昭和63年の広島・呉原を舞台に、暴力団の抗争と警察内外のしがらみをスリリングに描いた映画『孤狼の血』。“警察小説×『仁義なき戦い』”と評された作家・柚月裕子による傑作小説を、『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』の白石和彌監督が映画化。今の日本でここまでできるのか、と驚くほどの衝撃シーンの連続、男達の力強い生き様に、観た人は必ず惹き込まれるだろう。

 

本作で、役所広司と共に主演を務めているのは松坂桃李。昨年公開され大きな話題となった『彼女がその名前を知らない鳥たち』に引き続き、白石和彌監督とタッグを組み、役所演じる大上に翻弄される若手刑事・日岡を熱演している。「役所さんと同じで小細工で演技をしない」と松坂を絶賛する白石監督と「驚きのシーンの連続だった」という松坂に話を聞いた。

 

 

■編集していて気付く「桃李君、頭いいな~」

 

――映画拝見しまして、エンターテイメントとして面白く、男の生き様に燃える素晴らしい作品でした。松坂さんは白石監督とは2回目のタッグとなると思うのですが、また新しい一面を引き出されたな、と思う事はありましたか?

 

松坂:はい、だいぶおもちゃにされましたね(笑)。それが心地良いというか、楽しくて。良い思い出しかないです。撮影は朝まですることもあって、体力的にもキツかったんですけどね。

 

白石:撮影が長引いて、最初は300人くらいギャラリーが、最後には2人くらいになった時もありましたね

 

松坂:徐々に減っていきましたよね。

 

白石:もう、最後の2人には「桃李くんハグしてあげたら?」って言いましたけど。

 

松坂:結局ハグはしていないんですが、呉の皆さんはすごく温かかったですね。

 

 

――松坂さんと日岡というキャラクターの共通点はありますか?

 

白石:向かっていく物事に対して真っ直ぐな所は、桃李君が役に対して真っ直ぐな所とすごく似ているなと思っていました。

 

松坂:僕が役所さんに向き合う感じが、日岡がガミさん(大上)に向き合う感じと同じというか。そうでありたいなと思っていました。似ている部分があるかどうか、自分では客観的に見れないのですが。

 

――なるほど。日岡という役は特に、劇中での変化があり、演出も難しかったのではないでしょうか。

 

白石:原作者の柚月裕子先生が『仁義なき戦い』の世界観で描きながら、刑事ものとしてのミステリーもしっかり描いているところがすごく面白くて。でもその面白さが日岡というキャラクターを超絶難しくしていて。新人刑事の様であって、新人刑事ではないので、それをどうやって見せていこうかと考えました。ガミさんもどこから何に気付いていたんだろう? とか。探っていくとお互い化かし合いなんですよね。日岡がとある出来事をきっかけに変わっていくわけですが、その変わりはじめていた気持ちがどこらへんからなんだろう、とか。編集をしていくうちに自分でも気付いたり。

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

――監督ご自身が編集中に登場人物の気持ちに気付く、という事があるんですね。

 

白石:桃李君は不思議とそれが多いんですよ。普通現場で気付いたりするんですけど、桃李君は編集していて「あ、これ正解だな。頭いいな~」って思ったり。
 

松坂:ええっ、そうなんですか?! 僕は日岡がガミさんと行動していく中でいろんな事を知っていって、変わっていく過程を少しずつ見せたいなと思っていました。最後に「え?」って感じにならないように、気をつけていました。

 

 

■撮影はテンションが上がりっぱなし

 

――一番テンションの上がったシーンはどこですか?

 

白石:ファーストカットが、役所さんと桃李君がパチンコ屋に入っていく前の歩きのシーンだったのですが、支度終わって出てきた2人を観た時に「あ、世界観が完成されたな」と思いました。そして、そのシーンが終わった後に役所さんが「緊張した~」と言ってて、役所さんほどの方でも緊張するんだなと。「俺、ヤクザに見えますかね?」って聞かれて、「いやいや、刑事ですから!」っていうね(笑)。最初からテンション上がりっぱなしでしたね。撮影のかなり後半に、(局部から)真珠抜くシーンとかまだあっもんなあ。
 

松坂:新しい作品が決まった時の、衣装合わせがテンション上がりますね。作品が決まって、共演者の方とか座組みにまずテンション上がって、衣装合わせしながら、あーでもないこーでもないってヒートアップして話している時が楽しくて。さらにクランクインが楽しみになるというか。シーンでいうと、僕は牛乳をぶっかけるシーンとか。真珠を抜くシーンも、撮影中に「絶対このシーンは使えないだろうな」って思っていたら、完成した映画を観たら「あ、使ってる」って(笑)。あと、冒頭のシーンは「この映画最初からこれか!」ってビックリしますよね。これ以上あるのか?!って。

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

――撮影中の無茶振りはありましたか?

 

松坂:無茶振りというか、濡れ場っぽいシーンの時に、毎回茶化すのはやめてくれって思いましたね(笑)。「できるでしょ?」みたいな。

 

白石:桃李君は何も演出しなくても濡れ場できるもんね!

 

松坂:できませんよ、全部演出ですから!

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

■彼は、一緒に勝負ができる人!

 

 

 

――改めて白石監督から見て、松坂さんの魅力はどんな所だと思いますか?

 

白石:『彼女がその名前を知らない鳥たち』をやった時から、この人(松坂さん)一緒に勝負できる人だなって気づいたのですが、その時は撮影時間も短かったし、今回ようやくガッツリ一緒にできて、桃李君の魅力に惹かれっぱなしだったなという感じです。

 

――役所さんとご一緒されて、特に凄さを感じたエピソードなどあれば教えてください。

 

白石:この役所さんの感じって、何から何まで見た事がないというか。『渇き。』(2014)とは違う感じにしたいと思いましたし、そうお話していました。小細工をしないで「剥き身で演じている」という事ですかね。腰を据えて演じられている。以前、是枝監督と少しだけお話したのですが、「(役所さんは)特別な事をしようと思わないのに特別になる」のはなんでだろうねって、2人の共通認識でした。ご本人は意識していないと思うのですが、これまでの生き様とか自分自身の力で役柄が完成してしまう感じがありました。でも、これは桃李君にも共通して言えることなんですけどね。

 

――松坂さんも同じ様に小細工をしない俳優さんだと。

 

白石:前貼りはよくしているけどね。

 

松坂:本当に、よくしていますね(笑)。

 

――松坂さんから見た役所さんはいかがですか?

 

松坂:僕は役所さんとは『日本のいちばん長い日』(2015)でもご一緒したのですが、『日本のいちばん長い日』の撮影時は役所さんはピリッとした空気をずっと纏っている感じだったんですね。でも『孤狼の血』では、演者さんスタッフさんとたくさんコミュニケーションをとって、そこがガミさんと共通していたんですよね。現場によって役への入り方を変えられている気がして、そこが自分の中で驚きでしたし、完成した映画を観た時に「役所さんにはもしかして映画の全体像が最初から見えていたのかな」と思いました。

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

――本作は男の生き様が素晴らしく描かれていますが、そんな男たちの姿を見て感じた事はありますか?

 

松坂:世の中への抗い方が現代とは全然違うと思いましたし、僕らの世代にはないアツさだなと思いました。反骨精神、打たれ強さ、そういったものの強さがものすごいなと。

 

白石:『孤狼の血』は昭和の終わりのお話で、原作小説を読んだ時にその時代設定をうまいなと思ったんですね。これは、アメリカンニューシネマだなと。日岡が大上の血を受け継いで、でもそれも長くは続かないんだろうな、と。そこに気付いた方にはものすごく哀愁のある作品で。『仁義なき戦い』の根幹には戦争があって、日本の国民が等しく貧しくなって、そこから暴力につながるという平等からはじまる物語なのですが、『孤狼の血』の核になるのは何だろうなとずっと考えていました。

 

――監督は、本作はもちろん過去作品でも、ダーティで恐い人物もすごく魅力的に描かれていると思います。

 

白石:あまり意識はしていないんですけど、でも、ヤクザだろうが刑事だろうが、男だろうが女だろうが、「悪い部分」があれば振り子の反対で「良い部分」があると思うので、見せられるタイミングがあればその反対側も見せたいと思うんですよね。カッコいいだけではダメで、それが滑稽に転ぶ瞬間も見せたい。そこが魅力につながっているのかは自分では分からないのですが、隙あればそういう演出は入れたいと思っています。桃李君はもちろんすごくカッコいいのだけど、滑稽な部分もちゃんと見せたい。前半では相当振り回されていますけど、それが後半になって彼(日岡)の魅力になっているんじゃないかなと思いますね。
 

――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

 

Photography=Mayuko Yamaguchi

Hair&Make:AZUMA(M-rep by MONDO-artist)

Stylist:Shogo Ito (sitor)

Interview=Ameba

 

映画『孤狼の血』5月12日(土)全国公開

映画『孤狼の血』公式サイト

 

©2018「孤狼の血」製作委員会

 

【STORY】

物語の舞台は、昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島。所轄署に配属となった日岡秀一は、暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾とともに、金融会社社員失踪事件の捜査を担当する。常軌を逸した大上の捜査に戸惑う日岡。失踪事件を発端に、対立する暴力団組同士の抗争が激化し……。