「海運王」オナシスは、1975年、75歳で世を去りました。遺産は一兆円といわれます。
睡眠3時間で猛烈に働き、20代後半には億万長者。財産は小国以上でした。
「金は道徳よりも強い」と豪語し、「世界の歌姫」マリア・カラス(オペラ歌手)を愛人とし、故ケネディ大統領の未亡人のジャクリーンも手に入れるなど話題に事欠かない人でした。
しかし晩年は、それらの女性とも別れ、重症筋無力症に冒されます。
彼の最期を看取ったのは、長女一人。莫大な遺産を受け取ったこの長女も、醜い遺産相続の争いを目の当たりにし、「オナシスの名前を聞きたくもない」と吐き捨てるように言っています。
「私はまさに金を稼ぐマシーンだった」(アリストテレス・オナシス)
いかにも大金持ちらしいこの言葉は、こう続きます。
「生涯は、黄金のじゅうたんを敷き詰めたトンネルの中を走ってきたようなものだ。トンネルの向こうに幸せがあると思い、出口を求めて走ったが、走れば走るほど、トンネルもまた長く延びていった。
私が死ねば、何も残りはしない」
I've just been a machine for making money. I seem to have spent my life in a golden tunnel looking for the outlet that would lead to happiness. But the tunnel kept going on. After my death there will be nothing left.
「黄金のトンネルは、どこどこまでも延びていき、結局幸せにはたどりつけない」。オナシスの人生は、私たちに、そう語り掛けてきます。
王様が象牙の箸を使い始めたら気を付けよ
中国に「箕子(きし)の憂い」という言葉があります。『韓非子』に記された次の話から生まれたものです。
かつて中国に殷(いん)という王朝があり、紂(ちゅう)という王がいました。端正な顔立ちで弁舌に優れ、頭の回転が速く、猛獣を殺すほどの豪傑だったといいます。
ある日、紂王が象牙の箸を作らせました。それを知った家臣の箕子が「これは危険だ」と口ずさみました。天下の王が、ちょっと高価な箸を所望したくらいで何を恐れるのかと周囲の人はいぶかりました。その時、箕子はこう語ったのです。
「象牙の箸を使えば陶器の器では満足できず、玉(ぎょく)の器を作る事になろう。
そして、玉の器には山海の珍味をのせる事になるだろう。
そうなると衣服も宮殿も豪華になり、贅沢が止められなくなるに違いない」
箕子の不安は的中。紂王は、愛妾に溺れ、日夜宴会を開き、乱交にふけった。この時、林に見立てて肉を天井から吊るし、池に見立てて酒を溜めた。これが度を過ぎた享楽をあらわす「酒池肉林(しゅちにくりん)」の語源となったのです。
かくて殷王朝は、太公望らによって滅ぼされ、紂王は焼身自殺したといわれます。
また、中国の歴史の中でも代表的な漢の時代(漢字の「漢」は漢民族の「漢」からきている)に、中国全土を平定した武帝(ぶてい)もこう言いました。
「歓楽極まりて哀情多し」
(喜びを究めると、かえって哀しみが多くなる)
欲にはキリがなく、第1の幸せをどれだけ手にしても常に不満や空しさがつきまとい、身を亡ぼす種にさえなるのです。
ビル・ゲイツ氏曰く
「金持ちで得することはあまりなく、自分の子どもたちに大金を残したとしても彼らのためにならない」
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