【特記】この第70話は、一般社団法人日本保育学会第75回大会 
聖徳大学(オンライン大会)で2022年5月14日開催。
日本保育学会会員・研究者塩川寿平のポスター発表です。

 

保 育 環 境 論(50)

新型コロナウィルス感染症禍中の運動会開催と諸課題―

C000090 塩 川 寿 平( 大地教育研究所 )

 

(1)研究の目的

 

本研究の目的は、新型コロナウィルス感染症禍中における運動会開催を決断した理由と、その評価を明らかにすることを目的とする。

まず、なぜ運動会を行うのか運動会の理念を明らかにする。次に、新型コロナウィルス感染症禍中における保育理論と保育実践の制約や縮小、安心安全対策を明らかにする。

従来の運動会とは異なる3密(密閉空間・密集場所・密接対応)を避け、少人数化、手洗いの徹底、咳エチケットの自覚化、健康管理等に取り組む安心安全保育の創意工夫の取り組についても研究の目的とする。

いわゆる従来の自由と創造と地域の人々に解放された運動会とは異なるが、新型コロナウィルス感染症予防の制約と縮小化でも可能な限り自由・創造・解放の精神忘れずに子ども主体の運動会を創意工夫した結果と評価を明らかにする。

 

(2)研究の方法

 

幼保連携型認定大中里こども園(静岡県富士宮市)園長京極桃子 定員70名(1号認定9名・2-3号認定66名)の運動会実施の事例研究から新型コロナウィルス感染症禍中の運動会開催と諸課題の研究を進める。

 

 

 

園全景=熱中症対策のテント・園児の座席設営・水分補給の園児各自の水筒         

 

(2―①)令和3年度大中里こども園運動会実施事例

 

保護者の皆様へ 園長 京極桃子より(2021.10.1発信)

 

楽しみにしてくださっている運動会ですが、新型コロナウィルス感染症の状況を踏まえ、今年は2歳児以上の参加にさせていただきます。

コロナの心配がなくなる日常を過ごせるように速くなって、 0歳児から皆での運動会ができるよう祈りつつ。

*会場:大中里こども園 園庭。

*開催: 2021年10月9日(土曜日)・・・・・雨の場合順延10月10日(日曜日)

*時間: 8時30分集合・・・・・*開始: 9時00分~11時00分

*参加: 2歳児クラス以上の参加。父母のみの参加。

 

10月1日より緊急事態宣言が明け、少しほっとしています。なお市当局より集団による保育行事の自粛協力要請があり、今年の運動会は昨年に続き新型コロナウィルス感染症の拡大防止のため規模を縮小し、参加人数の制限をしての開催となります。

 

(2―②)なぜ制約や縮小までして運動会を行うのか

 

大中里こども園の保育理念と運動会のあり方の確認と合意

 

『大中里こども園の子どもが元気になれる運動会』

園長 京極桃子のお便り(2021.10.1発信)

 

運動会の時期になりました。子どもも大人も楽しみな行事です。しかし今年は9月30日まで新型コロナウィルス感染症の緊急事態宣言が出ていて、運動会ができるのかずっと心配してきました。

 

それでも子どもたちは元気いっぱいで『10月になったら運動会するんだよね』と雲梯にぶら下がり・登り棒に登り・青虫くん(登って飛び降りる遊具の名前)にも・蛙の神様(広島産桜御影マンナリ石でできている重さ3トン・高さ80センチ・幅80センチの彫刻像)にもよじ登りジャンプして身体をたくさん動かしていました。大きい子のそんな姿を見て小さい子だって鉄棒にぶら下がってみたり、走りっこだって同じようにしてみたりと元気に遊びと生活をしています。

 

今年は東京オリンピック・パラリンピックがあって、体操の鉄棒やあん馬の演技を見たり、スケボーの技をまねる姿や、バスケットボール等々に打ち込む姿はどれも東京オリンピック・パラリンピックの刺激だったようです。陸上のクラウチングスタートのマネだってしていました。

 

それらは大人も一緒になって毎日見たテレビ放送によるオリンピック選手の活躍を楽しんでいたからだと思います。

 

園庭で体を動かし『暑い 暑い』とプールで身体を冷やし、園児はその時々に集中し、笑いあったり、泣きべそしたり、しっかり子ども時代を楽しんで大中里こども園で過ごしています。この運動会は体育的な面からの発達や協調性を中心に、心身ともに元気に育っている姿を見ていただくことを目的としています。

 

各年齢での基本的な運動機能を考えた遊びの挑戦、友達の応援、泣いたり、笑ったりする中で成長を見せてくれる子どもたちをみんなで応援しましょう。

 

そして一緒に楽しんでいただく私たちが望む運動会の保育理念は、『大中里こども園の子どもが元気になる運動会』です。

 

 

(3)研究の過程


新型コロナウィルス感染症禍中の運動会開催にあたり大中里こども園の保育理念と運動会のあり方について、保育教諭・職員および保護者との合意と協力を図る。

 

(3-①)運動会の理念とあり方の合意事項
【理念1】 自分との戦い=自分を鍛える運動会

 

運動会と言えばナンバーワン(1番になること)を目指したものです。相手に勝つ・皆に勝つ・他人に勝つ。でも私たちは「昨日の僕」より「今日の僕」。「今日の僕」より「明日の僕」との戦い。オンリーワン(かけがえのない私)の保育理念を大事にしたいのです。

 

 

 

自分自身に挑戦 ①一人で鉄棒にぶら下がる ②カエルの神様からジャンプ

 

【理念2】 自分に負けるな=自分にガンバレー

 

「昨日より今日、今日より明日に向かって自分にガンバレー」です。

以前は他人と比べて他人に負けるなと言うガンバレーでした。

「ガンバレー」の言葉は同じですが、私たちは自分自身に向かって

「ガンバルゾー」と言う意気込みと、自分自身の励ましを大事にしています。

 

【理念3】 健康つくりフェスティバル=お祭りです

 

私たちの運動会は健康年齢を保ち、長寿のできる健康つくりフェスティバル=お祭りです。医療の発達などにより80歳~100歳までも生きられるようになりました。《人生100年時代にあたり》健康年齢を継続できる心と身体を作るため、身体を動かして健康的な汗をかきましょう。

 

子どもの幸せはお家の方にかかっています。父・母・お家の方の健康づくりの運動会でもあります。共に育ち、健康年齢を考えた運動会という保育理念を大事にしています。

 

 

 

 

親子で楽しむ運動会 ①背中って温かい ②僕もガンバルお母さんもガンバル

 

 

(3ー②)運動会に共に参加し・見守る父母の心得

 

正確に・丁寧に・ルールを守って楽しくやることが目標です。勝敗にこだわらないからできることです。マイペースで良いのです。各年齢で目標とした運動機能を取り込んだ種目一つ一つを正確に丁寧におこないます。

 

そして楽しんで運動会を過ごします。大中里こども園の一つの特徴としてわらべうたのリズムを中心に、一般的に使用されている運動会用の激しいリズムの音楽(バックミュージック)は使わないようにしています。

 

その代わりに、①激励の拍手。②『ガンバレー』の肉声の応援を子どもたちに届けます。③激しいリズムの音楽にせかされることなく。④正確に、丁寧に、自分自身の演技ができるようにします。⑤子ども主体の運動会を目指すことが私たちの運動会の保育理念です。

 

(3-③)安心安全のための「お約束」「お願い」

 

1、 健康状態は各家庭でしっかり管理し、具合の悪い時は欠席してください。

2、 当日、参加の際の検温・体調状態のチェック・マスクの着用にご協力をお願いします。

3、 運動会の競技中はお菓子など一切食べません。

4、 園児の水分補給は保育教諭が行ないます。父母の方の熱中症対策は各自で適宜水分補給をしてください。

5、 園内は禁煙です。

6、 駐車場は前向き駐車をお願いします。各家庭1台です。

7、 プログラムの競技種目「背中って温かい(父・母がわが子をおぶって園庭を走る)」は、例年は4歳児と5歳児ですが、今年は5歳児のみとします。

8、 感染症の状況により運動機会は中止となる場合があります。

9、 『子どもは見てもらいたい』『認めてもらいたい』願望があります。    

出来たことを認めてもらうと自信がつきます。そしてさらにやろうという気持ちになり意欲に繋がります。運動会の時だけではなく朝夕の送迎時にも子どもの姿を見てくださると励みになります。

 

お忙しいと思いますが少しの時間、わが子のために足を止めて見ていただけると嬉しいです。

 

 

(4)運動会実施の実際

 

新型コロナウィルス禍中のマスク着用の運動会・会場入口の検温実施の様子

 

 

運動会会場入口です。検温と名簿記録係の2名の先生に迎えられ、安心安全のための体温チェックの様子です。

 

入場門は個性豊かな園児の自由画で飾られホッとし、和みました。

 

マスク姿で写真撮影。新型コロナウィルス感染症が収まった時にこのアルバムを広げて、コロナ時代の象徴『マスク運動会を懐かしく話す日』が早く来ることを祈りました。

 

①保護者の方々の参加も。②来賓の方のご挨拶も。 お約束のマスク着用!!

 

 

保護者の皆さんも来賓の方のも【マスク着用お約束】を守って参加しました。

 

大中里保育園(現:大中里こども園)の初代園長塩川寿平さんは来賓のご挨拶で『 私たちの運動会は、心と身体の健康を作るフェスティバル=お祭りです。 今は人生100歳時代と言われています。乳幼児の今から100歳まで使える健康年齢の心と身体をつくりましょう。秋晴れのこの良き日。サア!園児も、先生も、保護者の皆さんも、ご一緒に健康な心と身体を作る運動会を楽しみましょう 』と、お話されました。

 

競技は3密にならない様に工夫して実施されました

①かけっこ(大地を走る) ②一本橋わたれ! ③大中里オリンピック(登り棒)

 

 

 

 

1 :かけっこ(大地を走る)は、保健体育の基本です。2本の足でしっかりと大地を踏みしめて「歩く・走る」は健康な身体つくりの土台です。子どもも大人も一生涯「歩く・走る」は必要です。何よりも「かけっこ」は大好きな遊びです。

 

2 :3歳児と保護者による「一本橋わたれ(障害物:大冒険に出発だ!)」という競技種目の一場面です。 5メートルのぶら下がり距離をガンバルわが子の成長に感激するとともに、この競技ではお父さんもお母さんも一緒に育ち鍛えられます。親子競技を体験し共に成長し大感激です。

 

3: 園庭の固定遊具「登り棒」です。日頃から遊んでいる遊具で、慣れ親しんでいる「登り棒」を競技に取り入れた種目です。5歳児の「大中里オリンピック」と名付けられた競技で、日頃の遊びがそのまま保護者のみなさんに披露されました。勝ち負けはなく落ち着いて正確に・丁寧に・一人ひとり挑戦しました。  

 

成長を見守ってもらい、認めてもらい、自己承認欲求は満たされます。

その結果、一人ひとりの自己肯定感情が育てられていくのです。

 

どの種目にも3密にならないように創意工夫が見られました。大人は常にマスク着用です。

 

5)研究の考察と結論

 

新型コロナウィルス感染症の起源は、2019年12月、中国武漢市からの報告で始まった。日本では2020年1月に最初の感染者が確認されました。その後、世界的なパンデミックとなり、以来2年間余の長きにわたり、世界規模であらゆる社会生活は混乱が続き、保育・幼児教育の現場も例外ではなかった。本研究では、静岡県富士宮市の感染レベルを的確に判断し、安心安全の内容で運動会を実施した大中里こども園の細心の対応を具体的に明らかにすることができた。

 

結論は、新型コロナウィルス感染症と対峙し安心安全の運動会実施にあたり、適切な制約や縮小化を図りながら、本来の保育理念「子どもの目線に立ち」「子ども主体の保育」「子どもの最善の利益の追求」を見失うことなく運動会のあり方について合意し、保育教諭・職員・保護者は団結し、細心の注意を払って取り組んだ新型コロナウィルス感染症禍中の運動会は高く評価される。