これまでのいきさつ:

我が家にトコジラミがいると恐れるトトリ。

それはトトリの思い込みだと考える夫。

我関せずな愛犬。

*****

 

 

夫が薔薇を贈ってくれた。

 

両手で抱えきれないくらいの、大輪の薔薇の花束。

 

かつてのわたしなら、喜んで飾っていた。

 

食卓に、出窓に、玄関に。

 

そして、数輪を自室のドレッサーに。

 

でも……

 

夫が、トコジラミのことで鬱々としているわたしを励まそうと思ってしてくれたのは分かってる。

 

その気持ちは本当に嬉しいと思う。

 

でも。

 

でも。

 

でも!!

 

今のわたしは、部屋に飾られた薔薇を見ると、癒されるどころか「怖い」と感じてしまうのだ。

 

その花びらの隙間に、トコジラミが入り込んでいやしないかと。

 

その隙間に、トコジラミが卵を産みつけていやしないかと。

 

「ありがとう……」

 

お礼を言った時のわたしの顔は、ひきつっていたかもしれない。

 

トコジラミは、夫の好意も台無しにする。

 

 

 

 

正直言って、もはやわたしは、何一つ物がない部屋に住みたくなっている。

 

トコジラミが潜む場所がないような。

 

あ、なんか、トコジラミに辟易して家財を全捨てしたカズキさんの気持ちが分かってきたような気がする。

 

そういえば、花瓶も断捨離してしまったのだった……

 

 

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