「ゆうちょ銀行」など数々の人気CMを手がけた中江和仁が20年の構想を経て脚本と監督を務めた『嘘を愛する女』は、恋人の大きな嘘に翻弄されるキャリアウーマンの葛藤と真実の愛を描いたラブストーリー。
本作で、恋人役を演じるのが『世界の中心で、愛をさけぶ』以来、映像作品では14年ぶりの共演となった長澤まさみと高橋一生。ともに日本の映画界に欠かせない存在となった2人が撮影現場での思い出から、作品を通じて感じたこと、そして久しぶりの共演についてたっぷりと語ってくれた。
■由加利の愛は、初めは打算的?長澤まさみが分析
ーー長澤さんが演じた由加利は、かなり気の強い女性でしたね。演じていて難しかった点はありますか?
長澤:監督からは、とにかく嫌な女を演じてくれという注文があったので、それを常に意識するっていうのが難しかったです。嫌な女っていうのは、一体どういうものなのかなっていう。(由加利は)自分本位な人なので、仕事に対しても何に対しても前のめりで、自分を曲げないというところが強さでもあるんですけれど、そういうところが嫌な印象になってくるのかなと…。
ーーご自身に似ているところはありましたか?
長澤:いや、私はあんなに(はっきり自己主張を)言えないですね。仕事のパートナー、マネージャーさんとか信頼している人には腹を割って言いますけど、ボーイフレンドなどの異性に対してはきっちゃん(桔平)に言っていたような感じでは言えないです。
ーー高橋さんが演じた桔平はベールに包まれたミステリアスな役所でした。観客にも違和感や不安感を感じさせなければなりませんよね。難しかったところはありますか?
高橋:あまり意図的にやりすぎると、打算的になってしまうので、そういう(嘘をついている)ことはあんまり考えないように演じていました。脚本が秀逸だったので、ある程度の余白だったり、そういうものを大事に演じさせていただきました。そうすれば、中江監督は細かくお芝居を観てくださる方なのできっと大丈夫だろうと。
ーー冒頭に桔平が由加利を駅で助けるシーンがあります。観客目線からすると、その瞬間から桔平に恋に落ちていたのですが、長澤さんが由加利だったら、どの瞬間で恋に落ちたと思いますか?
長澤:そうなんですね(笑)!おっしゃる通り、助けてもらった瞬間だと思うんです。由加利は嫌な女なので、「きっちゃんみたいな人とパートナーでいる自分」っていうことに対しての優越感みたいなものを持っていたと思います。感情的に好きになる、恋に落ちるという感覚も半分、この人だったら私に釣り合う、みたいな思いがあったのかなという風に思いました。
ーーそれは桔平の医者としての将来性とかも考えて?恋する女子という感じではなく、少し冷めた感じもあったのでしょうか。
長澤:そう思います。そういう(どこか冷静な)感情ではじめはスタートしているのだと思います。それで、後から自分自身の本当の気持ちに気づいていったのだと考えています。
©2018「嘘を愛する女」製作委員会
ーー作品の中で、由加利と桔平が5年間の交際・同棲の間にお互いに息苦しさや不安を感じてしまうシーンも描かれています。そういった感情に共感はしましたか?
長澤:私は由加利とは似ていなくて、どちらかと言うときっちゃんタイプなので、多分きっちゃんみたいな何も言わないような人と一緒にいたら、お互いどんどん言えなくなっていって、「……沈黙」みたいになりそうです(笑)。「なんでわたしはこの人と一緒にいるんだろう?」みたいな(笑)。両方とも溜め込んだら、なにも始まらなさそう……(笑)。だから、どちらかというと由加利みたいな人といる方が私はいいです。
高橋:僕も多分桔平っぽいところがあると思うので、(相手に)言われていた方が楽です。「黙っていたら分からない」って言われて、「じゃあ、言います」っていう方がいいのかもしれません(笑)。
長澤:そうですよね(笑)。ただ、私自身の感覚としては「なんで、きっちゃんは由加利を好きなんだろう」というのが最後まで分からなくて。あんなに強くて、「あれやれこれやれ」みたいなことを言って……よく嫌じゃないな、どこが好きなんだろうって思っていました(笑)。
©2018「嘘を愛する女」製作委員会
ーーその気持ちも分かります。高橋さんは桔平が由加利のどんなところに惹かれたと思いますか?
高橋:(由加利は)一生懸命戦っている人なんだ、と。そういうところに惹かれているんだと思います。僕が桔平として見ている由加利さんは、必死に仕事を頑張って、帰ってくると酔っ払っていて、ぐでぐでになって寝ていて…そういうところを支えてあげたいという気持ちが自然と出てくるんじゃないかと思いました。
■実在する事件がモデルも「あまり意識はしてなかった(高橋)」
©2018「嘘を愛する女」製作委員会
ーー実際にあった事件に着想を得た作品とのことですが。何かそのことで感じることはありましたか?
高橋:事実であるということを、僕自身は、あまり意識していなかったです。やっぱりお芝居をして、事実であることが邪魔になってしまう場合もあるので。観てくださる方たちには、観たあとに「あ、本当にあったことなんだ……」くらいに思ってもらえればいいかと思います。説得力を持ってお芝居をしなければならないというのは、どの作品も一緒だと思うので、あまりそれは意識してませんでした。
長澤:事前に監督から、熱のこもったお手紙をいただきました。事件の記事も入っていて、監督がそれを見つけた経緯とかも書いてありました。監督の作品に対する愛情をすごく感じました。親心のような。
■『世界の中心で、愛をさけぶ』での共演から14年「僕らの仕事は毎回クラス替えなので…」
ーー映像作品では『世界の中心で、愛をさけぶ』以来の14年ぶりの共演ですね。印象に変化などはありましたか?
長澤:その間に舞台『ライクドロシー』でもご一緒しているんですが、今回初めてこんなに喋ったかもしれないです。
高橋:そうですね。
長澤:前回の舞台でだいぶしゃべるようになって。今回はくだらない世間話から、なんで由加利はきっちゃんがこんなに好きなのかな~とか現場で喋っていました。
撮影に入る前に、2人が住んでいるマンションでエチュードをやって。空気感を確かめる日でもあり、お互いが家に慣れる日でもあって。それで久しぶりにお会いして。あぁ、始まるなぁという実感が沸いてきて、徐々に距離感を掴んでいきました。
高橋:14年前は本当にお話していないんです。お芝居で絡むことも少なかったですし。舞台でご一緒させていただいたときに、ポツポツ話すようになったんですが、僕らの仕事は毎回クラス替えみたいなものなので、その都度、役柄によって接し方が変わってしまうことがあります。「初めまして」な部分が、いつもどこかにあるんです。なので、長澤さんがおっしゃっていたように、初日の1日前にエチュードをやらせていただいて、そこでなんとなく距離感のようなものが掴めた気はします。やらせていただけてよかったと思います。
ーー長澤さんは、瀬戸内での撮影はいかがでしたか?
長澤:あれは、もう海原さんという強烈なバディがいてくれたので(笑)。由加利としては不安な旅なんだけど、(海原という)支えがいるということで、1人じゃないっていうのはやっぱり心強いんだろうなと思いました。撮影に行く前から、いい感じの珍道中になりそう、いい2人になりそうって予感がしていました。思った通り、お互いのキャラクターが良い感じで合っていて楽しく撮影できました。
ーー瀬戸内ロケは2人のシーンを全て撮影してから行われたのですか?
長澤:はい。桔平と由加利の愛がどれだけ本物のように見えるかというのがこの話のミソなので、そういう意味でも、はじめにきっちゃんとのシーンを撮ってくださったんだと思います。彼女にとっては、信じるものが、彼と過ごしたあの時間にしかないという状態ですから。
■由加利にとっては、どんな彼も「きっちゃん」
ーー作品の中で、由加利は桔平を「きっちゃん」と呼びますが、名前にはどんな意味を持っていると思いますか?
高橋:名前は器っぽいですね。「器決め」みたいなところがあるから、名前によって縛られるということはたくさんあると思う。名前がなくなっちゃうと他者との境界線みたいなものがどんどん薄れていくような気がします。夫婦生活を送ったことがないから分からないですけれど、そのうち「おい!」とか言うようになってくるんですか?(笑)
長澤:「お母さん」とか「お父さん」とか(笑)!
高橋:そうそう。そうやってわざと曖昧にしていく節があるんじゃないかなと思っています。「パパは~」って自分で言ってみたり。名前というものがどんどん曖昧に……わざと曖昧にしてくのかもしれない。不思議です。
長澤:私は名前によって「自分にとって相手がどんな人なのか」というのを決めている感じがあります。というのも、私も由加利のようにあだ名で呼ぶのが好きだから。由加利にとって「きっちゃん」は「きっちゃん」でしかなくて。自分でそのキャラクターを決めている感じがあるので。変なあだ名をつけたほうが、愛着がわきます(笑)。
Photography=Mayuko Yamaguchi
Interview=Ameba
映画『嘘を愛する女』は、1月20日(土)より全国ロードショー