置き去りにされた小さな命~福島第一原発20km圏内 警戒区域から~

枯れ草色ばかりの圏内で、

春がそこまできてるよと教えてくれる、鮮やかすぎる梅。

この花を見つけて、また季節が巡ってきたことに

気づかされる。

美しいけれど、なぜだか哀しい花だね。

だって、ここ警戒区域での思い出は

涙でしか語れないんだから・・・。


回を増すごとに、緊迫する圏内レスキュー。

今日という今日は、心臓が止まるかと思った。





置き去りにされた小さな命~福島第一原発20km圏内 警戒区域から~


双葉町の人里離れた場所。

こんな所で牛さんに会うのははじめて。

牛さんは、殆どが群れで動いているのに、

どうしてだろう?一人ぼっち。

仲間は殺されてしまったのだろうか?

これから、新芽も出てくるから、

何とか命を繋いで欲しい。


このあと、すぐのことだった、

ポイントから道路に停めたクルマに戻ろうとすると・・・

わたしのクルマに幅寄せしてきた、

おおきなバンから、いきなり怒声が飛んでくる。

「何やってんだ!餌置いてきたのか!雷

何とか、咄嗟の言い訳で逃れるが、

無意識に身体が震えてくる。


それは、置き餌の事でクレームを吐き続けてる

某住民だった。


自分が間違ってるとは思わない。

だから、続けてきた給餌だったはず。

一方的に浴びせられる罵声に、メッタ刺しにされる。


身体が震え出すのは、悔しさからなのか、

恐怖なのか分からない。

早く冷静になれ!と自分に言い聞かせながら回るポイント。


まだ、心臓のドクドクが収まらないうちのことだった。

どこかから聞こえる、幾つものけたたましいサイレンの音。

何だか、燻した匂いもする。

そのうち、風のうなる音とともに聞こえてきたアナウンス。

「○○のほうで、火災が発生しています。

絶対に近づかないで下さい。」


置き去りにされた小さな命~福島第一原発20km圏内 警戒区域から~


煙の上がる方角を見て、愕然となる。

あ~、もう終わった。

掛けてきた捕獲器。


多分、消防車やら警察車両やらでごった返し、

そんな所に踏み込むのは無理だろう。

枯れ草だらけの圏内だし、この強風では

どこまで燃え広がるか知れない。


それでも、行くしかない。

回収不能なんてあり得ない。





置き去りにされた小さな命~福島第一原発20km圏内 警戒区域から~

この子はね、原発のそばで桜ママが保護してくれた子。


もし、この子がいてくれなかったら、

今日が最後のレスキューとなってただろう。

意気消沈したココロ、立て直す術が

どうしても見つからなかったから。


わたしのこと助けてくれたのは君だよ、

傷だらけのサビちゃん。





追記


火事は、一時帰宅した住民が

お墓で火をつけた線香が原因だったようだ。

枯れ草だらけで、その日強風だった圏内では、

あっという間に燃え広がったのだろう。

そんな中での捕獲器の回収は、

これまでのレスキューの中でも、最強に怖かった。

自分が焼け死ぬのは仕方ないけど、火事現場のそばに

捕獲器を置き去りにするのは許せない失態だった。


それなのに・・・

警察車両の合間をかいくぐって回収した捕獲器は空っぽ。

火事が燃え広がり警備が厳しくなるのを警戒して

他に掛けた捕獲器も、即座に回収することとなった。



大震災より二年が経とうとする今日。

特番を組むためか浪江駅のそばでは、

NHKのテレビカメラのクルーが数十人

交差点を陣取ってた。


どうして、この場所なのだろう?

警戒区域と限定するなら、

もっと報道するべきなのは違う場所のはず。

今でも牛舎で餓死したまま放置された、

夥しい数の牛たち。

殺処分柵でただ死を待つしかない牛たち。

人間の犯した罪を直視して欲しい。


それだけじゃない、

○○○ー○○○会場やそこまでの道すがら

無駄に配置された職員。

大きく掲示された「撮影禁止」の表示。


警備という名のもとで、何十台も連なるクルマの中、

居眠りを続ける人。

NHKのテレビカメラだって、民放なら

許されるはずもないクルーの人数。


原発の現状は何も知らないわたしだけど・・・

警戒区域の真実を報道するとしたら、

わたしのクルマの助手席に乗って欲しい。

人間の犯した過ちと

人間の汚さ

嫌というほど味わえるから。