「ふざけんなー! ブタ―ーーーーッ!」

 

ヒカルが立ち上がり

 

雨宮の両肩をつかんで

倒そうと思ったようだが

 

息切れが激しく

思うようにいかない・・

 

雨宮もヒカルの両肩をつかみ

お互い腕のバランスで均衡を保つように

動かなくなった。

 

はぁ・・・はぁ・・

 

男でも喧嘩の場合、起動から停止まで

素人だと1分が限界だろう。

 

女ならもって30秒・・

 

2匹のネコの限界がきたようだ。

 

「やめなさい!雨宮先生!」

 

教頭が雨宮をヒカルから剥がした。

 

「死ね!クソがーーーーーーッ!」

 

ヒカルの前蹴りが

雨宮の腹に炸裂した!

 

ぐぇ・・・・ぇ・・ぇ・・・・

 

両腕を教頭に抑えられていた雨宮に

防ぐ手立てはなかった・・

 

あっけない幕切れといったところか・・

 

教頭が手を離すと

雨宮は崩れて床に倒れた。

 

倒れた雨宮の顔と目が合った。

 

何かを言っているようだ。

 

・・・ス・・・キ・・

 

狂っているのか?

 

2人とも身長は同じぐらいだが

ボクシングの階級では2階級ぐらい違うだろう。

 

まだ動ける30代女が小学5年生に喧嘩で

負けるはずはないが

 

教頭の羽交い絞め反則プレーで

ヒカルが勝ったようになってしまった。

 

吹き荒れる昭和の校内暴力・・

 

あかーん あかんでー

 

「いい加減にしなさい!前島君!」

 

ガラ ガラ ガラ

 

教頭がヒカルの両肩を両手でつかみ

力ずくで引きずり、放送室から2人で

出て行った。

 

「離して!!・・まだよ!!まだなのよ!!」

 

大人の男の力にヒカルの抵抗は

通用しなかった。

 

・・・ス・・・キ・・・ヨ・・・

 

雨宮はまだつぶやいていた。

 

 

「まったく・・どうなっているんですか?」

 

教頭のみが戻って来た。

 

「前島くんは帰しました・・・」

 

「雨宮先生!ここで何をしていたんですか?

その布団は???」

 

教頭が雨宮に説明を求めた。

 

ゆっくりと体を立ち上げ、布団の上に

女座りをした雨宮。

 

「ワタシ・・体調が悪いと・・ここで寝ているんです・・

そのための布団です・・」

 

「え?保健室には行かないのですか?」

 

「保健室は生徒がいるのでちょっと・・」

 

この女、それらしい嘘を言い始めたな・・

 

放送部の担当をしている雨宮

嘘が本当のように聞こえた。

 

「前島さんが言っていたシンジとは三浦シンジくんの

ことですか?」

 

尋ねる教頭

 

「さあ・・おそらく・・」

 

とぼける雨宮

 

「彼はどこに?」

 

尋ねる教頭

 

「知りません・・・帰ったのでは・・」

 

とぼける雨宮

 

「雨宮先生・・暴走は危険です・・

うまくやりましょう・・お互い・・」

 

「・・・え?・・・なんですか・・それ?」

 

何やら雲行きが怪しくなった・・

 

教頭の目が輝きを増した・・

 

「子供たちは養分です・・細く長くいきましょう・・」

 

「・・・何いってるんですか・・気持ちが悪い・・」

 

おーい 隠語風でよくわからんが

教頭も変態なのか?

 

「あなたがここで何をしていたのか・・私は知っています」

 

チラ

 

教頭が俺の方を見た!

 

見た気がした?

 

「まあ、いいでしょう・・

ただし、さっきみたいな暴走はダメです

目立つことはNGです・・あなた、他の先生に

恨まれますよ・・」

 

無言の雨宮・・

 

「今日は帰ってください。前島さんがまだ

いるかもしれないけど、さっきみたいなことは

2度としないでくださいね!」

 

ガラ ガラ ガラ

 

放送室を出て行く教頭。

 

動かない雨宮。

 

俺は戸棚から出て立ち上がった。

 

ガラ ガラ ガラ

 

顔を出して廊下を見た。

 

キョロ キョロ

 

人の気配がない。

 

しかし、ここから出るのは危険・・

 

めくるめく思考

 

ガラ ガラ ガラ

 

室内に入り

 

放送室の窓ガラスを開けて

 

暗くなり始めた外に体を出した。

 

雨は止んだようだ。

 

「なにしてんの!シンジくん!」

 

雨宮の言葉を無視して

 

壁についている配水管をつたい

室内履きのまま土の上に着地した。

 

雨宮が何か叫んでいたが

無視して下駄箱に向かった。

 

「おせーよ シンジ」

 

ともだちのペンタゴンが

叫んだ。

 

「おせーから探しに行くとこだった」

 

最後の逃走経路として

待機させていた男。

 

最新のGOROと月刊プレイボーイを

交換する約束をしていた。

 

俺は軽く謝り

 

下駄箱で室内履きと外履きを履き替えた。

 

室内履きは薄汚れてしまった。

 

「シンジ・・やっぱりいたのね・・」

 

ヒカルが柱から現れた。

 

「え?なに?」

 

俺はとぼけた。

 

「あんた これ入れたでしょ」

 

と、小さな紙を出した。

 

雨宮対策として

 

ヒカルの机の中に「話があるから放送室に来い」

と時間を指定した紙だ。

 

「は?なにそれ?書いてねーよ」

と言ってとぼけた

 

「あんたの字でしょ・・これ!」

 

ヒカルが突き付けた。

 

「・・・知らねー・・」

 

と無視してペンタゴンの方に駆け出した。

 

「おい・・・なんだよあれ・・・こえーよ・・」

 

ペンタゴンが下駄箱の方を見ていった。

 

振り返ると、ヒカルが悪魔に憑りつかれたように

半狂乱で何かを叫んでいた。

 

ヒカルの狂乱を無視して、正門に向かうと

見慣れた制服が・・

 

ヤンキー先輩の友達のヤリマン女が立っていた。