枯れ草色ばかりの圏内で、
春がそこまできてるよと教えてくれる、鮮やかすぎる梅。
この花を見つけて、また季節が巡ってきたことに
気づかされる。
美しいけれど、なぜだか哀しい花だね。
だって、ここ警戒区域での思い出は
涙でしか語れないんだから・・・。
回を増すごとに、緊迫する圏内レスキュー。
今日という今日は、心臓が止まるかと思った。
双葉町の人里離れた場所。
こんな所で牛さんに会うのははじめて。
牛さんは、殆どが群れで動いているのに、
どうしてだろう?一人ぼっち。
仲間は殺されてしまったのだろうか?
これから、新芽も出てくるから、
何とか命を繋いで欲しい。
このあと、すぐのことだった、
ポイントから道路に停めたクルマに戻ろうとすると・・・
わたしのクルマに幅寄せしてきた、
おおきなバンから、いきなり怒声が飛んでくる。
「何やってんだ!餌置いてきたのか!」
何とか、咄嗟の言い訳で逃れるが、
無意識に身体が震えてくる。
それは、置き餌の事でクレームを吐き続けてる
某住民だった。
自分が間違ってるとは思わない。
だから、続けてきた給餌だったはず。
一方的に浴びせられる罵声に、メッタ刺しにされる。
身体が震え出すのは、悔しさからなのか、
恐怖なのか分からない。
早く冷静になれ!と自分に言い聞かせながら回るポイント。
まだ、心臓のドクドクが収まらないうちのことだった。
どこかから聞こえる、幾つものけたたましいサイレンの音。
何だか、燻した匂いもする。
そのうち、風のうなる音とともに聞こえてきたアナウンス。
「○○のほうで、火災が発生しています。
絶対に近づかないで下さい。」
煙の上がる方角を見て、愕然となる。
あ~、もう終わった。
掛けてきた捕獲器。
多分、消防車やら警察車両やらでごった返し、
そんな所に踏み込むのは無理だろう。
枯れ草だらけの圏内だし、この強風では
どこまで燃え広がるか知れない。
それでも、行くしかない。
回収不能なんてあり得ない。
もし、この子がいてくれなかったら、
今日が最後のレスキューとなってただろう。
意気消沈したココロ、立て直す術が
どうしても見つからなかったから。
わたしのこと助けてくれたのは君だよ、
傷だらけのサビちゃん。
追記
火事は、一時帰宅した住民が
お墓で火をつけた線香が原因だったようだ。
枯れ草だらけで、その日強風だった圏内では、
あっという間に燃え広がったのだろう。
そんな中での捕獲器の回収は、
これまでのレスキューの中でも、最強に怖かった。
自分が焼け死ぬのは仕方ないけど、火事現場のそばに
捕獲器を置き去りにするのは許せない失態だった。
それなのに・・・
警察車両の合間をかいくぐって回収した捕獲器は空っぽ。
火事が燃え広がり警備が厳しくなるのを警戒して
他に掛けた捕獲器も、即座に回収することとなった。
大震災より二年が経とうとする今日。
特番を組むためか浪江駅のそばでは、
NHKのテレビカメラのクルーが数十人
交差点を陣取ってた。
どうして、この場所なのだろう?
警戒区域と限定するなら、
もっと報道するべきなのは違う場所のはず。
今でも牛舎で餓死したまま放置された、
夥しい数の牛たち。
殺処分柵でただ死を待つしかない牛たち。
人間の犯した罪を直視して欲しい。
それだけじゃない、
○○○ー○○○会場やそこまでの道すがら
無駄に配置された職員。
大きく掲示された「撮影禁止」の表示。
警備という名のもとで、何十台も連なるクルマの中、
居眠りを続ける人。
NHKのテレビカメラだって、民放なら
許されるはずもないクルーの人数。
原発の現状は何も知らないわたしだけど・・・
警戒区域の真実を報道するとしたら、
わたしのクルマの助手席に乗って欲しい。
人間の犯した過ちと
人間の汚さ
嫌というほど味わえるから。