“警察小説×『仁義なき戦い』”と評される柚月裕子原作のミステリー小説を『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』で日本映画賞を総なめにした白石和彌が映画化した『孤狼の血』は、昭和63年の広島を舞台とした警察、あるいは暴力団という組織にいながらも"誇り"を賭けて生々しく、荒々しく生きる男たちの物語。

 

本作で、ヤクザとの癒着が噂される刑事・大上を演じているのが日本を代表する名優の役所広司。「元気のある日本映画を作りたい」という監督の思いに心を動かされ、現場に入った役所がこの作品を通して感じたこと、そして俳優として日々感じていることとは…?

 

 

■映画が流行を作ってきた時代を…『孤狼の血』への思い

 

――『孤狼の血』は原作者の柚月裕子さん、白石監督、スタッフもすごく思い入れのある作品だと思うのですが、最初にオファーが来たときはどのように感じましたか?

 

役所:映画の脚本は原作よりもちょっと愛嬌があるキャラクターになっていましたけど、「こういう映画、久しく観てないな」と思いました。白石監督と初めてお会いしたときも、「元気のある日本映画を作りたいんです」とおっしゃっていて。すごく興味を持ちましたし、ぜひ参加したいと思いました。

 

――映画を拝見したのですが、スクリーンから燃えたぎるものが伝わってきました。

 

役所:ありがとうございます!こういう映画は、僕が若いときはよく単館系でやっていたんです。予算的にも厳しい中で、熱くて激しい映画を作っていた時代。いろんなものが映画になっていて、今よりバラエティーにも富んでいた気がします。あの頃は非常に面白かった時代だったんだなと、改めて思いました。

 

――作品の中には、そんな時代を代表する『仁義なき戦い』を思わせるシーンも散りばめられていますよね。こういった東映の看板のような作品へ出演することに関して、思い入れはありましたか?

 

役所:深作(欣二)監督の『仁義』シリーズは、僕も観ていました。こういう男たちがかっこいいという時代がまた来ると、日本映画界も活気が出てくるんじゃないでしょうか?

 

――男が女を命懸けで守る…というような。

 

役所:そうそう。こういうアウトローなヤクザの世界の物語でも、この人たちは命を懸けているので。死との境目にいる、その生き様というのはドラマとして描きやすいのかもしれない。そういう作品がもう少し増えてもいいんじゃないかとは思います。

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

――いまの日本映画界には、ここまで勢いや力強さがある映画はなかなかない気がします。

 

役所:今は、これだったらヒットするだろうっていうものをどこかから引っ張ってくることが多いですよね。でも、もともとは映画が流行を作ってきた時代があった。そのためには、やっぱり映画界が頑張ってオリジナリティーのあるものを作らなきゃいけないんだと、この作品を通して感じました。

 

 

■松坂くんは「成長する過程が見事でした」

 

――役所さんが演じられた大上は、一面的な部分から見るとどうしようもない刑事に見えますが、日岡(松坂桃李)が大上の周りの人と関わっていくうちに「実はこういう人なんだ」という本来の姿が見えてくるようなキャラクターでした。大上を演じる上で、一番大切にされたことを教えてください。

 

役所:根っこは正義の味方だと思うのですが(笑)、それをことさらに「自分がやってることは本当は正義なんだ」ということではなくて。自分が目指すところに行き着くための一番良い方法だと信じてるだけなんですよね。「僕はいい人なんだよ」というのは見せず、悪いやつは悪い、やることは悪いやつ、ということをはっきりしたほうがいいかなと思い演じていました。

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

――日岡との関係も、この作品の中では大きな鍵になってくると思うのですが、日岡とのバディ感を出すために意識したことはありますか?

 

役所:表現としてはとくに必要ないと思いながらも、気持ちの上では「あ、こいつが自分の後を引き継いでくれる子かもしれない」というのは大切にしていました。日岡の正義感は青くはあるんですけど、そういう彼本来の持っている正義に対する思いは正しいことは正しいですし。これからは、日岡が自分(大上)の意志を本当に受け継いでくれる刑事かもしれないっていう希望みたいなものがあったのではないかと思います。

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

――そんな日岡を演じる松坂さんは、役所さんから見ていかがでしたか?

 

役所:後半にかけてだんだん成長していく過程は非常に見事でした。「孤狼の血」の続きがあるなら、松坂くん演じる日岡が呉の街で活躍する姿を観たいですね。

 

 

■女性にも「バカだねぇ」と男の生き様を見てほしい

 

――今回、白石監督とご一緒するのは初めてということですが、監督の演出を受けていかがでしたか?

 

役所:白石さんは若松(孝二)監督のところで育ってきたからなのか、昭和の監督の雰囲気がありますよね。芝居を見て、カットを割って、それで自分がこのカットが欲しい、このカットは映画の為に大切だっていう芝居を粘り強く時間を掛けて撮る。編集でどうこうしようじゃなくて、もう監督の頭の中には必要な画が見えている。必要なカットを丁寧に撮る監督なんだと思いました。

 

――特に印象的だった演出があれば教えてください。

 

役所:たんを吐くシーンです(笑)。たんを吐くシーンが3カ所ぐらいあったんですけど、カーッ、ペッってやってと。えっ!?と思いましたけど(笑)。

 

――なかなか映像の中でカーッ、ペッというのは見ない気がします(笑)。

 

役所:師匠である若松監督のイメージでオマージュもあったんでしょうね。ある意味、昭和のアウトローを出すのには大事な演出かもしれないなと思いながら思い切りやりました(笑)。

 

――他にもアウトローな部分、暴力のシーンなども多かったですよね。もしかしたら、女性は苦手な人が多いかもしれないのですが、そういった部分をどういうふうに観ていただきたいと思いますか?

 

役所:「バカだねぇ、男って。」というような、でもかわいいなという感じで見てくれると女の人も受け入れてくれるんじゃないかなと。本当に、もうバカなことをするんですね、男の子は(笑)。

 

――でも、そんな男らしさが昭和っぽいですよね。

 

役所:はっきりしてますよね、この男の描き方が。僕も昔、恥ずかしいですけど、この手の映画を観ると気分が変わっていました。映画館に入っていく自分と出てくる自分が全然変わってるような。…映画館を出て、カーッ、ペッって!それはやりませんでしたけど(笑)。


 

■役所広司が考える“俳優”とは?

 

――先ほど大上という人物自体が「根っこは正義だっていうことは見せない」とおっしゃっていました。そのあたりは俳優というお仕事に通じるのかなと思ったのですが、役所さんはどのようにお考えですか?

 

役所:そうですね。俳優という職業もやっぱり根っこは見えない。「この人は、本当はどんな人なんだろう…」とお客さんに想像してもらえる表現がいいような気がします。

 

――最近は、メディアを通じて俳優さんのプライベートが分かったりもしますが、役所さんは未知な部分も多いですよね。そのあたりは、日頃から意識なさっているのでしょうか?

 

役所:そのほうがいいだろうなとは思います。こうして映画の宣伝の為に皆さんとお話しする時は、どうしてもプライベートな話題にもなりますが…。でも本来はやっぱり俳優はすごく白紙なほうがいいんだと思います。得体が知れない方が見てるほうも楽しいでしょ?

 

――なるほど。多彩な作品にご出演なさっている役所さんですが、あらためて俳優としての面白さを挙げるとしたら?

 

役所:日常生活では吐けないようなことも、役を借りて堂々と語れることですね。役者の仕事の醍醐味かもしれません。あとは、現場に行って、スタッフやキャストと作品を作っていくときに、自分が想像しなかったような気持ちや解釈がふっと一瞬でも出てくる瞬間があって。それが面白いなと感じています。

 

Photography=Seiji Nohara

Interview=Ameba

Hair&Make:KATSUHIKO YUHMI(THYMON Inc.)

Stylist:Tomoko Yasuno(コラソン)

<衣裳協力>GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ) 問い合わせ先:ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社 03-6274-7070
 

映画『孤狼の血』5月12日(土)全国公開

映画『孤狼の血』公式サイト

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

【STORY】

物語の舞台は、昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島。所轄署に配属となった日岡秀一は、暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾とともに、金融会社社員失踪事件の捜査を担当する。常軌を逸した大上の捜査に戸惑う日岡。失踪事件を発端に、対立する暴力団組同士の抗争が激化し…