新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」。2月は横浜港で停泊する姿が連日報道されたが、その裏側では民間救急を担う群馬県大泉町のバス会社「スター交通」が感染者搬送に奮闘していた。(敬称略、竹田迅岐)
- 緊急性を要しないものの医療処置が必要な傷病者らを入院や転院などで搬送する民間事業。
コロナ感染者、搬送を決断
2月9日夕、社長の碓氷浩敬(48)の携帯電話が鳴った。「感染者が増え続けて運ぶ手段がない。バス、出してもらえないか」。切迫した声の主は、民間救急事業者で作る「全民救患者搬送協会」の理事長・小谷哲司(55)だった。神奈川県の協力要請を受けて、搬送用の車両の確保を急いでいた。
クルーズ船には3000人以上が乗船。最終的に700人以上にもなる感染者は、この時点で70人だったが、不気味に増え始めていた。同県健康危機管理課の吉田和浩(47)は、救急車の確保が追い付かない状況に焦りを感じていた。バスならまとめて搬送ができる。だが、手を挙げる会社はない。連絡を受けると小谷は、迷うことなく碓氷に電話した。「碓氷さんは感染症訓練でも指導的立場。絶対に引き受けると思ったよ」と振り返る。
ただ、碓氷は即答できなかった。横浜市は営業区域外。テレビなどで社名が報道されると風評被害も懸念される。社員の生活は守れるのか――。30分ほど考えて、迷いは晴れた。「非常時で命に関わる人がいる。他社が行けないのなら自分たちが行こう」
車内での二次感染対策…「大人用おむつ」をはいた
防護服や手袋、マスクは会社の事務所に残されていた。数年前に感染症患者の搬送訓練をしていたからだ。運転手には専務の新井康弘(63)を指名した。決断から約16時間後の10日午前9時。53人乗りのバスは横浜港に着いた。
翌11日に神奈川県の担当者から意外な搬送先を打診された。静岡県の病院だ。碓氷は「もはや近場の病院だけでは収容しきれないほど事態は深刻だ」と察した。
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