。
先生が付いていて、親が付いていて、見守られていて、責任を取ることができる大人たちがいるならば問題はありません。
自由な遊びにも責任が伴うということですが、子どもが責任を取る方法もあります。
親が責任を取る方法もあります。
先生と園児と一緒に片づけて共に責任を取る方法もあります。
いろいろな責任の取り方を考えましょう。
園児の発達過程から生まれるありのままの好奇心や探索の『名のない遊び』は、まさに乳幼児の発明や発見や創造の芽ばえであるから、園児の生命活動が尊重され、認められたことであり、自信が育つ源泉となるものです。
それゆえに、今日、自己肯定感情や自尊感情を育てる上から『名のない遊び』は高く評価されています。
4: ジュッペちゃんの保育の心
子どもを大切にするということは人間としてであって、私たちの『大地保育』は大人も童心人となって子どもと共に独立国(子どもの園)を創造するということではないかと思います。
いつでも・どこでも・いつまでも、子ども心を忘れずに『名のない遊び』を大切にしたいと思います。
参考:『名のない遊び』の定義は、
1、 ミネルヴァ書房「(第8版)保育用語辞典」
2、 一芸社「(新版)保育用語辞典」
3、 フレーベル館「(現代)保育用語辞典」
以上、主な出版社の保育用語辞典に掲載。